31.ファウル
「うん。私は決まった。で、ファウルが来たって事は類も隆も決まったんだよね?」
「え、まあな」
「うん」
「では、伺います。この国の王になりますか?」
なんでいっつも私を見て聞くんだろう。まあ、王でも側近で答えは同じなんだけどね。
「ならない。家に帰して」
「え?」
「そうなの?」
類も隆も驚いてる。
「この国を旅して王の大切さをわかったのではないんですか」
ファウルも納得いかないみたい。類も隆もね。
「ええ。王がいればこの国は何百年平和になる可能性がある。それはわかった。いない時に悲惨な事態になるのも」
「では、なぜならないと?」
「私には父がいる。中二で母が亡くなるまではずっと仲が良かった。なのに、母の死で変わった。父は仕事人間になった」
「アリス……」
「お前」
「私はずっと一人で寂しかった。類と隆がそばにいてくれるようになったのって高校入ったぐらいだよね?」
「うん。アリスが美術部にずっといるから」
隆の言葉に、美術部の部室が目に浮かぶ。そこに毎日のように来る類と隆。
「そう。一人で家にいるのが嫌でずっと時間いっぱいまで学校の美術室にいた。でも、類と隆が迎えに来てくれてそのまま一緒に帰るようになった。その後も一緒にいてくれるようになった。はじめは交代だった……」
「何時の間にかアリスの家に行ってたな。アリスいつも文句言って」
「あれは私が自分でしたの。隆や類の家族を見た後で一人の家に帰りたくなくて」
「アリス、お前」
類と隆の顔を見る。
「わかってたんでしょ? 本当は。だから、私の希望通りにここに来た」
二人は少しうつむく。うん。なんだよね。
「でも、わかったの。ううん。わかってたのに、知らないフリしてた。父が私を避けてたんじゃなくて私が父を避けてたの。だから、父は仕事に逃げた」
ファウルを見て言う。
「この国の国民に王が必要なように私は父に必要な人間だし、私にも父が必要なの。王は代わりがいるんでしょ? このアザってさ記憶塗り替えてない? ファウル?」
「え? 記憶?」
「んー。記憶、記憶」
類も隆も自分の記憶を振り返っている。
「夏場には腕を出す。毎回絶対このアザの話になるはず。私今回の旅でシャワーのたびにこのアザ見てた。本当に変わってる。なのにそれを意識しないでいたなんて」
「そうだな。幼馴染で同じアザだもんな。ずっと一緒にいるのに夏場どころか冬だって袖まくりするのにな」
「確かに記憶が曖昧だな。昔の記憶に埋れてるって感じだ」
三人でファウルを見る。
「いや、バレてしまいましたか。はじめてです。バレたのは」
ファウルは悪びれた様子もなく言う。
「アザが生まれつきでないなら、王を辞退すれば誰かに移るのよねすぐに、なのに5年以上かかるのはこの国、この異世界と時間の流れが違うんでしょ?」
「あ、確かに夕方移動したのに昼間に戻ってた」
「今二週間ぐらいこの国を旅したけど向こうではたいして経ってないじゃない? だって、こっちの王様長生きよね? 同じ時間が流れてたら遡ったらあっという間に統治とは程遠い人類になってる。すぐに王のアザを移せるのに王に就くのに時間がかかるのはそのせい?」
「っていうか、今3年だ。王がいないの。5年なんてかからないんじゃないか?」
類も参加してきました。ファウルに詰め寄る形になっている。
「僕たちで何人目?」
「ええ、まあ、全て図星です。いやー。最近は王になかなかなってくれる人物がいなくて。巳国のファウルを見ていて、かなり手の込んだ事をしたんですがダメでしたか?」
ファウルすっかり雰囲気が砕けてるよ。ていうか、手の込んだことしないでよ。
「ダメ。すぐに戻して、約束よ」
「あ、その前に服と靴それと鞄とその中身と俺のラケットも戻して」
「ファウルの魔法ならそれくらい出来るんでしょ? 僕らの記憶塗り替えてるんだから、お金はそれぞれ僕らの物を持ってる人に配ってくれたらいいから」
隆もファウルに提案する。
「はい。わかりました」
ファウルすべて承諾した。本当に全部出来るんだ。強気で類も隆も言ったけど。ちょっと喜んでるし。ファウルはすっかりしょげてるし。
「ねえ、ちなみに今向こうで私達がこっち来てからどれくらい経ってるの?」
やっぱり聞いとかないと不安だ。怒られるを通り越して事件になってたらマズイ。
「はあ。ファウルには時間という概念がありませんが、日が暮れたぐらいですね」
「え? あの日のか?」
あまりの事に類がファウルに聞き返す。
「はい。あの日のですが」
時間経つの遅っ!! でも良かったそれなら事件じゃない。
「俺も帰る」
ん? 突然の類の宣言。あ、確かに私しか言ってない。
「僕も帰る」
隆も気づいて慌てて加わった。
「あ、それと」
「はい?」
私は付け加える。
「ファウルは次の王と話をするんでしょ?」
「はい。王宮住まいですから」
ファウルあそこに住んでたんだ。
「王になるって決めた人に言っといて、村の農家とか農村ぜーんぶ壁で囲うようにって、それでずっとそれを続けるようにって。いつ王が倒れても食糧難にならないように。職のない人集めて全部の村を囲ってって」
「アリス……」
「本当は王やりたいんじゃないんですか?」
ファウル期待を込めた顔して見ないで!
「ううん。王はやらない。って私なの?」
「ええ。そう言うと来て下さらないかと」
ファウル嘘が多すぎます。
「えっ? じゃあ、俺たちは?」
「ああ、ただの道ずれです」
マジで道ずれじゃない!
なんか怒りぶちまけそうだけど、戻してくれないと困るから我慢してる、私。
「ファウルこのまま戻るとややこしいから、まず服と靴と鞄とか全部来た時のままに戻して!」
「はい」
「うわ!」
「ああ!」
「きゃ!」
と、ファウルが言った瞬間肩の重みや何かが一瞬で違ってる! 私が言ったんだけど、やっぱりビックリするよ。
私達は荷物の確認する。多分、多分全部ある。ファウルすごい! 魔法すごい!
「じゃあ、後は元の世界に元いた場所に戻してくれ!」
「その前に宝玉を」
さっきのファウルの魔法でどうにかなんないの? 魔法って本当わかんない。
隆と類が首から取りファウルに宝玉を差し出す。あ、宝玉が濁った色に変わってる。私の意志に反応したんだ。
「本当に帰せよ!」
類の確認。ファウル嘘が多すぎなんで信用なくなってるよ。すっかり。
宝玉を受け取るファウルを見つめる、いやもう睨んでる私達。
「では、私は次の王のもとへ。君たちは君たちの世界へ」




