3.そこには
「おい、これってあり?」
類の不満の声だ。いや私もね、そう思ったよ。
「なしだな」
隆も頷く。
普通、国見て欲しいなら、国の中心街いかない?
なんでこんなとこからスタートなのよ。それともずっとこんな場所が続いているの?
ここは森の中だ。どっからどう見ても森! ジャングルっていうより森だね。季節はあってるのか、服はちょうどいい。けど! 忘れてた制服姿じゃない! こんな森の中を制服でウロつくなんて。
いくらなんでも森ってことはないでしょ? 早速帰りたくなった私。もしかして森の国を治める王様なの?……必要あるの? 王様。
あれ? なんか草が動いてる!
「類! 隆! あそこ!」
草が動いてる場所を指差し、不安で類の服を握る。
丈の高いちょうど私の腰ぐらいの草が動いている。その動きがだんだんとこっちに近づいてくる。
類は珠を首にかけて、服の中にしまった。万一のためだろう。大丈夫あれで帰れるんだから。
草が途切れているところまで来た! 何の動物だろう?
そーう。やっぱり。そうだよね、森だよね。それでもって異世界だよね。
「ほーう。これは人間とは珍しい」
だよね。えーっと珍しいの頻度はどうなんだろ? あれ? 王様の出現頻度で生きてちゃダメでしょ。不老不死に勝っちゃうなんて。
さっきケンタウロス見ちゃったからさ。この展開について行ける自分がいる。
「ほーう」
私達を舐め回すように見る、小人。小人にしたら珍しいよね人間。私達も珍しいよ、小人。
ということでやたら近距離な小人に私達は目を見合わせる。
「人間が森の中にとは!」
小人の私達の物色は続く。ふーんだのへーんだの言っていたけど、次の一言で私たちは凍りつく。
「これで魔力は三人分! さーてどうやって家に連れて帰ろうか。こやつら小人が平気のようじゃ」
私たちは目を見合わせる。ヤバイよ、この小人。でも、小人は私達に言葉が通じるって思っていないようだ。きっと人間の言葉じゃないんだ。黙ってて良かった。あの翻訳する石のおかげで、小人の言葉がわかるんだろう。
類がそっと合図をする。小人の見てない隙に。類が指し示したのは木があまり生えていない比較的走りやすい方向だった。小人が小人以上の力を持っていません様に。足が一番遅い私は祈る。駿足の小人だったらどうしよう。コンパス通りに走ってよ!
小人が私達の完全に後ろに周った時に
「今だ!」
という類の掛け声とともに私達はさっき類が示した方向に走り出す。
「なんじゃと! 小人語が出来るじゃとー!」
と悔しそうに言う小人の声が森に響く。あー大声で叫ばないで。また別の小人が出てきたら怖いよー。
類と隆を見失わないように、こけないように走るので精一杯だった。ここで一人になるのが一番怖い。
あのケンタウロス悪意があるんじゃない! この展開に怒りを覚えたその時、先頭を走っていた隆が声をあげて前方を指差す。
「あ、あれ!」
「良かったー」
森の木がきれて、開けているすっぱりと。
私達は森から抜け出し道へと出た。皆息を整える。
「ハアハア、意外に森がすぐに終わったな」
「ああ、あの小人なんであんなに人間を珍しがったんだ?」
ここで私達は話し合いとなる。そこには普通の規模の民間が見える。だけど……この距離だ小人だとも限らない。しかも人間とは限らない、この国の住民。
この世界で見たことのあるのはケンタウロスと小人だけだから。
「どうしよう」
「さっきの小人は悠長にしてくれてたみたいだけど、家に連れて帰ろうかと言ってたよ」
「家に行くのは危険か……」
でも、見えている民家はあのサイズの小人の家には思えないけど。
どうしようかと、他の家もあるかと辺りを見渡すけれど他には一軒もない。あのケンタウロス、こんな田舎に転送しやがって! いやこれがこの国の普通なのかも。
「なあ、あれなんだろう? ほらあっちも」
隆の指差す方を見る。森と道の間に所々に木が刺してあるその木になにか彫っているみたいに見える。
「近寄って見てみよう」
類の言葉で三人でその木のそばまでいった。
「読めない。こっちの言葉か?」
「翻訳は文字には反応しないの? 不便じゃない」
「なあ、さっきの小人の話なんだけど。魔力がどうのって言ってたよな?」
隆の言葉に、ああ、本当だと思った。私達三人から魔力を取る気でいたような事を言ってた。魔力ってなによ?
「もしかしてこっちの人間は魔力を持ってるのか? それじゃあ、魔力なしの王様に誰が従うんだよ」
類が呆れ気味に言う。
「あのケンタウロスの言ってたことは本当なのかな。これって何かの罠とかじゃ」
「アリス怖いこというなよ」
「とにかくさっきも黙ってて正解だったんだからこっからあの家見ててみようぜ」
類の提案に乗って私達は一軒しかない家を見張ることにした。なにせどの道を行けばいいのかわからないからだ。文字も読めないなら、これから厳しい事になりそうだし、だいたい向かう目的地もわからない。国を見て回るって抽象的過ぎなのよ! あのケンタウロス!
***
「でも、王様がいないから、荒れてるのをイメージして来たんだけど、そんなことないな? まあ、ここがどこでどんな場所かもわからないんだけどな」
「確かに普通の農村だよねー」
などと暇なので三人で話をはじめた。
「俺走ってる時にラケット捨てようかと思ったよ」
「えー! いざっていう時に武器になりそうだから持っててよ」
「僕なんてスパイク履いてればって」
「いや、あれ以上離されたら私一人になるし」
なーんて、全く緊張感のない話を続ける私達。こんな目にあっているが一応ケンタウロスを信じて帰れるんだと思っていれば、安心出来る。
「これって時間どうなるんだろう?」
「ああ、本当。三人で失踪になるよね」
「三人だと、事件とか思われそうだな」
「帰ったら大変な事になってる?」
「ケンタウロスに聞いときゃ良かった」
こうして時間は過ぎて行き、すっかり夕方になった。こっちの世界に来た時あっちで夕方だった。じゃあこっちは違う時間の流れなんだろうか? それともただの時差? と思っていると、人影が向こう側の道に見えた。
「来たよー」
私は小声で二人に告げる。向こう側を指差しながら。