5.一夜目
そして夜になりジュンさんの魔術で明かりがともる。キョウ君が何をしているか興味があって覗いたら人形に呪文をかけて人形同士を戦わせていた。すごっ! 子供でも魔術使えるって、すごい。なのにこの生活なんだ。
そういえばジュンさんは田舎者って感じじゃないし、王様がいないからこの生活になったのかな? 責任感じるなあ。
あ、これがケンタウロスの作戦? 同情から王にさせようとしている?
ジュンさんはおしゃべりだけど、私達は話を合わせてボロが出ないように、さるべく話をしないようにした。いろいろマズイことになるのを避けるために。
明日も早いし今日はもう寝ましょうというジュンさんの言葉にホッとした。気の良さそうなジュンさんの話を軽く流していることに気が引けていたからだった。こんなに気を使ってもらっているのに。
*
あ、あれ? 寒っ! そして痛い……。背中の痛さに目が覚めた。確かに布団が足りなくて夏布団を敷いてその上に寝てたんだけど。それにしてもこんなに痛くなるものだろうか。
類と隆は布団さえなくて二人は床に直接寝てたけど。……ってこれって床じゃない?
起き上がって周りを見てみる。真っ暗でよくは見えない。そして川の流れる音が聞こえる。ぞれもずっ近くに。そして、私のお尻の下は地面だった。手の感触でわかった。草が生えてるけど、これじゃあ寝れないし! そしてだんだんと暗闇に目が慣れて来た。私はもう一度辺りを見回した。一体これはどういうことなんだろう。そして……隆と類は?
良かった。二人もいる。
「類! 隆! 起きて、起きろ! 大変なんだってば!」
ガサゴソとようやく二人は目覚めて動き出した。
「え? え?」
「どこだよ? ここ!」
目覚めた二人もすぐにここが寝た時とは違う場所だということに気がついた。目が暗闇に慣れる前に川のせせらぎに手の感触に土と草の入り混じった匂いでここが家の中だとは到底思えない。だからと言って、外に寝ていた理由も思い当たらず疑問だけが湧き出ては答えのないまま次々に思い浮かぶ。
目の慣れた私は二人の姿を確認してすぐに周りを確認した。何度も見るけれどないものはないようだった。
「はめられたみたいだよ。荷物がない」
二人はまだ目が暗闇になれないんだろう、キョロキョロしている。
「ここは川のそば。靴は置いてあるから、取られたのは荷物だけだね」
靴は足元に置かれていた。本当になにかの冗談みたいに。
「おい! 類!」
「おわ!」
と、突然隆が類に声をかけて胸ぐらを掴んだ。何事? 喧嘩でも始まるのかとドキドキしていたら、掴まれた胸ぐらを類は慌てて胸元を探る。
「はあー、二つともある」
「良かったー。隠してて」
なんだそういうことか。ケンタウロスからもらった珠を取られていないかの確認だったのか。
皆でホッとため息をつく。
鞄を取られたのは痛いけど元の世界に帰れないよりは遥かにいい。しかも荷物はたいしたものは何もない……。学用品ばかりだし。
「騙されてたんだ……」
類がつぶやく。
「でも、ジュンさん悪い人じゃないんじゃないかなあ?」
「なんでだよ!」
私の言葉に類がムキになって聞いてくる。騙されて悲しいんだろう。あんなに気さくで親しげに良くしてくれてたんだから。
「だって、荷物は大した物じゃないし、身ぐるみはがされても仕方ない状況だよ。それなのにわざわざ靴が置いてある。それにここ寝る前に話てくれてた川じゃないかな?」
「あ」
「そうだね。街には行けるね」
隆が賛同してくれる。
「私達が目的地まで行ける最低限は残してくれてる」
「だな」
類も考えたんだろう。
川のそばの地面に寝かされて、荷物も取られて最悪だけど、ジュンさんを憎めない。あのご飯。きっとギリギリあれなんだろう。なのに私達にも同じ食事を出してくれた。ギリギリの生活の中で。
珍しい荷物に目が眩んだのかもしれない。苦しい毎日だったんだろう。
「でも、参ったな。戻ったら鞄も何もかもないなんて」
類が寝転んで言った。
「いいんじゃない? もうさ、一晩何も言わないで消えたんだもん。類や隆は平気でも私はそうじゃないんだし。もう大騒ぎだよ。帰ったら荷物どころじゃないって」
「だな。アリスと消えたんだから俺らも心配されてるだろうな」
類は空を見ている。見上げると星が見えた。意外。異世界だから違うと思った。何から何まで違ってるんじゃないんだ。
「戻ってから考えよう。どうせ怒られるんだし。なんかここまでくるとケンタウロスの悪意を感じるんだけど」
「あはは。確かに」
隆は笑い飛ばした。飛ばしたけど、苦笑いしてる。皆は黙る。
類の持ってる宝玉、ブルーの方で本当に元の世界に帰れるんだろうか。ケンタウロスの悪意を感じれば感じるほど、そう思えて来る。使って何もならなかったら……怖い。元の私達の世界に帰れるんだろうか。
「とりあえずまだ夜中みたいだし寝るか」
類が寝転んでいたの眠たかったからだったんだね。こんな事態で……!
「寝るか」
隆も寝転んだ。
もう! 二人はいいけど私は寝れないじゃない! 野宿なんてしかも異世界だし。昼間は悪意のある小人から逃げたばっかりなのに。
しかたないとりあえず寝転んでみる。
ジュンさんがここに私達を置いたのは偶然たまたなんかじゃないのかもしれない。草が生えてるところを選んでわざわざここに寝かせてくれたのかも。類や隆は床よりも寝心地良さそうだし。私は違うけどね。こんなとこ、地面になんて寝れないし! しのごの言っても仕方ない。寝るしかないんだから横にはなっておこう。明日どうなるかわからないんだし。また小人から逃走するのは嫌だなあ。