その一言
「ぼ、僕と、結婚してください!!」
私はその一言を待っている。
その一言を聞けば、素直に「うん」といえる。
目の前には中学生のときから付き合っている彼氏の俊司だ。
もう付き合って10年目。
それを知ってか知らないでか、少し高めのイタリアンにつれてきてくれた。
私もうすうす勘付いていた。
だって、明らかに態度がおかしいもの。
落ち着きがないのはいつものことだけど、いつもに増してさらに落ち着きがない。
目がキョロキョロしているのだ。
いっそのこと、私から言おうかしら……
そんな考えが頭をよぎる。
子供のころから何度も想像していた、自分のプロポーズされる時を。
だがしかし、想像とは全く違う。
私の理想は、川沿いを夜散歩してて、二人でのんびり話しながら、歩いているの。すると突然、後ろからギュっと抱きしめられて、耳元で「結婚しよ?」とささやかれるのがいい!
あぁ、何年間想像してきたものか……この年になった今でもキュンとなってしまう。
あー、いつかはそうしたいな……
「……あかね……おーい?あかね?……」
つい考え事に夢中になっていたようだ。
「あっ、あ、ごめんなさい。」
「いや、別にいいんだ。」
「……」
「……」
沈黙が続く。
すると俊司は覚悟を決めたかのように唇をかみ、コクっと頷いた。
「話があります。」
ついに、きたのか!?理想のシチュエーションとは少し違うものの、俊司に任せてみることにした。私も自分なりに覚悟を決める。
「最近、失くしたものないか?」
な、失くしたもの!?そこは黙ってあの箱を出すんじゃないの?
そう思ったものの、最近片付けしたときのことを思い出して、なくなったものを思い出していた。
確か、アクセサリー系だったような気がするけど……
あ!私のおばあちゃんから受け継がれている指輪がない!
「そういえば、おばあちゃんから受け継いだ指輪がない。あの、ダイアモンドのやつ。」
「その件で、謝らなければいけないことがある。ごめん!勝手に持ち出してしまった!」
「えー!?本当に!何のために?」
「そ、それは……」
まさかお金に困っていたとかそういうことじゃないでしょうね?それだったら正真正銘最悪な男だわ。この10年が無駄になった気がするわ……
「ハッキリ言いなさいよ!あ~そういうことね。高いお店につれてくれば私が笑って許すとでも思った!?」
「ま、まさか!それは絶対にない!っていうか一旦落ち着いてくれない?」
「落ち着けるわけないでしょ!あんなおばあちゃんから受け継いだものを……あんたにはそういうのを大事にしようという気はないの!?」
少し声を荒げてしまった。
そんな自分に反省をする。
スーーッ
俊司があの箱を出してきた。あの箱
「こ、これは!?」
「いいから開けてみて。」
心臓の鼓動が早くなる。
ゆっくりとした動作で箱を手に取る。
そして開けた瞬間の輝きを信じて開ける。
え……?
そこにあったのは輝きを放ったダイア……ではなく家の鍵。
「なにこれ?」
「見ての通り、家の鍵だよ。今日から一生同じ屋根の下で過ごしませんか?」
あまりの嬉しさに涙がこぼれた。
理想としていたシチュエーションとは違うけど、俊司なりに頑張ってくれたんだ。
この鍵をみていると、今までの波乱の連続だった交際の時を思い出した。
もう、この瞬間からカレカノじゃない。
夫婦なんだ!
そう思うとさらに胸が熱くなり、涙が止まらなくなった。
そこにやさしくハンカチを差し出してくれる俊司。
そのハンカチで涙を拭く。
しかし、箱の上の蓋の方に何かがあるようで凹凸が出来ている。
彼は何も言わない。
気になって開けてみた。
そこには前よりも輝きを増した指輪があった。
「え……ぐすん……」
「そんなになかないで。勝手に持ち出したことは本当にごめんね?でも、どうしてもこうしたかったんだ。」
「もう、俊司のばか!なんでこんなことするの?うれしすぎるじゃん……」
つい、本音がポロリ
「よかった、喜んでもらえた!」
「でも、勝手に持ち出したことは許さないよ!家に帰ったら覚えててね?」
「う、うん……なんかこわいな~」
一時、私は泣き、俊司は嬉しそうにニコニコしていた。
「そろそろ、帰ろうか?」
「うん」
そういうと席を立ち、会計へと向かった。
私もお金を出そうと財布を出すと、手首を握ってかばんの中に戻した。
そういうことね……
家に帰るまでの道のり。
私たちの右側には川が流れていた。
「今日から一緒の家なんだね。」
「まぁな。でもこれといって変わることはないでしょ?」
「そーかなぁ……?」
一時道を歩く。今は嬉しさで頭が真っ白なのだ。
何も考えずに歩いていた。すると突然!
ギュッ
「これから、お前を一生守るから。一生ついて来いよな?」
「うん!」
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