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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ヘッドフォン

作者: しげのな
掲載日:2026/08/12

私は菊池良美と言います

二十歳の学生です


まぁ特にこれといった特別なものはない、至って普通の女子です


ホントですよ


普通に講義に出て、普通に友達と遊び、普通に気になる人がいます


そうなんです

最近、とても気になる人がいるんです


佐藤祐司


時々同じ講義で見かける男性


いつもひとりでいるので詳しい事はまったく分からないのですが、少し影のある物静かな彼に、何故かとても惹かれるのです


そんな彼が、どういう訳か私に話しかけてきました


それは、次の講義までの待ち時間をラウンジで過ごしていた時です


「あの……同じ講義を受けていますよね?確か菊池さん……でよかったかな?」


「あ、はい、菊池です。」


ビックリしました


突然声をかけられたのもそうですが……いえ、ここのラウンジに彼がいる事を知っているうえで私もここにいて、彼の事をチラチラ見ていたのは確かなのですが、彼が私の名前を知っている事に驚きました


「次の講義を受ける人が他にいないので、ちょっと教えてほしいことがあって……よかったら聞いてもいいかな?」


「は、はい!私でよければ。」


「ありがとう。僕は佐藤って言います。よろしくね。」




キッカケなんて、どこに転がっているのか分からないものですね

こんな些細な事がキッカケで、私達は時々話すくらいには仲良くなりました


彼はとても親しみやすい人で優しく、私はますます好意を寄せていったのですが、そんな彼が、ある日突然遊びに行かないかと誘ってきました


もちろん迷うこと無く、私は誘いに乗りました


遊びに行くと言っても、近くのショッピングモール・ライオンに行くだけです


まぁ最初のお出掛けなんて、そんなものじゃないですか?

よく知りませんが


彼と過ごす時間は、とても楽しいものでした

ただお店を見たり、買い物したり、なんてこと無い時間を過ごしたのですが、それがとても楽しいひと時でした


そして、ちょっとしたアトラクションもある、ゲームセンターを大きくしたようなところで遊んでいた時、彼にひとつのアトラクションに誘われました


それはお化け屋敷……とはちょっと違いますか

入り口の装飾や内部の雰囲気は、どこからどう見てもお化け屋敷です


ホラー系アトラクションです


ただ違うのは、自分で歩いて出口に向かうとか、乗り物に乗って出口に向かうとか……ではなく、暗い部屋で椅子に座り、ヘッドフォンをして、そこから聞こえる音で恐怖感を体験する……といったものでした


私は、このタイプのアトラクションが初めてだったので興味津々でした

なので彼に誘われるままに、そのお化け屋敷に入りました


中に入ると、中々雰囲気のある作りになっています

要するに、そこだけでも充分に怖いのです


私は思わず彼の腕にしがみつきました

決して狙っていたわけではありません


私達は係員に案内されるまま椅子に座りました


「ではヘッドフォンを装着してください。」


指示に従い、私はヘッドフォンを装着しました

すると照明が消されて、辺りは真っ暗になりました

私は目を瞑り、意識を耳に集中します


「コツコツコツコツ……」


足音が徐々に近付いてきます


「カシャン……カシャン……」


これは……ハサミの音でしょうか


まるで私が逃げているような感覚

そして、まるで追いかけられているような感覚


追いかけてくる足音

そしてハサミの音

もう追いつかれてしまう


私が緊張したその時、音はノイズ音になりました


「カサカサカサ……」


なんだか先程とは雰囲気の違う音になりました


「こういう設定なのかな?」


イマイチ世界観が分からない展開に戸惑いつつも、私は耳に集中しました


「カサカサカサカサカサカサ……」

「カサカサカサカサカサカサ……」

「ブーン……ブーン……」


時折、羽音も混じっています

展開の変化についていけません


私はどうにも不安になり、隣に座っている彼の手を取ろうとしました


確かに手を伸ばしました


そこに彼はいるはずでした


なのに……伸ばした手は空を切りました


「…………」


私は手を振ります

しかし何もぶつかりません


隣に彼はいるはずです

でも何も手に触れません


私は怖くなりました


目を開けましたが、元から真っ暗なので何も見えません


私は思わずヘッドフォンを外しました


確かに外しました


それなのに……


それなのに、まだカサカサと音が聞こえます


「……佐藤くん……?」


小声で呼びかけましたが、返事はありません

ますます不安になりました


私は立ち上がり、佐藤くんの方に足を踏み出したところで、異様な感覚を足の裏に感じました


「ブチッ……ブチッ……」


「ぎゃっ!」


何かを踏み潰す気色の悪い感覚と音に、私は変な声を出してしまいました


しかし、それに答える返事はありません

私は意を決して、スマホの画面を点けました


………


私は完全に固まりました


目に入ったのは………


床……壁……天井……


全てを黒い何かが埋め尽くし、蠢いていました


それは羽ばたき、飛び回ってもいました


「ゴ……ゴキ……ブリ……」


それは、スマホの光を目指して飛んできました


スマホを持つ腕に纏わりつくそれは、おびただしい数になり、私は腕を思いっきり振りながら、声にもならない叫び声をあげました


「…………ッ!!」


私は走り出しました……しかしすぐに壁に顔面を打ち付けてしまいました


転びそうになったところを何とか踏みとどまり、私は出口を探します


私は絶望しました


私のいる場所は、四畳半程の扉も何もない部屋だったのです


完全に閉じ込められてしまったのです


腕に纏わりつく蟲

足から這い上がってくる蟲


「ぐぎゃーーー!!……!?」


私が大声で叫ぶと、蟲は私の口の中にも入ってきました


慌てて口を噛みしめると、たくさんの蟲も噛み潰し、口の中が苦い汁で溢れました


私は嘔吐しました

涙も鼻水も流しました


それらに、また蟲が集まってきます


「佐藤くん!佐藤くん!」


叫ぼうとすると更に口から蟲が侵入し、それは気管にも胃にも入り込んできました


私の全身が蟲に覆われます


体の外側も内側も蟲に襲われます


もはや助けも呼べません


私を覆った蟲は、私に噛みつき肉を食いちぎりました

溢れる血をすすりました

体内でも内臓が食いちぎられています


強烈な痛みを全身に感じます

私の意識は徐々に遠退いていきます


「痛い…………」

「苦しい………」

「助けて………」

「………………」

「………………」

「………………」

「…………ムシャ」

「…………ムシャムシャ」

「…………美味しい」

「…………ムシャムシャ」

「…………こんな美味しい物は食べたことが無いわ」

「…………幸せだわ」


私はとても美味しい食事に、かつてない幸福感を味わっていました


よく目を凝らしてみると、私が今食べているのは、絶命している菊池良美の眼球でした


私は、かつて自分の顔だったモノにへばり付き、無我夢中で食べていました


「そんなに美味しいかい?」


上から優しい声が聞こえます


「はい!とても美味しいです!佐藤くん!」


私は、たくさんの仲間達と、私の元の身体を食べ尽くしました


「佐藤くん!もっと食べたい!」

「佐藤くん!たくさん食べたい!」

「佐藤くん!次の人を連れてきて!」


私と仲間達は声を揃えて催促します


「カサカサカサ……」


「分かった、分かった、また連れてくるから待っててね。」




私は山下由美

今年入学した、まだ新入生って言っていいかな


そんな私、最近ちょっと気になる人がいるんだよね


彼はひとりでいる事が多くてさ、詳しい事はよく分からないんだけど、なんか少し影のある感じにすごく惹かれるんだよね


そんな彼が、私に声をかけてくれたの


「こんにちは。確か同じ講義を受けていたよね?僕は佐藤と言います。ちょっと教えてほしいところがあって……………」



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