6.歩く歩く
「アリスー! 起きろ! おい!」
はっ! 何時の間にか寝てたみたい。日はすっかり昇っていて周りの景色は明るい光ものとに輝いている。昨日は疲れたから、そう疲れてたんだよ。自分に言い訳している。意外にあっさり野宿出来ちゃった。
「さて、歩くか」
類が靴を履く。
ぐー。
隆のお腹が鳴る。昨日の何時かわからないけれど、夕方からこちらの世界の昼間になりそのまま走ったりウロウロして夜にあの夕食だったんだ。私もお腹が空いてる。運動部の二人はもっとだろう。
私も隆も靴を履き立ち上がる。街に行ってもご飯が食べれる訳じゃない。けど、とりあえず歩いてみよう。こうなったら行けるとこまで行こう。じゃなきゃ、使えない、あれを。ブルーの宝玉を。
「お腹減ったねえ」
「ああ。まあ、行くか!」
「行こう。街見たらいいんじゃない?」
うん。そうだね。目標、街まで。そうすれば、なんかあれを使えるかも。
***
「あー、これマジで一日なのかな?」
隆の不安そうな声。みんなの不安を代表している。時間の感覚がさっぱりわからない。
「わかんないけど。っていうか、魔術で移動させられるならもっと街付近がよかったなあ」
類のボヤキに賛同! どうやって移動されたかはわかんないけど、三人も運んだんだから、絶対魔法を使ってる! なんでその魔法でなんとかなんないの!
「お腹減って歩けないー!」
もう言いたいこと言ってウップンばらしだ!
「アリス腹っ減った言うな。思い出す」
類の苦情。
「じゃあ、足痛い。歩きにくいのにこの靴!」
せめて歩きやすい運動靴がよかった。
「俺、ジャージに着替えときゃ良かった」
「そしたら、首からかけてるその石のことがバレるよ!」
類のぼやきにツッコミを入れる。内心ジャージを持っていなかった私にはこれ以上差がつけられなくて良かったと思っていたりする。
「だなー。ってあの部屋じゃ着替えできないし。それで、着替えるのを諦めたんだしな」
「僕も」
「二人だけラフな格好ズルいよ」
「着替えてないんだからいいだろ」
「まあね」
類の言い分は最もなんだけどね。もう着替えるジャージないし。荷物思っていたより結構大事だったりして。まあ、私の分のジャージはないんだけど。
今さらジュンさんを恨めしく思う。価値ない物の為になんでこんなことをしたんだろう。
ジュンさん、やたらに私達に話かけてきてた。人が来ることがないのかな。街には行ってるみたいだけど……ああ、放置されるならもっと街付近が良かった。街のことを考えるとまたフツフツと怒りがこみ上げる。魔法の役立たず!
そのうち誰も口をきかなくなった。そして、聞こえるのは歩く足音とお腹の音。
もういいんじゃないと何度も言いかける。だけど、何となく言い出しにくい。
太陽が真上にきた頃、まるでひと気のなかった道に人が見えるようになった。
「ねえ、これって!」
「街近いのかのな」
私の声に隆が答える。
「だといいな」
類はクールに言い放つ。きっと期待して違っていた時のことを考えてだろう。
ひと気のといっても皆魔法で通り過ぎて行く。あれが魔馬車なんだろう。馬のいない馬車に乗っている感じだ。馬はいないんだね。やっぱり。まあ、車みたいなもんだけど。自分達が原始的なのを痛感しつつ、通り過ぎて行く人が確実に増えはじめている。やっぱり街が近いんじゃないの? という思いと魔馬車ならすぐという言葉に気持ちが落ち込む。
「あ! あれ!」
あ、歩いてる。私達と同じ魔法なしの歩きだ。歩いている人の服装は生活苦って感じがにじみ出ている感じがする。一方魔馬車に乗っている人は貧相な感じは全くない。魔馬車って高いんだね、きっと。見た感じはそんなに高価なものには見えないけれど。
ただ、歩いてる人を見て今度こそは街が近いのではと期待が高まる。
「近いのかな?」
「俺らと同じじゃない?」
隆の期待をまたもや類が打ち砕く。
確かに歩いている人は見た感じ貧相だしお金なくて魔馬車を買えないんだね。あれ? ジュンさんはどうやって私達を運んだんだろ? 魔馬車買えるなら、私達の荷物を盗む必要ないんじゃない? ちょっとジュンさんに対して怒りが芽生える。
歩いてる人が少しずつ増えていく。歩いてる人は道の端にある草花をとっている。
「ねえ、あれ」
「そうなんだ。あれって何かの為? だよな?」
類が聞く。どうみても暇つぶしには見えない。どちらかといえば必死な感じ。
「僕らもやってみよう。どうせ歩いてるだけなんだし」
「ああ。よし取るぞ」
隆の提案に類が見よう見まねで取る。私も隆も前の人や向こう側の人の取っているのを見て取る。
手には一杯の草や花。すぐにもう持ちきれなくなる。
お腹も空きまくりの足痛いのを忘れる為に私達は取り続け、だんだんと何を取っているのか、どこから引っ張ればいいとかわかるようになっていた。この草取りを軽く楽しんでいた。鞄あればもっといっぱい取れるのに。って何のためにしてるのかわからないけれど。
や、ヤバイ日が暮れてきそう。やっぱり野宿になるの? まあ、街へ行っても状況は同じなんだけど。
両手いっぱいに草や花を持った私達を見て通りすがりの人にギョッとされる。皆そんなに取ってないから? こんなに取っていいのかな? 周りの人たちはほんの一握りの草花を握りしめている。
「あ、あれ!」
巨大な門が見えて来た。門には壁が続いてる。街一個を全部壁で囲んでるんだ。あ、あれ? ここって他国に行きにくいよね? 何のためにあんなに高い塀?
「アリス! 隆! あれ!」
「あ、海だ……。あっそっか地図で見たら端っこで街はさらに外側だったっけ」
「海も普通なんだ」
意外に太陽も星もあり、海まである。両手にある草花は見たことないけど……私たちの世界にあるかないかどっちかは判定できない。見たことはないとしか言えない。
「他国は海から来れるんだ……だから塀が……」
「ああ、そうだな。そのための高い塀なんだな」
船も見えてきた。そこにはためく旗も。十二支の絵がそれぞれ描いてある。きっと国旗なんだろう。防衛の為にこんなに高い塀がいるんだ。
「ねえ、急ごう。みんな急いでるみたい」
「そうだな。これをどうするか見たいしな」
類はさっきまでとっていた草花を抱えてる両手を少し上げた。
私達は無事門を通過した。門番が立っていたので緊張したが、私達の抱えている物に目をやっていたけど何も言われず通過出来た。ふう、良かった。