33.類
早過ぎたな。いつもアリスの家に隆とで迎えに行く時の待ち合わせポイントに立つ。
アリスの家のすぐ前だけど、俺たちはここで待つ。
隆の気持ちに気づいたのはいつだったろう。何気ない隆の態度で気づいた。隆に確かめたら言い返された、「類もアリスが好きなんだよね」と。
俺らってバカだよな。アリスを一人で行かせたくないと異世界までついて行ったんだ。俺ははじめから王も側近もやる気はなかった。アリスがいると決めたなら、あそこに異世界にだっていようと決めてた。俺ってバカだな。
隆は途中からあそこの国民に同情してたから迷っていたんだろう。アリスの言葉とケンタウロスの嘘で迷いは消えたみたいだけど。でも、隆もアリスの答えにあわせたんだろうな。俺らってバカ。
「よ! おはよう類!」
「うわ!」
隆が来るからと隆の家の方角を見てたんで、まさかアリスが出て来るとは思ってなかったから、驚いた。あの、アリスがこんなに早起きするなんて。
あの旅でアリスの寝起きの悪さを散々見てきたから余計に驚く。
「昨日は怒られた?」
「いや。隆と遊んでたって言っただけで。アリスは大丈夫だったのか?」
「怒られた。しかも週末に鍛え直すとかまで話弾まれちゃった」
「親父さんと稽古か、久しぶりじゃないのか?」
「うん。なんか昔の私みたいだって。どういう意味?」
「成長……逆成長?」
「そんなの聞いた事ないし」
アリスすねてるよ。親父さんの言葉をアリス気にしてたんだな。
「それよりどうしたんだよ。早起きなんて」
「なんか目が覚めたの。不安だったのかも、また宿屋かもって」
「ああ、実は俺も。意外に隆は図太いんだな」
隆の家を見ながら話した俺の肩をアリスが叩く。
「ん?」
「類、好き」
「はっ?」
アリスは俺の今のリアクションでショック受けてる。ああ。違う。
「いや、その、違う。驚いたんだ。ここで突然言うから。そういう事」
「窓から類だけなのが見えて出て来たの。二人で話す事なんてないでしょ、ずっと。だから、チャンスかと思ったんだけど……」
あ、あ、俺、さっきの返事してない。
「アリス、俺も。その、好きだ。ずっと」
ほうっとアリスは息をつく。ってか俺の気持ち気づいてなかったの? 隆も? う、残酷な。
「私の決断って類にこう言いたかったからっていうのもあるのよ」
アリスは遠くを見る。あの魔法の国を見てるんだろう。
「類が王様でも私でも隆でも、どう考えても自由な恋愛なんて出来ないでしょ?」
「ああ。そうだな」
そう返事したけど。想像して見た。限界だよ、無理だ! 王様の恋愛事情など知るか!
「でも行かないと自分の気持ちに気づかなかった。類が好きって」
それは……アリスそれは結構いや、かなりの鈍感だな。
「おはよう。今日はアリス早いね」
ああ、来ちゃったよ。隆が。話今のでまとまってたのか?
「おはよう! 隆聞いて」
隆の方にかけて行くアリス。
残酷なアリス……話してるよ、今の出来事。告ったことも俺の返事も。隆、動き変だよ。ああ、久しぶりの学校なのに。隆……可哀想に。こんな朝っぱらから。
*
放課後、部活終了後アリスのもとに迎えに行く。緊張するな。話あれで止まってるんだよな。これからどうしたら……美術部の部室から声が聞こえる。今日は誰かいるのかな? いつもはもうみんな帰ってる頃なのに。
中を見て一瞬止まる。隆が俺に気づいて笑いかける。ああ、そうか。隆、お前まだアリスを諦める気はないんだな。
「何の話?」
と後ろに回り込むとそこには異世界が広がっていた。
「アリスこれって」
「忘れる前に描こうと思って」
ほら、と腕をめくる。え? 慌てて自分のもめくった。
ない。あの星形のアザがない。
隆も見せてくれた。全員ない。なくなっている。
「なんか、この勢いでケンタウロスに全部忘れさせたれたら嫌だから。異世界での魔法の国を旅したこと。あんなに苦労したんだもん。なんか残しとかないとね」
「確かにあのケンタウロスならやりかねないな」
ケンタウロスの悪びれてない様子を思い出した。
「これ出来上がる頃にはもう何の絵か忘れてたりして」
「嫌だな。あの旅、大変だったけど、楽しい事もあったしな」
「そうだね」
アリスは思い出しているんだろう、あの世界、あの国を。
「と、もう帰ろう。遅くなるぞ」
俺は隆とアリスに声をかけた。




