英雄が来ました -”呪われました”の12作目-
とある辺境の”お山”では、今日も今日とて呪われた娘さんが修行の為の”狩り”を……おや?今日はなんだか”お山”が騒がしいようです。
「緊急事態です」シルフィさんが、森で”狩り”を始めようとしていると、目の前に、白い鳥がやってきました。それが、ぽん、という音を立てて、半透明の神主さんの姿に変わります。そして、それは冒頭のセリフを吐いたのでした。
「ほえ、どうしたのですかヤマトさん、”式神”なんか飛ばして?」シルフィさんは、片手で出現した巨大なカマキリ型の”怪物”を”拳銃”で撃ちながら、言いました。
「厄介な能力をもった”存在”がこちらに”顕現”しました。”お山”の”怪物”が暴走して、周囲の街や村へ溢れ出しそうです、とりあえず、ヤミさんにも連絡済みです、至急”お社”まで来て下さい」エマージェンシーコールとは、このことです。
「ビリー師匠は今”お山”にいませんよ?」
「知ってます、間が悪かったですね。ビリーさんにも連絡(式神)を飛ばしています」
「そうですか、じゃ、急ぎますね」シルフィさんは、蒼いチョッキのポケットから、いくつか”水晶”を取り出し、意識を集中します。光が”水晶”から溢れ、10歳くらいの銀髪美少女を包みます。次の瞬間、金属光沢のある翼を背中に装着した、少女が、足元に生成されたノズルから炎を噴出して、轟音と共に、空へと飛び上がりました。彼女が目指すのは、森の奥、ヤマトお爺さんが待つ、お社です。
「”可能性”の操作なら、”水晶”を使った方が、安定しますねー」空を飛びながら独り言を言うシルフィ(ロケットガール)さんでした。
「で、何が”顕現”したのですか」”神社”の境内に焼けこげた後とクレーターを作りつつ、素早く到着したシルフィさんは、側に立ち、宙をにらんでいる、ロマンスグレーのお爺さん、ヤマトさんへと尋ねました。
「”サトリ”です正確にはその亜種ですかね?」
「そんな大したヤツじゃないじゃんか……というわけにはいかないわけね」側には、軽薄な雰囲気を周囲に撒き散らしている青年風の存在がおられます。この神社に奉られている神様で、名前をナギさまといいます。
「その通りです、どうも”system”に直接"access"できる存在です、あっちでは主に”network”で活動していたタイプなんですが、こちらに適応したようです。しかもマズいことに、”増殖&感染型”です」真剣な表情のヤマトさんです。
「うあちゃー『炎ノ壁』はどーしたの?」
「……旧型の”基本文章”にあった不備を付かれましたかね?」
「そんな、どこぞの”商業主義の混乱”みたいなことを、なんで”ここ”でしちゃうかね?」
「予算がないんですよ、多分、きっと」少し遠い眼をしているヤマトお爺さんです。
「???」シルフィさんは、会話が理解できていないようです。
「それで?そいつ何しているのよ?」あきれた顔で尋ねるナギさまです。
「感染と増殖の手段として”怪物”の”沸き上がり”を利用しようとしているようですね、”お山”で大量の”怪物”を沸き上がらせて、周囲に拡散していこうとしています……こちらでもある程度干渉しましたから、いくらか制限がありますが」
「で、初代のことだから既に対応策は用意しているのだろ?」
「ドラゴンさんの言葉を借りるなら『こんなこともあろうかと』です。まず、”増殖&感染”ですが、本体を無制限に複製することは阻止しました。で”子”は”親”を消せば消える仕様です。次に”お山”の各所に設置していた”道祖神”をキーにして結界をはります。これで”サトリ”本体のお山からの流出は防げます……ただ残念ながら”子”になった”怪物”自体は防げませんから、別の手段で流出を止める必要があります」
「なるほど、だから、私も”召喚(summon)”されたと言うことね」パンツスーツの大柄の美女が、お社の方から歩きながらやってきました。
「そうです、ナミ様。お手伝いいただけますか?」
「まあ、うちのが厄介になっている所だしな、問題はあるまい」肩をすくめる美女さんです。
「ありがとハニー。じゃあ、俺が南な」ナギさんが言いつつ、歩きさります。
「どういたしましてダーリン。では、私が、北で」そのまま向かうナミさんです。
「空はヤミさんとエルさんが任せてくれと言っていますね」虚空に語りかけるヤマトさんです。
「えーと、私はどうすればいいんでしょうか?」結局話について行けなかったシルフィさんです。
「私が結界をはり終わるまで、まずは護衛をお願いできますか?で、後は、騒動の原因を探して排除です」
「りょうかいしました」ぴっと、小さな手で敬礼をする、少女さんでした。
***
「とりあえず、大規模な結界を”お山”全体にはりました、”やつ”は結界の外に出ることはできません」切羽詰まった表情で、”神主”の”初代”ことヤマトお爺さんは、言いました。周囲には、結界を維持するためでしょうか、ヤマトお爺さんの故郷の古語が、光となって空中に描かれています。
その、ヤマトお爺さんを、排除するために、悪意のある存在、”怪物”が周囲に”沸き上がり”敵意を向けてきます。白く大きな狒々が数十体、地面をけり、その大きな腕を振り、襲いかかってきます。しかし、同時に轟音が周囲に響きます、”ガンマン”のシルフィさんが、両手の”拳銃”から発する”弾丸”を媒体にした”魔法の光弾”で、素早く的確に狒々の額を打ち抜き、排除していっているのです。片手で6発、もう片手で、6発。片手の弾薬が切れると、銃の円筒形型のシリンダを指先ではじいて飛ばします。そして、身体を器用に振って、身体に仕込んである弾倉を宙に飛ばして、空になった”拳銃”に装填して、さらに撃ちます。そのサイクルを数度繰り返して、ほとんど一息に狒々どもをなぎ倒していきます。
「助かります」冷静な表情を崩さずにヤマトさんが礼を言います。
「いえいえ、『七面鳥を撃っている』みたいなものですから」にぱりと笑いながら、新しい弾倉を、厚手の蒼い布に仕込んでいく、美少女”ガンマン”のシルフィさんです。
「……はい、良いですよ。これで日が沈むまでは、結界は自動的に維持されます。さあ、”やつ”を探しましょう」周囲に展開していた光の古語が、山のあちらこちらに配置してある”道祖神”へと、飛んでいって、起動を始めます。
そう言った神主のヤマト老人の頭上に、新しく”怪物”が湧きます。灰色の大柄な狼です、大人の身体くらいあるそれの、空中からの噛み付きを、ヤマトさんは軽くいなします。空中で狼の首に指をかけ、勢いを利用して、地面に叩き付けました。狼は、宙に消え、後には、黄色く光る水晶が残ります。
続いて、ヤマトさんは重ねた布という形状の服の懐に手を入れて、長方形の紙を数十枚ほど取り出し、息を吹きかけます。
「とくはしりかがみなすしらすげの」簡易の祝詞と共に、その紙はネズミや小鳥などの小動物へと変化し、瞬く間に周囲へと散っていきます。
「さて、時間との勝負ですかね」
「いーえ、物量との勝負かもー」ぞろそろと沸き上がる”怪物”の姿をみながら、シルフィは言いました。そして、”拳銃”を構えます。
***
山の南です、軽薄そうな青年が、川の浅瀬に立っています
「『ひとは考える葦である』なら、”葺"が”人”になってもいーよねー」にへらと笑いながら、周囲の草へと力を伸ばす神様です。瞬時に葺より、槍と鎧で武装した”兵”が変化して生まれていきます。無数の葺が無数の兵士へと変化し、隊列を組んで、”お山”の周囲へと展開していきます。
数は力とばかりに、数万、数十万の”兵”が整然と陣形を組み、”お山”から湧き出る”怪物”に対峙していきます。四つ足とは限らないが、獣型の怪物……異形の猪、巨狼、巨大鹿、角のある兎、双角の馬、などを、槍衾で突き刺して、次々消滅させていきます。後には、緑や赤の”水晶”が転がっていきます。当然、反撃で”葺の兵”にも被害は出るのですが、ナギ様は、次々に”葺”を”兵”に変えて生み出していくので、いっこうに戦力が低下しません。
と、そのとき森の奥から、ずるずるという音とともに異形の”怪物”が出現します。半ば液体に近く粘性を持った”怪物”が無数に湧き出ます。その数は、万に達しようかというもので、遠目からみれば津波のように見えました。
その粘性の高い”怪物”には”槍”の効果が薄く、”兵”は次々にのみこまれて行きます。
「……私はね、あの”地中海の好色親父神”と同じように、女好きなんだけどね、べつに『人に炎を上げるのは禁忌』だとは思ってはいないのさ。嫁さんが黄泉へいった原因だったから、昔はやっちゃったけどねー」と言いつつ手を振ると、”兵”の持つ槍が炎に包まれます。「すでにあの子とも和解済みさ」にへらと笑うナギさまです。
炎を纏った槍は的確に粘性の高い”怪物”を消していきます。
しかし、山からの”怪物”の出現は止まりません。
「おおう……こりゃまいったね、『泥』からも作るかね?」頭をかきながら、その数にあきれるナギ様でした。
***
「ほほう、こちらは見事に”死に損ない”ばかりだな」不敵に笑い、腕を組む大柄の美女、ナミ様です。彼女がみる先には、山から下りてくる武器を構えた骸骨や、身体のあちらこちらが腐敗した、もと生き物、半透明でふわふわと宙を飛ぶなんだかよく分からない存在、といったような”怪物”が、無数にいます。
「楽でいい、お前らまとめて、黄泉路へと送ってくれようよ」ナギ様は言うと、力を集中します。その肌は黒くなり、赤い文様が肌を走ります。
「あらわれいでるはよもつひらさか」
ぐるり、と、なにかが”反転”いたします。”そこ”に暗く長い坂道が開きます。”怪物”達はそこへ誘われるように、いえ、実際安息の地だと分かるのでしょう、明確に誘われて、”下って”行きます。
とそこに、一遍の歌が流れます。女性の高い声、綺麗ですが、何故か悲しみを増幅させていきます。その声に引かれるように、”下って”いた亡者どもの歩みが止まり、見えない涙とともに、周囲へ悲しみをふりまく為に、山の外へと歩きだそうとします。
「海の魔物だろうが、節操のない……」パンツスーツの大柄の美女は、美しくないねと、眉をよせて、いいながら、山肌の岩に腰かけ歌っている青い女性型の”怪物”をにらみます。
「歌なら、唄かね?『法師』よ『法師』、その”音”を聞かせておくれ」坂の下手へと声をかける、ナミさまです。と、そのとき、弦楽器の音が周囲に響きます、盲目の『法師』がいつの間にか、地に座して、奏でます。東洋の果実を模した胴、はられた弦が震えます。物悲しい”唄”が一節……亡者の足が止まり、聞き入っています。
亡者達の歩みは止まり、そこには一種異様な空間が形作られていきます。
「まあ、こんなものかな?”唄”が尽きるまでに事態が収集するとよいのだが……な」どかりと、腰を落ち着け、唄に聞き入る、ナミ様でした。
***
巨大な竜が、宙に留まっています。その大きさは、都市部の大型の建物を凌駕するほどのもの。背景には雷雲が立ちこめています。そして、前方の揺らぎを見据えて笑います。
彼は、”お山”に住む巨大な竜の人にして、鍛冶屋の親父さん(僕はまだ青年だよ!)のヤミさんです。
シルフィさんの武器防具などを製作してくれています。趣味は異世界の映像鑑賞とそれに触発された、各種発明(結構非常識な)です。
「きたか」牙の生えた口を歪めたのは、笑みなのか。巨大黒竜の”ヤミ”さんは、揺らぎより沸き上がる、飛行する”怪物”共を、楽しそうに睨みつけます。その出現は広範囲におよび、数もそれなりに、数百はあるようです。
翼あるもの、円盤状のもの、半透明で鎌を構えているもの、プロペラを回している機械のようなもの、気嚢のようなもので浮かぶもの、それら種々の”怪物”が、空に”沸き上がり”ます。
轟と、黒い竜が吠えます。敵愾心を生む咆哮です、”怪物”たちはそれぞれの方法で迫ってきます。そこへ、再び轟と、咆哮とともに、黒い光が束となってその口より吐き出されます。”竜の吐息”です、首を振り、光の柱を振り回します、轟音とともに爆発炎上していく”怪物”達です。
キラキラと、”水晶”が地上へと降り注ぎます。
「うーん、たまに全力で”ブレス(breath)”を吐くとすっきりするなー」にこやかな表情かどうかは、は虫類顔なのでよく分かりませんが、能天気なセリフをのんきに言う、巨大な黒竜の、ヤミさんです。
「気をつけてくださいね、山肌に当たると、地形が変わりますから」ヤミさんの側に同じく浮いているのは、竜の洞窟に居候している”堕天使”のエルさんです。
「りょうかい、りょうかいっと。お、おかわりが来るかな?」軽く返事をして、また”怪物”の出現を感知するヤミさんです。
「……おいおい、すごいなあこりゃぁ」
「わあ……」
そこには空を埋め尽くすがごとく、沸き上がった怪物達がいました。
「『敵が7分に空が3分』どころじゃないねー」乾いた笑いのヤミさんです。
「空が見えない……」同じくちょっと唖然としているエルさんです。
まさしく、膨大な物量で、巨竜を押包まんと迫り来る空飛ぶ”怪物”達です。半端なブレスでは、分厚い敵軍を切り裂けそうもありません。そして、全敵が動き出します。
「しかし僕は慌てない『こんなこともあろうかと』さ!」その声を合図にして、空を揺るがす轟音が、響き渡ります。エンジン音です。背後にそびえ立っていた雷雲が、”それ”を覆い隠していた、黒い雲が、吹き飛ばされます。そこには、
空飛ぶ山のような、”鋼の島”があったのです。
そしてその”鋼の島”の各部装甲がスライドし、ハリネズミのごとく大小の砲門が出現します。
「主砲128門、副砲2,048門、対空機銃4万とんで28丁!”波動エンジン”17機搭載の、超超超巨大”宇宙”戦艦、その名も”Dragon Ark”(製作時間100年と10ヶ月)の初お披露目であります!」いつの間にか軍帽をナナメにかぶっているヤミさんです、のりのりです。
「というわけで、全速前進し敵軍中央へと突貫!、あーんど、全砲門各個に目標を定め撃破せよ!」すごい笑顔を浮かべているのが、口調で分かります。
「うーん、男の子ってどうしてこういうのが好きなんでしょうかね……」エルさんがあきれています。
男の子(10万と38歳の竜の人)は、高笑いとともに、ご自慢の作品と一緒に”怪物”の群れへと、突入していきます。
「あー、地形が変わる前に、事態が収拾してくれるでしょうか?」肩をすくめながら、こちらはこちらで、細かく”怪物”を除去していく”堕天使”さんでした。
***
「見つけましたよ!」ヤマトお爺さんと、”ガンマン”のシルフィさんは、騒ぎの元凶である”サトリ”を発見しました。そこは打ち捨てられた石造りの神殿跡で、”それ”は不敵に笑っているような雰囲気を醸し出していました。
「……逃げませんね?」シルフィは不思議そうに”銃”を構えながら言いました。
「逃がしませんよ」すらりと細身の剣を抜き構えるヤマトさんです。
二人が、”サトリ”に迫ったその瞬間、”サトリ”の存在が、その力を大幅に増します。空気を震わせて、そして爆発的な光を周囲に撒き散らします
『!!』二人はその光に巻き込まれまれてしまいます。
***
「お、どうやら、”サトリ”の位置が特定できたみたいだね、そいじゃ、ここは”兵”に任せていきますか」ポケットに手を入れて、ひょいと歩きさるナギ様です。
***
「ほう、なにやら”サトリ”の方で手間取っているみたいだな、では、そちらへ加勢いくとしようか」『法師』の唄がロックンロール調に変化して、ノリノリに踊っている亡者あふれる会場を、後にするナミ様です。
***
「こら!主砲を地上に向けさせないでください!地形がかわってるじゃないですか!」
「ごめんなさい、後で直さなきゃなー」
空中壊滅戦線では、いまだ戦闘が続行中でした。
***
「苦戦しているみたいじゃないか」へらりと笑いながら、森より登場するナギ様、それを感じたヤマトお爺さんは言います。
「わっ、馬鹿、くるな」と。
「へ?」怪訝な表情をするナギ様です。
「どうしたんだ、本体を見つけたにしてはやけに手間取っているな?」続いて、ナミさんも宙より降り立ちます。
「ああ、ナミさままで来ちゃいましたか……」ヤマトさんがうなだれます。
「?どういうことだ?」
「ヤマトおじーさん!また”濃く”なったよ!」シルフィさんが、”拳銃”の”光弾”で牽制しながら、”それ”の変化を報告します。
ナギ様、ナミ様がそちらを見ると、爆発音と共に”それ”が光に包まれます。そして次の瞬間、”それ”は存在する力を増して、周囲に圧力を振りまいていました。
「なんだこりゃあ」呆然と尋ねるナギ様です
「『物語喰らい(data eater)』ですよ、この"サトリ"は」力弱く言うヤマトさん。
「はあ?!」
「周囲の”存在するための力”と、観察されるという行為そのものを喰らって強くなるんです。つまりですね、周囲にある存在のそれまでの『時間』に関連付けられる、『歴史』と、観察される度合いを掛け合わせたものを、すべてを己の”力”に変化させて、強化するんです。あれを事細かに認識して観察すればするほど強固になるんです。観察するものが、深い『歴史』を持っていればいるほど、強くなるのです。攻撃をするということは、相手を強く認識するということですから、それだけでこちら側の攻撃力が減退されるんですよ」
「それはまずいな、我ら二柱、国の『歴史』を体現するほどには、『古い』いぞ」苦虫を潰したような顔をしても美人だとわかるナミさまです。
「私もそうです。だから、ほとんどそういう要素がない、シルフィさんが、どうにか牽制していますが、彼女にも『過去』があり、”サトリ”を認識している以上、規格外の感知能力が仇になって、とどめをさすほどの威力の攻撃にはならないのです」
「うわぁ、打つ手あるの?」冷や汗とともにナギさんです。
「正直、思いつきません」こちらも、困っているヤマトさん。
「とりあえず、封印してみるか?」ナミさんが、”力”を放ちます、が、効果がないようです。
「『歴史』あるものからの攻撃と見なされているようですね」
「それでさ、あれ、どんどんプレッシャーが増しているようなんだけど?」指し示すのはナギさん。
「『自己増殖』でしょうかね?自身の複写した『物語』をさらに増やしているようです……そのままこちらを飲み込むつもりではないでしょうか?」老人が言います。
「冷静に言っている場合か?逃げようぜ!」
「いや、しかし彼女をほってはいけない!」
「……今も、私は、”サトリ”に接続して、”力”の増幅を邪魔しているのです。私が離れたら瞬時に”終わり”ですよ……」少し苦しそうに言うヤマト老人です。
そのとき、少女が明るい声を出します
「大丈夫なのです」にぱりと笑いながら、「そろそろ師匠が帰ってくるのです。そして、師匠なら、軽く一撃で終わるのです」心の底から信じてます。というよりも、自明の理を語っている口調のシルフィさんです。
「いやさすがにそれは、無理じ」と言いかけたナギ様のセリフにかぶせるように、”銃声”が周囲に響きわたります。
「『騎兵隊のお出ましだ』!」高笑いと共に、葦毛の馬に乗って、”ガンマン(ヒーロー)”の登場です。そこには、テンガロンハットをナナメにかぶり、茶色のチョッキに、青いズボン、硝煙たなびくロングバレルのリボルバーを右手に、左手に手綱をもった、ちょっと小柄の青い眼の青年が、不敵な笑顔で、見栄を切っていました。
「どうしたどうした、『鳩が豆鉄砲を喰らった』ような顔をしやがって、こんな雑魚あいてになにちんたらやってるんだ!とっとと、親玉のところに案内しやがりな!」と、”光弾”を叩き付けて、地面に倒れている”もの”を指差して言い放ちました。
ヤマトお爺さんは無言で、”それ”をつまんで、封印していきます。
「……いや、親玉ってのは、そのお前が言う”雑魚”だから……」ちょっと呆然とするナギ様です。
「へ?」ちょっと間抜けな表情をする、シルフィの師匠、ビリーさんでした。
「さすが師匠なのです」にぱりと笑うシルフィさんでした。
***
「なんで、こんなにあっさりと、やれたんです?」ナミ様がヤマト老人に尋ねます
「つまるところビリーさんには『歴史』が無いからでしょうか?あと、ビリーさん自身、”サトリ”を認識していなかったですから、攻撃が有効だったのでしょう」お社に戻り、一息ついている面々です。
「?……ああ」何か思い当たって、笑い出すナギ様です。
「その場その場の勢いで、刹那的に生きるビリーさんには、そもそも”サトリ”が感知できる『歴史』がなかったか、感じられるほど、伝わらなかったのでしょうね、さらには、相手を殆ど認識せずに、撃ってましたから……」解説を加えるヤマトさんです。
「なんだか、すごく失礼な事を言われている気がするぜ」
「ぶはははは、確かに脊髄反射で生きているよなビリーは」境内で、大爆笑の巨大竜ヤミさんです。
無言で、その顔に銃弾を叩き込むビリーさん
「笑うな、撃つぞ」
「撃ってから言ったね!それ痛んだぞ!」……痛いですんでいる所が非常識なのですが。
「……たしかに、脊髄反射ですね」エルさんが納得して頷きました。
「とにかく、師匠はすごいのですよ」にこにこと笑い、褒めるシルフィさんでした。
神社の不自然に広い境内では、巨大竜とガンマンが仲良く喧嘩をしておられます。
二柱のご夫婦は仲良くお茶を頂いています。
黒い翼の堕天使さんは、くすくす笑いながら、喧嘩をみています。
神主のヤマトお爺さんは我関せずと、甘味を口にしています。
銀髪少女、呪われて、死にかけて、師匠に救われた、”ガンマン”のシルフィさんは、にこにこと無邪気に笑っています。
辺境の”お山”は今日も平和なようですよ