10.買い物
「アリスー! 起きろ!」
ん? もう朝? 嫌だー布団から出たくない。フカフカだとは言い難い布団だけど地面とは比べられない寝心地。
「ん? もうちょっと」
「ダメだ。腹減った」
昨日は飲まず食わずで一日中歩いてた、あ、途中で川の水は飲み出したけど、だったのにー。
起きると二人とももうすでに布団も畳んでる。
「おはよう」
うう、眠い。一番に寝た筈なのに、疲労が半端じゃない。
私が顔を洗っている間に布団を畳んでくれている。もしかして二人とも急いでる?
「急ぎ?」
「ああ、宿の人にすぐに出ないと追加料金払えって言われた」
類がサラッと答える。
「やーもーそういうことは早く言ってよ」
どうせ着替えはないんだし大した身支度があるわけじゃない。すぐに出れる。
「行こ!」
は、歯磨き忘れてた。そういえば宿のどこにもなかった。……たぶん。昨日はシャンプーやドライヤーに気をとられていたけど、歯ブラシだよ。さあ、歯ブラシは歯ブラシの形をしているんだろうか? あ! もしかして、宿にあったのまた私だけ見逃した?
いちいちこちらの生活に戸惑う。だいたいどこまで魔法なのよ、魔法は斬新なのに、その他の生活が古い。昔の日本のよう。
*
宿を出て昨日覗いてチェック済みな朝食向きな店に入る。まあ、見た目で決めたんだけど正解だった。今日はメニューじゃなくて、隣の人と同じものを注文した。メニューの価格がどれも控えめだったから。
朝ご飯! 昨日は食べれるなんて思わなかった。街に着いたら帰ろうと類に言うつもりだったのを思い出した。
来た! サンドイッチみたいな感じだ。
「いただきます!」
「港町だからか? 異国の物があるとか?」
「どうなんだろう?」
昨日の中華風なのと比べて議論が始まる二人をよそに一人かぶりつく。
「ほら、二人ともそんなことより食べよう!」
「だな」
類と隆の考察は取り敢えずおいとこう。だって、結論はわかんないから。
聞くに聞けない事ばかりで全てが手探りなんだから。
*
「ごちそうさまでした」
三人揃って行って店を出る。
取り敢えずどうしよう?
「なあ、鞄買わない? やっぱり不便だよ」
お金を持ってる類にはやはり不便だったか。
あの服屋で制服を入れる袋はそれぞれもらっていて、類はそこにお金も入れてるけど、袋は袋。不便だよね。
「そうだな。このあといろいろ買うとかさばって来るしな」
という事で鞄を売ってそうな店を覗いて探して行く。鞄屋ってストレートになんで書いてないよの!
また私の不満が出たところで、女性用の下着屋を見つけた! 類を見つめる。
「ああ、買って来いよ」
類は私にお金を渡して言った。やった! 浮かれて店の中に入ってガックリ。なにこれ? 今の私の下着のような物は高くて手が出なかった。
一番近い物で手頃なスポーツブラみたいなのを買う。仕方ない。着替えなしのが嫌だ。
店を出た私を見て二人は不思議そうな顔をしてる。
「アリスなかったのか?」
「ううん。買ったよ。はい。お釣り」
類にお釣りを渡す。
「いいのなかったの?」
「うん。形が違ってて。高いのは似てたんだけどね」
「いいのか?アリス」
隆が聞いて来る。
「お金が余ったら買うってことで!」
「そうだな。今は先が見えないもんな」
類の言葉に思いつく。
「二人は? 二人もいるでしょ?」
なんか面と向かっては言いにくいけど、私の買ったんだし。あ、思い出した!
「歯磨き!」
「はあ? ……あ、そうだな、結構地味にないと困るな」
良かったー。宿屋にあったよ、とか言われたら、結構恥ずかしいし。
「でも、どんなんだろうな?」
隆の疑問も最も。見つけるの難しいかも! 歯磨きの形わかんないし売ってる店の種類もわかんないし。
薬局はないようだし……多分昨日水菊売った店が薬局だろうなー。この感じだと。でもあそこにはなかったし。
と、今度は鞄屋を見つけた。旅のしやすさから隆は大き目のリュックを私には少し小さいリュックを類は現金を持ってるのでリュックは避け、斜めがけ出来る物をそれぞれ購入した。
店を出て早速リュックに制服と下着を入れる。二人もそれぞれに荷物を入れた。
お互いを見て笑う。
「すっかりこっちの人だな!」
「本当!」
「お前らもな!」
異世界に来て笑えるなんて! 二人がいてくれるからだ。
*
その後雑貨店っぽい店に歯磨きを求めて入った。どれ? っていうかあるの?
その店の店主は凝っているようで、所々魔法で描いた絵が動いてる。商品をアピールする為だろう。これならわかるかも!
あ! 昨日使った塩のような石鹸、絵ではシャンプー中の絵とサラサラになった髪の絵が交互に出ている。そうなんだ。いつもよりサラサラなんだよね、髪。これ欲しいと本気で思ってしまった。
「あ、あれ!」
隆の指差すのは、さっきの石鹸の少し奥、歯磨きっぽいことして、今度は歯がピカピカってなった絵だ。見つけた歯磨き。
三人で売り場に来た。そこにおいてあったのは……普通の歯ブラシ!
「プッ!心配して損した」
「だよね」
「あ、これもいるんじゃない?」
隆が手にとったのは石鹸よりもサラサラした粉末である。
「売り場のすぐそばだし」
「でも、歯磨き粉って確認したいな」
隆と同じものを手にした私は粉末が入った袋の裏を見てみた。
「あ!」
「どうした?」
「ここ!」
「お、使い方書いてる。ラッキー!」
間違いない歯磨き粉だ。本当に粉だし。
私達は歯ブラシとその袋、そして念のため宿屋に石鹸がなかった時用に石鹸を購入した。
ああ、これでやっと普通の……いやまだか。
ハードルが相当低くなってるな。何せ初日が初日だったもんなー。
あれからずいぶん経ってる気がしたけどまだ三日目なんだ。
この二日を振り返ってると類の声が聞こえる。
「さあ、次行くよ!」
何だか元気だな。やっぱり買い揃えて行くと不便な生活から脱出してる気がするもんねえ。
「やっぱり着替えないとなー。いい? 類?」
店を覗きながら類に頼んでる。そこに隆の素朴な疑問。
「でもさあ、買ったところで洗えるの?」
「あ」
あ、洗えない。コインランドリーみたいなのも見ないし、多分あっても魔力のない私達は使えない可能性が高い。
最悪だー! ここに来てこんなのって。
「本当だなー。じゃあ、却下で」
あ、あっさり類に却下された。
下着は何とか乾くけど、服は無理だよね、一晩じゃ。ドライヤーっぽいのも使えないし。
私は何とか着替えを購入出来るように考えた。……川で洗濯……無理乾かせない。
次々と店を覗きながら私の思考は服へ。
「あ」
「ああ」
「これくらいはいいよね?」
と、二人は店の中へ入って行く。さっき私も買ったしね。下着は何とか乾くし。……あ、一緒の部屋だ。
ここにきてのその問題。なんで私だけ女なのよ! これでだいぶ損してる。宿ももっと安く済むのに……。
まあ、自分の性別を今さら恨んだってしょうがない。もう開き直ろう。一緒に地面で寝たんだしもう気にしないでおこう。
二人が店から出てきた。もう鞄の中に入れたみたいで、手ぶらだ。
「じゃあ、そろそろあの店に行く?」
「うん」




