34.側近翼
ここは異世界、龍国王宮図書館。
「はあー」
ファウルはため息をつきつつ本を撫でていたが、本棚にしまった。
「おや、ファウル。今回も王候補に逃げられましたか」
「ああ、翼さん。そうなんです。今回は側近も二名そばにいたのであなたと三人の側近として、やっと王と側近全て揃って国を統治できる予定だったんですがね。作戦を練りすぎたのが良くなかったようで……今回の王は真っ直ぐに頼むべきだったかと」
翼はファウルの話を聞きながら先ほどファウルが持っていた本を取り出した。
「ほう、女王だったんですね。『アリス・クロニクル』と」
「ええ、彼女は最良の王になると思い、つい力が入ったもので」
僕はパラパラとページをめくる。そこにはファウルと出会った後のアリスという少女と二人の少年の物語が書かれている。王候補はファウルと接触後に記されるのだ。例え、王にはならなくても。そして王になれば王として記され、辞退すればそこで物語は終わる。
「なかなかユニークな人のようですね」
「ええまあ」
「お会いしたかったですね。ファウルを馬扱いとは」
ファウルは苦笑いしている。王と側近以外には姿を見せないファウルはこの国では高貴な存在なんだが。
「次の印は出ましたか? 王と側近二名」
王は一人、側近は三人、すべてファウルがこの世界に連れてくる。
僕も側近としてここに連れて来られた。が、王がなかなか決まらない。
なので、仕方なく僕が指揮を取っているのだが、それが王のいない危機感を薄めているのかもしれないな。
「なぜ側近二名を道ずれ扱いにしたんですか? 本当に側近なのに」
「もう、少女は帰ることを決意していた。少年達も、彼女の意思に従うと。何を言っても同じでしょうから。それに王が誰か私が最初からわかっていたのは事実ですから」
「少女はもう少年達を従えていたということですか?」
「いえ、そういう訳ではありません。彼女と共に生きることを選んでいたと言った方がいいでしょうね」
なかなか面白そうな人材だったわけか。会いたかったが、仕方ない。
「ああ、印は現れました。今回の失敗を踏まえて作戦を練ってまして」
「今回、その作戦を練りすぎて失敗したんでしょう?」
「あ、そうでしたね。今回は素直に言ってみます」
「そろそろ頼みますよ。僕一人ではもう限界がきている」
ビックダースの出現を阻んだり役人を取り締まったりといろいろ大変なんだが。
「ああ、そうでした。このアリスという少女が……」
ファウルは僕の持ってる本を見ながら最後のページを指差した。
「ほう、そうだな。壁か。食糧の確保にも雇用にも繋がるし。いいことを聞かせてもらったよ。王にという伝言だけどね」
「なぜ、あなたが王ではないのか」
「それはファウルが一番わかってるんだろう」
「では、失礼します」
ファウルがいなくなった図書館に僕一人がいる。
ここは、王と側近とファウルしか入れない。
様々な名前のクロニクルの最後に『アリス・クロニクル』を置く。
「本当に会ってみたかったよ。アリスちゃん」
僕の声が誰もいない図書館に響く。




