20.ビックなんちゃら
「アリス! ご飯食べに行こう!」
うう、この街には何料理あるのかな? ムクムクっと起きて軽く後悔。こんなんだから昨日のように笑われるんだ。はあーと。隆の方を向くとやっぱり笑ってるし。あれ? 類は? 狭い部屋の端っこの布団の上、見回すまでもなく類はいない。
「類は顔洗ってるよ。今日は服買ってすぐに出発だからね」
「そうだね。また門までダッシュはキツイもんね」
あ、私がだけど。陸上部の隆は完全に私待ちで走ってるし。
布団を畳んでると洗面所から出来た類と交代で洗面所へ。
つ、疲れがちっとも取れないよ。ぐっすり眠ってダラダラしたいー。
日頃からダラダラな私にとってこの旅はハード過ぎます。
宿屋を出て、まずは朝食屋探し。が、時間節約の為昨日見た店へ。
和食な朝ごはんです。なんか久しぶりだなこんなの。
次は服屋を探します。街が小さいから選択の余地がない。
「こことあそこと向こうの店だな。雰囲気的にはここだろ? 見てみよう?」
ってことで店内へ。お! おお! あの怪しげな服屋よりいいよ。ここ。値段は……あ、あのオヤジ、ボッタくったな! まあ既に初めからはめる気だったんだろうけど。
「類!」
と呼ぶと、類と隆も同じようなの持ってます。
「あの店のオヤジ最悪!」
類も怒ってます。
「まあ、もうすでに……だろ?」
さすがに店内で役人に突き出されそうになった事は言えません。隆は含んで言う。だよね。もうすでにだけど! さらに怒りが増すよ。しかも服も靴も捨てたし。あの靴あっても履かないけど!
「時間ないし、買おう!」
「そうだな」
類の怒りを抑えて会計へ。
「お客様、王都の方ですか?」
「え、ええ」
会計中に話しかけられビックリしたけど何とか返事できた。服屋さんっておしゃべりな人が多いの?
「戻られるんですか? 王都へ」
「あ、はい」
「三日歩きどおしでお疲れでしょう。次は一日ですから気が楽ですね」
「あ、はい!」
ラッキー! 新情報。しかも一番知りたいこと。ありがとう店員さん。もっと金額を上乗せしたいよ。
店を出てしばらく門の方へ歩く。
「やった!」
私の心の叫び。声に出るよ。
「一日なら買い足さなくていいな。三日歩きどおしでって言ったから魔馬車の事じゃないだろ?」
「そうだな。また街の門だ。締め出されないように、急ごう!」
隆の言葉に自然と足も速くなる。
「草もあれば取りたいしね」
実はまた次もロイリの店なのか知りたかったりして。
また門だ。緊張しつつ通る。
門番は札をチラリと見て鞄を見て財布の確認と思いきやしなかった。財布の確認。
「ねえ、財布見られた?」
「いや」
「ううん」
私の問いに二人とも首をふる。
道を歩きながら話します。
「財布見るのはあの役人の個人プレーだな」
「役人……ワイロだね」
「大金持ってる奴から何か言っては取るんだね。きっと」
今度の話題は役人について。
まあ、結論は大金持ってるのバレないように気をつけようでしめくくる。
「ここにもいるのかな? 何だっけビックなんちゃら?」
「アリス、記憶力なさ過ぎ。ビックダースだろ?」
「いるんじゃない? たいして前の道と変わらないし」
「そうだね。用心に越したことないしね」
昼間にいないのは良かった。小人みたいに昼間いたらこうして歩くのも大変だし。
「でも、王都に行ったりウロウロするんだな、皆」
「生活の為じゃない?毒のある草も取るくらいだし」
そう、そんなに皆生活に困って来てるんだ。王がいないから。
っていうか、王がいただけで何が違うんだろう。そんなに変わるとは思えないんだけど。私は国統治について考え巡らせた。
類と隆は相変わらずビッグダースが何なのか話してる。確かに気になる。私達の知ってる何かなんだろうか。
ってか何で知ってる何かなの? 長い夢なんじゃないかと思える時もある。毎朝類と隆に起こされてまだこの世界なんだと思う。
*
「お腹減った!」
二人とも吹き出してます。絶対作戦だよ。さっきからニヤニヤ私の方を見てたし。暇つぶしに私で遊ぶな!
まあね、同じような道を毎日歩いてて刺激ないけどさ。だからって! 私をネタに遊ぶな!
「ごめん。アリス! お昼にしよう」
隆、謝ってるけど完全に笑ってるし。
「この辺いいんじゃない?」
類は完全に話逸らしてるし。
まあ、いいけどね。別に。二人といると楽しいから。
*
というわけで今日も乾燥した何かを食べてます。あ、また弁当とかにすれば良かった。これはこれで美味しいけど、味濃いし、喉乾くんだよねー。夏じゃなくて良かったよ。水筒二本じゃ間違いなく足りないね。
春……夏……四季ってあるのかな? 疑問に思っても口に出しても仕方ないです。はい。解答ないもんね。
全くケンタウロスもついて来いっての。解説ないからいろいろ大変じゃない! 疑問ばかりが浮かんできてその回答は分からず進むしかない。
*
「行くか!」
類、気合入れ直してます。
「そうだね。ゆっくり出来るかわからないもんね」
そうです。門番は待ってなんてくれません。次の場所も閉まる時間もわからない私達には頑張って歩くしかありません。めっちゃ努力よね。
あー、だんだん口数減ってます。故意に向こうの話避けてるからなー。そろそろ魔法の話題も尽きてきたし、だいたい見慣れてきたしね。どう魔法使うの? 的な見方になってるもんね。逆に使わないとなんでこれは使わない! って思うぐらい。
慣れって怖いよね。怖い奴ウロウロしてても歩いて王都に向かってるし。まあ、昼間いないんだろう前提なんだけど。こうやって門からの締め出しにならないように急いでるしね。




