23.ちょっと複雑
そこには自転車が飾ってあった! どこからどう見ても自転車だった。
「ペダルあるよな?」
「うん」
「これ触っていいのかな?」
類がペダルを回したそうにしてます。
だって魔法使わない移動手段、私達にはかなりの魅力。確かめたくなるよ。
と、店の奥から店番なのか店主なのか若い人がこっちに来た。多分類の今にもさわりそうな手が気になったんだろうな。
素早く類に耳打ち。
「来たよ店の人」
頑張ってこれが魔法使わない乗り物かさり気なく聞かないと。
飾ってあるけどちゃんと値札ついてます。五万ペギー。高いって! ただの自転車なら。
「お気に入りましたか? これは貴重ですから、はじめてご覧になるんじゃないですか? 王都でしか見ないと聞きますからねー。店主がもうこの自転車のファンでして。魔力を使わない乗り物の魅力にすっかり入れ込んじゃいましてねー」
あの店員さん店主を褒めてるのかけなしてるのかわかんないよ。
でも、いい情報をペラペラとありがとう!
「あの、これって一台ですか?」
ナイス! 隆。一台だけじゃ意味ないもんね。
「いえいえ、形が少し変わりますが、ご覧になります?」
「はい!」
三人声を揃えます。やった。それスポーツ自転車っぽくて嫌だったんだよね。
店員さん奥の店主を呼びに行ったみたいだ。
「店長! 自転車をご覧になりたいお客様来てますよ」
店長が奥から現れました。かなりの上機嫌です。よっぽど欲しがるお客さんいないんだね。手がもみてになってるし。
「ささ、こちらに」
一旦店の外に出て店と店の間を抜けるとそこにあった物置の中に自転車が並んでいる。よっぽど好きなんだろう。いろんな種類が置いてある。自転車の為なんだろうけど、この物置のようなものまで作ったんだろう。そこには自転車しか置いてないし。
店主が灯りつけて一台一台説明してます。ええ、この説明、全部聞くの?
類が止めに入った。だいたいあっちと似たような作りなんで、こっちの人の反応とは違ってくるんで、ごめん店主。
「あの全部同じ値段ですか? あと自分でこいで進む物ですよね? 魔力なしで?」
中断されても上機嫌です、店主さん。
「あー、価格は先ほど店内にあるのが一番高いですね。ここにあるのは二万から三万ペギーですね。そうなんです! 魔力を使わず自分でこぐ! 王都の方はスポーツ替りに使ってらっしゃるんですが、見てくださいこの曲線……」
あ、ヤバイまた始まる。
「あのー、宿で停めれますかね?」
隆がすかさず聞きます。
「え、あ、はいはい。あー学生さんの旅ですか? この頃は珍しいんですがね。ビックダースが出たりとなにぶん物騒ですので。そうですね、荷車を置くスペースに停めさせてもらえますよ。私も自転車旅に出たことが。まあ、家内に未だにそのことでブツブツ言われてるんですが」
あー、店主さんのおしゃべりは止まらない。
けどもう大丈夫。旅に使えるとわかればいい。
意外に心配症な類は店主さんのおしゃべりを遮ります。
「試し乗りしていいですか?」
もうどれだか決めてるみたいだ。一台を指差して言う。
「あー、はいはい。そうですよね。乗り心地がね」
と、類の指差した一台を物置の外へ出す。ていうかこれ、そりゃー売れないんじゃない? 練習しなきゃ乗れないでしょ?
物置と店のちょっとしたスペースで類は乗ります。くるくると。久々の感覚なのか気持ち良さそう。それを見て店主やっぱり気づいたよ。
「お客さん王都から? いやービックリしました」
いやあのさあ、乗れないとか練習必要とか言わなかったよねさっき? 抜けてるんだかわざとなんだか。
隆はと見ると物置にいます。さっき一緒に出てきたから、類のを確認して自分のを選んでるな。あ、出てきた。
「あの僕これがいいですけど」
店主さんウキウキで中に入った。ヤバっ。私も選ばなきゃ。自転車を外に出す店主さんと隆と入れ違いに中に入り物色。
うーん。男の子用? 大きいの多いな。背が低い私には選択肢があまりない。まあ、いいかこれで。外を見るともう隆の試乗は終わったようだった。
「あのー、私これで」
店主さんテンションマックスです。
「すみませんねー。まさかお嬢さんが乗るとは思ってなくて、数が少なくて」
言葉のわりに声が嬉しそうな店主さん。選択肢二つだったからね。
サドルの位置を直してもらって、いざ試乗!
うわー気持ちいい! 自転車ってこんなに気持ちいいものだっけ? 小さな場所を少し乗っただけなのに。
*
てなわけで、自転車三台お買い上げ。大きな出費だけど、大きな収穫! これで行動範囲が広がる上にかなりな時短になる。
テンションマックスな店主さんはそれぞれ二個ずつ鍵もつけてくれました。店員は本当かよってな、目でこっち見てます。
そうしてみんなそれぞれ自転車を押して宿屋へ向かいます。
「宿屋に荷車あったよな!?」
類、今さら確認する?
「あったよ類。今までも、あのクラスの宿屋は荷車か徒歩だったよ」
隆は細かいとこまで見てるなー。
「うわー! 嬉しい! これでめっちゃ時短だね」
「すげー高かったけどな」
「荷車も高かったし、こういうものは物価上がったのかな? それとももともと?」
「おしゃべりだったけど、そういうことは言わなかったな」
みんなのテンションも上がってます。
宿屋へ到着。
類が中に言いに言ってます。もちろん自転車の事。
「ねえ、自転車って自転車なんだよね」
「え!? ああ、うん」
「小人は小人」
「うん」
「あの翻訳って……」
「知っているのは知っている言葉になってる?」
「のかなー。と、思っただけ、あ、類だ。どうだった?」
類のそばに行って聞く。隆もこちらに来る。
「荷車のところに停めていいって。自転車? とか言われたけど」
「良かったー。買ったのにとめられないとかならなくって」
というわけで荷車置き場の隅に停めて、晩ご飯へ出発です。
自転車買うのに手間取っちゃいました。あの店主マジでマニアだったようで、自転車の良さを何度遮断しても、続けるんで話にくかった。店員の対応も奥さんの反応も頷けるわ。
でも、まあここで自転車購入出来たのはあのマニアックな店主のおかげでだろうな。王都に売ってても意味ないもんね。
今日もお腹とお財布相談しつつ店を決めます。
私の目線が中華だったんでしょうか? いつもは私のだだこねからはじまる交渉もなくすんなり店へ。なんだよ。いつもの時間は。
まあ、いいか。何食べようと周りをみます。いまだメニュー読めるのに何かわからない。これも翻訳するあの珠の影響かな。
「ねえ、あのさあ!」
「明日自転車でもう一度あの先へ行きたいんだろ?」
類に越されて言われちゃったよ。
「う、うん。自転車なら着くかなって思って」
「いいんじゃない? 自転車どんな感じか見るためにも。あのおじさん以外知らない乗り物ってリアクションだしさ」
隆がフォローしてくれます。そうそう。いきなりし知らない乗り物で旅ってのもね。
「試運転をかねて行ってみるか。だけど、お昼までだぞ。アリス」
「うん。もちろんわかってるって」
お昼が折り返し地点になる。それしか目印がないから。
宿に帰り一応自転車あるかチェック。魔法の世界に鍵って意味あるのか心配なんだけど。鍵にも魔法が施してあるみたいだし大丈夫みたいだね。
宿に帰りシャワーや洗濯を済ませると、今日はすこーし、余裕がある。
「ねえ、これですっごい早く進めるね」
「ああ、どれくらいの距離進めるか見ながらスタートだな。ひと宿街間隔測っとかないと、締め出しはされたくないからな」
類の言葉にビックダースなる熊っぽいのがたくさんで襲ってくるのが……。
「アリス? どうした?」
隆の心配の種がまさかあの想像だとは言えません。
「ううん。久しぶりにのんびりできていいなあ。って」
「そうだな。毎日毎日歩き通しで宿に来たらすぐに寝てたもんな」
「アリス疲れてただろ?」
「うん。ゴロゴロしたかったー」
と本当にゴロゴロしました。布団はもう敷いてたからね。
「おい、アリス、俺の布団でゴロゴロすんな」
「僕んとこまで」
二人が慌ててるのが可愛い。
「いいじゃないただでさえ狭いんだから、これくらい」
なんだか、それからは修学旅行のようなノリになって三人で遊んだんだけど、やっぱり宿から苦情きました。ごめんなさい。
でも、久々の自転車でテンションあがったから、二人のノリも軽かった。
だって次の旅徒歩で一週間の予定だった。凹むよね。さすがに。それが自転車の登場! 多分半分以下の時間で着くでしょう!これってやっぱり大きい。
歩き通しもいい加減飽きてきたんだよね。
ってなわけで、怒られたし暗くなったし疲れたしで眠ります。
あ、二人とも私の洗濯物干しても無口にならなくなったなー。慣れたのか……いや、いいんだよ。その方が……でも、なんか複雑。




