運命は扉を叩く
俺は成田 将。合宿最終日の今日は、すごく心地が良い。運命の最終楽章の第4楽章を演奏する。指揮を振るとドミソの和音が響き渡る。人数の多い楽団ではないが、それでも迫力のある音になるのだから本当にすごい曲だ。俺は渾身の力を振り絞って吹き切った。
練習が終わると俺はクタクタだった。しっかり疲れた。でも全てを出し切った感じがある。俺は満足だった。練習が終わった後、何人かと話をしたから少しだけ顔が広くなった。もう時間がないが、俺にできることを全力でやろうと誓った。
ー東京都ー
家に帰りついた。いつも通り母親が出迎えてくれる。
「ただいま!」
俺も返事した。
「合宿楽しかった?」
母に聞かれた。俺は言った。
「楽しかったよ!」
俺は疲れていたが元気に言った。母はニコッと笑った。
残りの期間は俺が指揮したときもあったが、かなり成長を感じた。確実に上手くなっている。エキストラの参加も増え、ようやく曲が曲らしくなってきた。
前日のホールリハーサルの日だ。ホールは良く響く。俺が一番懸念したのは響きによるズレだった。だがリハーサルでは上手く行っていた。エキストラの方々も個人練習の時間を増やしていたらしい。明らかに音が違った。豊かな音だった。
俺は家の前まで帰ってくると、ふとドアを叩いてみた。
「タタタタン」
すると母が出てきた。
「何をしてるのよ。もうご飯できたわよ。早く入って。」
俺がドアを叩いたのは、シンドラーの伝記エピソード「運命は扉を叩く」を感じたかったからだ。今では嘘とされているエピソードだが、あまりにも有名すぎる話であった。運命をどのように演奏すれば良いかを最後まで悩んでいたのだ。ご飯の間も悩んでいると母が言った。
「明日の演奏会楽しみにしているからね。将がどんだけ上手になったのかを聴いてみたいし。あの楽団がどんだけ上手になったのかも気になるし。」
母を悲しませたくはない。俺は絶対に成功してみせると心に誓った。夏の暑い夜だったが、俺はしっかりと睡眠時間を確保したのだった。




