練習しないと!
俺は成田 将。大学1年生だ。オーケストラサークルに入ることができたものの、このオーケストラの実力不足に呆れている。俺自身が言えることではないが、俺の思うオーケストラといえば、ドイツ留学のときに聴いた壮大な音だ。
初めての練習日だった。OB・OGらはエキストラとして呼ばれているが、練習にはほとんど来ない。いや、来れないと言った方が正しいか。仕事で忙しい社会人だからだ。合奏などまずできないから、ほとんど個人練習である。部員は10人ほど。1年生は俺以外いなかった。俺は楽器を出した。実は俺は東京に住んでいるプロのオーケストラの団員のレッスンを申し込んだ。山田 幸治さんだ。彼はもう60歳くらいであるが、ホルンを巧みに操ることができる。俺は山田さんからいただいた教本を使って毎日練習している。
「自分の吹きたい音をイメージするんだよ。」
山田さんはいつもこう言う。俺は時間があるときは常にホルンのことを考えている。少しずつ上達はしていっているようだ。
入部して1ヶ月、市民向けにミニコンサートを開く案が出た。曲は、
・行進曲『威風堂々』第1番/エルガー
・交響曲第5番「運命」/ベートーヴェン
だった。曲はどちらも有名なものであるが、俺は心配だった。『威風堂々』はこの前散々だったじゃないか。この楽団でどこまで上達するのか。ある時、部長の水野 冴子さんが話しかけてきた。
「成田君は、ホルン初心者? 上手だね。今度の演奏会なんだけど、エキストラさんが皆練習には来れないから、本番だけきてくれることになったよ。どっちも1stでいけるかな?」
俺は凍りついた。初めてのオーケストラで首席。そんなことあるか。だが、エキストラを1人で管理している水野さんには感謝している。
次の日、俺は水野さんから楽譜をもらった。楽譜には「Corno I」としっかり書かれている。それにしても難しい。楽譜を読むことは容易いが、技術が追いつかない。俺は山田さんにお手本を演奏してもらい、録音し、毎日それを聴いた。本番は8月。それまでに完璧に演奏できるようにしなければならない。必死に練習した。
ある時合奏があった。合奏といっても団員しか集まらない。水野さんはヴァイオリンでコンミスだ。どの楽器も1人から2人ほどしかいない。指揮者は音楽家の先生らしいがあんまり上手じゃない。初日は曲1つ通すことすらできなかった。俺も全くできなかった。ハードルが高すぎた。でも、絶対に成功して見せるという熱意があった。
「練習しないと!」
俺は急いで家に帰った。




