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プロローグ

「ほら、お前が欲しがってた本」


 薄暗い小部屋の中。そう言って、金髪の男が投げるように茶髪の男に渡した。見事受け取った茶髪の男は嬉しそうに笑って言った。


「毎度ありがとなアーサー。……ああ、確かにこれだ。絶版になった、この星の創世記の物語……」


 茶髪の男は金髪の男をアーサーと呼び、貰った本をうっとりと眺めた。その様子を訝しげに見るアーサー。


「なあリチャード、頼まれたから持ってきたが、本当にそれでいいのか? こう言っては何だが、それは女子供向けに書かれたもので、そんなもの読むくらいなら歴史書のほうが……」


 アーサーは茶髪の男をリチャードと呼んだ。そのアーサーの問いにリチャードは笑って答えた。


「歴史書ならもう読んだ。参考になるが、あれは基本中の基本しか書かれない。それよりはこういう物語染みたもののほうが、案外隠れた真実があったりしていい。それに、これが参考文献にした元の本は散逸している。俺的にはこっちのほうが重要だね」


 そう真面目な顔で言って、リチャードは本のページをめくりながら内容を読み上げた。



「あるところに偉大な錬金術師がいました。


 錬金術師は神のような人で、あらゆる学問に精通していました。


 けれど、そんな錬金術師も、戦争に明け暮れる社会を止める事はできないのでした。


 荒地に小屋を建てて、一人の弟子とともに大好きな研究を続ける日々。人の多い所は必ず争いになっていたので、背に腹は代えられないと判断してのことでした。


 弟子は言います。『いつかお師匠様がこの争いを止めるような素晴らしい発明をしてくれたら』

 錬金術師は言います。『その為にわたしも研究しているのだよ。この世界の人間が、誰も死ななくていい発明を……』


 その願いは叶いました。錬金術師は今は失われた技術を使って、『神』 を作り上げたのです。


 世にも美しい青年の人形でした。しかもただ美しいだけでなく、一定の条件を満たすと願いを一つだけなら何でも叶えるという魔法のような力まで備わっていたのです。


 弟子は言います。『お師匠様、素晴らしいです! 我々はついに神すら超えた!』

 ところが錬金術師は言います。『違う、これは失敗作だ。処分せねばなるまい。そうでなくば使用に条件をつけるべきだ』


 錬金術師が言ったことは杞憂だったのでしょう。

 その人形は、異界から選ばれし者を召喚し、世の暴君達を打ち倒し、統一王朝を作り上げ、今も世界を見守っているのです」


 リチャードは本の内容を全て読み上げたあと、パタンと閉じた。そしてしばしの間、思案に暮れる。

 いつもの考え込む癖が出た、と思ったアーサーは、こうなると話しかけても返事がないのを知っているので、ここでお暇することにした。


「さて、用事も済んだから俺は帰るぞ。またな」


 部屋から出て行く友人のアーサーのことを気にも留めず、リチャードはぶつぶつと呟いた。


「だから……何でここであいつのあだ名が『神が愛した人形』 になるんだ? これにもヒントらしいヒントは無かった。『人形』 なんて、まるで……。いやそれより、世界を統一して平和にしたなら、どうしてあの『人形』は」




◇◇◇




「貴女に、殺してほしい人がいます」


 学校の、帰り道だった。

 突然光に包まれたと思ったら、ここにいた。

 乾燥した空気、お世辞にも綺麗とは言えない小屋? の中。

 その中で目の前の人は、夢のように綺麗な男の人だった。

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