小犬
小犬は生きている。生きている。
僕を見つけて走ってくる。確かに小犬は生きている。
小犬は死んでいる。死んでいる。
僕にはそれが本当かは分からない。
でも、小犬はきっと死んでいる。
小犬は知らなかった。
たった今、死ぬまで、自分が生きていたことを。
小犬は死にかけていた。
僕は小犬の声を聞いた。
ボクはどうなるの? 恐い、怖いよ……。
だんだん意識が遠くなっていく……。眠たい訳でもないのに……。
僕は答えた。
「死ぬんだよ……」
死ぬ……って?
「僕もわからない……。
きっと、ずっと眠っているようなものさ。
夢の世界に旅立つんだ」
僕は少しでも、小犬を安心させたかった。
けれど小犬は、いっそう不安になった。
ボクは夢を見れないときがある……。
空を流れる青い風は、小犬をただの着ぐるみにかえた。
小犬が死んでから、地球は太陽のまわりを何周もまわった。
僕は、夕焼けのだいだい色に染まる草むらをひとり眺めていた。
もうすぐ一日も終わる。
今は、なにもかもが終わりに近づいているように感じられる。
そう思ったときだった。
ボクを覚えていますか?
確かに声が聞こえた。
僕は周りを見渡した。
やけにこわくなった。
「……っ誰だ!?」
一応、叫んでみた。
国道を走る車の音が絶えず聞こえてくるだけだった。
気のせい、だと思った。
でも、まだ響いていた。
「……そうか、お前だな」
僕は、小犬の小さなお墓の前に座った。
「ごめん。
忘れかけてたよ……」
僕は素直に謝った。
お墓もきれいにして、小犬のベッドをととのえた。
「きれいになったぞ。
これでゆっくり眠れるだろう? いい夢見ろよ……。
おやすみ……」
僕は恋をした。
僕は彼女に、小犬の話をした。
彼女は、風に髪をなびかせながら、その話を聞いていたものだ。
待ち合わせの時刻。
僕は彼女が来るのを待った。なぜか、小犬のことを考える。
(きっと、お前さんが僕に夢を見させてくれてるんだろ?)
彼女がやってきた。
僕たちは手をつなぎ、ゆっくり歩き出した。
青空が
「これでもか」
と言わんばかりに、白雲を押しのけて広がっている。