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Code:002 焔血王《ブレイズブラッド》②

 赤髪の青年・アルスフリートと緑髪の青年・ルークは互いに飄々(ひょうひょう)とした様子で、恐怖や緊張といったマイナスの感情は読み取れない。


 だが、彼らが(かも)し出す堂々たる雰囲気は、血に塗れた戦場でさえ異彩を放っていた。


 強大な災魔(ハザード)たちを前にしても、決して見劣りはしない。


「ルーク、今回の作戦は……」

術式駆動(コード・オン)!」

「おい、待て」

「展開せよ── 《ツヴァイ・ライトニング》!」


 待ち切れないとばかりに術式(コード)の構築を開始したルーク。

 数秒後、その手に現れたのは雷の属性を宿す一対の刃だ。


 彼はそのまま、アルスフリートの指示を聞かずに災魔(ハザード)の群勢へ突っ込んで行く。

 稲妻が(ほとばし)術式短剣(ダガーコード)(てのひら)でくるりと回し、災魔(ハザード)(ふところ)に飛び込む。


 逆手に握ったもう片方を一閃、分厚い外殻をバターのように寸断。

 勢いのまま刀身を振り上げ、その首を()ねた。


 さらに、遠心力を利用してその場で一回転。

 旋風を巻き起こし、周囲の災魔(ハザード)たちを吹き飛ばす。


「よっしゃあ、まずは一体! ちゃんと見たっスか、アルの兄貴! 僕の華麗な剣捌(けんさば)き!」

「後ろ、デカいのが来てるぞ」

「うおっ、危ねぇっ!」


 振り下ろされた剛腕を辛うじて(かわ)し、ステップで距離を取る。

 現れたのは他の個体より一際大きい巨体の災魔(ハザード)


 漆黒の外殻に金色の(へび)のような紋様が刻まれた体躯(たいく)は、その存在そのものが人間の恐怖心を刺激する。

 戦い慣れていない新兵であれば、相対しただけで意識を失ってしまうほどの威圧感だ。


「上位個体《砲頭種(シェリングヘッド)》か」

「何のこれしき、ぶった斬る!」


 いきり立って術式短剣(ダガーコード)を振り抜くが、さすがは上位個体。

 激しい連撃をものともせずに弾くと、両腕を地面に突き立てて体勢を低く取った。


 そして、鋭い牙がずらりと並んだ口を大きく開く。

 ルークを捕食しようとしているのか。


 否、その口内に魔導粒子(マギオン)のエネルギーを蓄えると、連射砲(ガトリング)の如き勢いでそれを周囲にばら撒き始めた。


「うわぁっ、何だこれっ!」

「上位個体は俺たちと同じく術式(コード)を使うんだ。前に教えただろ?」

「アルの兄貴、見てないで何とかして欲しいっスよー!」

阿呆(あほ)、何も考えないで突っ走るからだ」


 すばしこい小動物のように慌てて逃げ回るルークを見て、アルスフリートは頭を抱えた。

 実力こそ優れた術式師(コーディアン)だが、猪突猛進(ちょとつもうしん)な性格で、とりわけ戦闘になると熱くなって周囲が見えなくなるのが欠点だ。


 災魔(ハザード)を相手にそれが出来るのは恐怖心のネジが外れているという意味では才能なのだが、一人で戦わせたらいくつ命があっても足りないだろうな、とアルスフリートは内心でぼやいた。


「まあいい、少し(かが)んでいろ」


 そう言うと、アルスフリートは(てのひら)を突き出し、強く握りしめた。

 すると、食い込んだ爪の傷から血が数滴流れ、掌を赤く彩る。


 直後、空気中に浮かぶ無数の魔導粒子(マギオン)が凄い勢いで彼の(もと)に集まり始めた。


「我が血を(かて)に、具現せよ──《焔纏刃(ブレイゼル)》」


 掌を開くと、小さな傷口から燃え盛る(ほむら)が噴き出し、やがて一振りの術式大剣(ブレイドコード)へと姿を変える。


 それは術式師(コーディアン)の中でも極めて稀少(きしょう)異端(いたん)の技法。

 術者の血を触媒として魔導回路(サーキット)の反応速度を(けた)(ちが)いに()()げ、通常であれば組み上げることすら困難な数百万単位の魔導粒子(マギオン)を圧縮し、超高出力の術式(コード)を瞬間的に作り出す。


 刃渡り二メートルはあろうかという刀身は周囲の空間が歪んだと錯覚させるようなオーラを放ち、燃え盛る(ほむら)はやがて赤から蒼へと色を変えながら、バチバチと音を立てて火花を散らしていた。


「さあ、始めようか」


 アルスフリートはニヤリと笑い、一歩前に歩み出た。

 そんな彼から(あふ)れ出るエネルギーの奔流(ほんりゅう)を察知し、災魔(ハザード)が先に動く。


 無数の刃を突出させた剛腕が、虫けらを叩き潰すように軽々と振り下ろされる。

 地面を砕く衝撃音が響き渡り、見る者は凄惨(せいさん)な光景を想像した。


 しかし、そこにアルスフリートの姿はない。

 彼は災魔(ハザード)の一撃を華麗に(かわ)しながら宙を駆ける。


 そして、追尾するように狙い撃たれた速射砲(ガトリング)に対して大剣を一閃すると同時に詠唱(えいしょう)し、必殺の極技(クラフト)を発動する。


「──《天を穿つ千の魔剣シエル・ゼーデル・シュトラール》」


 直後、蒼炎の斬撃が拡散していく。

 それは暴風雨のように荒れ狂う軌道を描いて、並み居る災魔(ハザード)を強襲した。

 そして、一同は数秒後の光景に目を疑った。


 上位個体を含めた全ての災魔(ハザード)が一体残らず倒されたのだ。

 斬撃によって外殻を切り裂かれた、などという普通の倒され方ではない。


 超高出力の術式(コード)がもたらす極技(クラフト)の斬撃は衝撃波となって災魔(ハザード)を外殻ごと圧殺し、()り潰された災魔たちは揺蕩(たゆた)う煙と化して消滅していった。


「嘘、だろ……!?」

「たった一撃で、全滅させただと……!?」


 戦いの行方を見守っていたギルド【ドラグノフ】の隊員たちは、目の前で起こった出来事が理解できないのか、揃いも揃って唖然(あぜん)としている。


「おおっ、流石はアルの兄貴っス!」


 一方で、ルークはそれが当然だと言わんばかりに、目を輝かせて歓声を上げた。


 呆然(ぼうぜん)と立ち尽くすドラグノフの隊員たちを尻目に、アルスフリートは軽く伸びをすると何事も無かったかのように(きびす)を返す。


「さて、仕事も終わったし、帰るとするか」

「ちょ、待って下さいよ、アルの兄貴ー!」


 アルスフリートは軽く伸びをすると、何事も無かったかのように(きびす)を返す。

 畏敬(いけい)の眼差しを一手に集めながら、助太刀した礼を求めることなく立ち去ろうとする彼を見て、ギルド【ドラグノフ】の隊員たちが口々にこう呟いた。


「あれはまさか、《焔血王(ブレイズブラッド)》……!」

「間違いない、ギルド【フリューゲル】のエース、史上最年少でランクAに昇格したって噂の……」

「若手最強の術式師(コーディアン)、アルスフリート・ヴァレルレイドだ!」


 その名前、そして二つ名は術式師(コーディアン)生業(なりわい)とする者たちにとっては有名すぎるものであり、周囲は(にわ)かに(ざわ)めき出す。

 そんな様子にアルスフリートはやれやれと(ほお)を掻き、ルークは少し不満げな様子でこう宣言した。


「お前ら、アルの兄貴は今月からランクS(・・・・)に昇格したんだぞっ! 二度と間違えるなよ、モブども!」

「黙ってろ。余計なことは言わなくていい」

「兄貴ってば、もしかして照れてるんスか? 意外と可愛いところもあるんスね……って、うぎゃぁぁっっ!」

「俺の作戦を無視した件、忘れてないよな?」

「ひぃっ、勘弁して欲しいっスー!」


 アルスフリートはルークの頭にがっちりとアイアンクローを決めると、ずるずると引きずりながらその場を去って行った。


 * * *


「ってなわけで、今回もこの僕、ルーク様が大活躍してきたっスよ!」


 ここは魔導大国ヴェルキアの北に位置する大都市・ルーネスハーベン。

 災魔(ハザード)との戦いを担うギルドが割拠(かっきょ)するこの街で、近年頭角(とうかく)を現しているのが有力ギルドの一角【フリューゲル】だ。


 繁華街から()れた道の突き当たりに構える鋼鉄の居城。

 その最上階、執務室。


「どこまでが本当なのかしら……?」

「正しくは、最初だけ全力で突っ込んでガス欠したところをアルに尻拭いしてもらったってとこだろうな」


 (いぶか)しげな顔でルークを見つめるのはギルド長の女性・ディアーナと、ベテランの男性術式師(コーディアン)・キグナスだ。


「失礼な、僕だってちゃんと災魔(ハザード)を倒してるっス! アルの兄貴が美味しいところを全部持っていくのが悪いんスよ!」

「後でアルに伝えといてやるか、ルークが悪口言ってたってな」

「それはマジでシャレにならないからやめてほしいっス……」


 ルークが大袈裟(おおげさ)に怯えて見せる。

 そんな他愛(たわい)もないやり取りが交わされる執務室には、戦場の殺伐(さつばつ)さなど微塵(みじん)も漂っていなかった。


「そういえば、アルの兄貴はどこ行ったんスかね?」

「さあ、あの子を迎えに行ったんじゃないかしら?」


 ディアーナが(かす)かに目を細めた。

 ギルドの長として、あるいは幼き日のアルスフリートを自ら鍛え上げた師として──その声音には、教え子の成長を見守る穏やかさがある。


「例の教え子っスかぁ。アルの兄貴、あの子には激甘の超絶親バカっスからね。あーあ、僕も甘やかされたいなーっと」

「おう、俺が可愛がってやろうか?」

「意味が違うっスよ、いやマジで遠慮しとくっス」

「よし、今から修練場に行くぞ、ルーク!」

「この流れ、どこかで見たような……ひぇぇっ、ディアーナさん、助けて欲しいっスー!」


 キグナスに肩を組んで連れ去られるルークの悲鳴が廊下に遠ざかっていく。


「馬鹿ばっかりね、うちのギルドは」


 ディアーナは(あき)れた顔で、溜息を()いた。

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