17.野宿の想像
「アリス! 起きてよ。アリス!」
今日はソフトな隆の声。ん。起きれない。昨日の疲れで起きれません。
「アリス! 飯なくなるぞ!」
やっぱり類、見逃してはくれないよね。
顔を洗って歯を磨く。二人はもう着替えてたので、部屋の外で待ってもらう。
野宿しなくて良かった。おまけにご飯はもあるなんて。野宿水準で見るからか、何にでも感謝出来る。
おお! 中華じゃない。サンドイッチだ! 的な感じの物なんだけど、もう音符が出そうになる。
きっと雑魚寝宿じゃないから、差がその辺にも出るのかな?
「今日は朝から歩くから、この分だと次も宿屋があるだろうけど、一応水は大事にして行こう」
「そうだね。先はわからないからね」
類と隆の言葉に頷く。
朝ごはん食べて再び部屋に行く。水の補給を済ませて出発!
*
昨日の速度で間に合うし、途中でヘバったら大変なので、まあヘバるのは私なんだけど、いつもの帰り道ではなくて、一応少し速目の登校時の歩きで歩き出した。
おしゃべりは進む。特に昨日聞いたビックダースについて。私達の想像力でいろんな化け物を言い合った。
「あー、だけどさあ、小人もケンタウロスもいるんだから、童話とかに出てくるんじゃない?」
おお! 隆、鋭いなあ。
「だな。ケンタウロスはファウルって言ってただろ? 俺らが知ってるのだけど、名前が違うんだよ。きっと」
「そうだね。あ! でも小人は小人だったね」
確か小人っ言ってたよね、こっちの人。
「小人は見たまんまだからじゃね?」
小人。小人の概念がすっかり変わったよ、こっち来て。
なーんて無駄話を続けていると、本当にここ異世界? って感じに思えてくる。こんなんでいいの? ケンタウロス?
*
太陽? も真上になったので、お腹もお昼になった。例の買っていた乾燥の食品を草っぱらに座っていただきます。時計のない世界にいると頼りは太陽? とお腹になります。原始的!
時計ってそういえば……あれかな? 干支が書いてたの。お店や宿屋で見たような。呪文も書いてるし表記もわからないから。時計も私達にはいらないな。まあいいか、これで十分だし。
「うわ、これウマ!」
「ウソ! う、本当! 美味しい!」
「意外だな」
三人とも全く期待してなかったんだけど、意外に美味しくいただきました。あの乾燥していたやつ。干物の味を想像してたけど、そのものの味が凝縮した感じで美味しかった。まあ、喉は乾くけどね。
*
その後も魔馬車に抜かれ荷車に抜かれ、徒歩の人にも抜かれて歩いてます。
徒歩の人は商人なんだろうな。荷物背負ってもガンガン歩いてる。きっと、荷車買う余裕がないんだ。貧富の差をヒシヒシ感じつつ、歩き続ける。
今日は朝から歩いてたんであのペースでも余裕で次の宿街まで来れた。
また門をくぐった。門番はいない。きっと宿の人が閉めたり開けたりするだけなんだろう。ビックダースとやらの侵入を防ぐ為に。
「ねえー昨日は薄暗かったからわかんないけど、この壁めっちゃ新しくない?」
よく見なくても他の建物とは違う。
「本当だな。今朝よく見てないし、たまたま新しくしたんじゃない?」
「ビックダースとかの為に作り直したんだよ。きっと」
「そうだね。いったいどんなんだろ? でも小人も怖がるんだから……あ、壁に」
よく見ると呪文が書いてる。振り返った門にも。
「朝は気づかなかったー。てか、本当、小人が怖いならそんな感じ?」
隆の問いに類は言う。
「ビッグって思いっきり言ってるぞ」
「だよねー。ビッグなんだから大きいんだよね?」
「だから壁がいるんじゃない?」
ああ、そうだ小人の時は木の棒を刺すだけで良かったのに、わざわざ呪文を書いた壁、門まで作るんだもんね。
「それより宿!」
類の言葉に追い越してった人たちが浮かぶ。
慌てて宿探ししたけど、魔馬車も荷車もここを通過してたみたいで余裕があった。今日は洗濯場もシャワーもついてる!
二日もシャワーなしーと内心凹んでいた私は喜んじゃいました。やっぱり宿屋は早目に取るのが一番だね。
おまけに洗濯も出来た。もう一着あれば……と昨日の服しかないのは凹むけど、贅沢言わない。明日の朝には着替えれるだけマシだよ! 野宿の想像、忘れるな私!
ご飯も美味しい。今日はイタリアン。一体この国の食はどうなってるんだろう? 港町だけだと思ってたけど。まあ、魔馬車でちょっとの距離っていえばそうだもんね。基準がいまいちわかんない。
だいたい貧富の差が大きすぎだし、中間層がわかんない。まだ掴みきれないな。この国。
というわけで、すっかり暗くなったので洗濯物の下で眠ります。
今日もお疲れ私達!




