3/269 人不見者 我袖用手 将隠乎
阿倍女郎の歌
515のみ中臣朝臣東人から阿倍女郎への歌
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原文:人不見者 我袖用手 将隠乎 所焼乍可将有 不服而来来
訓読:人見ずは 我が袖もちて 隠さむを 焼けつつかあらむ 着ずて来にけり
仮名:ひとみずは わがそでもちて かくさむを やけつつかあらむ きずてきにけり
校異:来来 [紀][細] 来々
***私的解釈***
修正:人不見者 我袖用手 将隠矣 所焼乍可将有 不服而来来
訓読:人見なば 我が袖もちて 隠さむに 焼けつつあらむか 着ずて来にかり
仮名:ひとみなば わがそでもちて かくさむに やけつつあらむか きずてきにかり
乎→矣。
誰もいなければ私の服を掛けてあげるのに。今も燃え続けているのか、着のみ着のままで転がり込んできた。
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4/505
原文:今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎
訓読:今さらに 何をか思はむ うち靡き 心は君に 寄りにしものを
仮名:いまさらに なにをかおもはむ うちなびき こころはきみに よりにしものを
***私的解釈***
修正:今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎
訓読:今さらに 何を思はむか 内靡く 心は君に 寄りにしものを
仮名:いまさらに なにをおもはむか うちなびく こころはきみに よりにしものを
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4/506
原文:吾背子波 物莫念 事之有者 火尓毛水尓<母> 吾莫七國
訓読:我が背子は 物な思ひそ 事しあらば 火にも水にも 我れなけなくに
仮名:わがせこは ものなおもひそ ことしあらば ひにもみづにも われなけなくに
校異:毛→母 [桂][元][紀]
***私的解釈***
修正:吾背子者 物莫念 事之有波 火尓<母>水尓毛 吾莫七國
訓読:吾が背子は 物思ふなかれ 事あらしは 火にも水にも 吾れ負く勿くに
仮名:あがせこは ものおもふなかれ ことあらしは ひにもみづにも あれまくなくに
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4/514
原文:吾背子之 盖世流衣之 針目不落 入尓家良之 我情副
訓読:我が背子が 着せる衣の 針目おちず 入りにけらしも 我が心さへ
仮名:わがせこが けせるころもの はりめおちず いりにけらしも わがこころさへ
校異:入 [紀] 入来
***私的解釈***
修正:吾背子之 盖衣世流之 針目不落 入尓家良之 我情副
訓読:吾が背子が 蓋し着せるが 針目おちず 入りにけらしも 我が心添ふ
仮名:あがせこが けだしけせるが はりめおちず いりにけらしも わがこころそふ
彼の服の針目が広がって消えないくらいに着古しているのも心惹かれる。
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4/515
題詞:中臣朝臣東人贈阿倍女郎歌一首
原文:獨宿而 絶西紐緒 忌見跡 世武為便不知 哭耳之曽泣
訓読:ひとり寝て 絶えにし紐を ゆゆしみと 為むすべ知らに 音のみしぞ泣く
仮名:ひとりねて たえにしひもを ゆゆしみと せむすべしらに ねのみしぞなく
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修正:獨宿而 絶西紐緒 忌跡見 世武為便不知 哭耳曽泣之
訓読:ひとり寝て 絶えにし紐を ゆゆしと見 せむすべ知らに 音のみ泣きしぞ
仮名:ひとりねて たえにしひもを ゆゆしとみ せむすべしらに ねのみなきしぞ
独りで寝て、絶えなかった紐を由々しと見てしまい、どうすればいいかわからず声をあげて泣いた。
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4/516
原文:吾以在 三相二搓流 絲用而 附手益物 今曽悔寸
訓読:我が持てる 三相に搓れる 糸もちて 付けてましもの 今ぞ悔しき
仮名:わがもてる みつあひによれる いともちて つけてましもの いまぞくやしき
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修正:吾以在 三相二搓流 絲用而 附益物乎 今曽悔寸
訓読:吾が持ちある 三相に搓れる 糸もちて 附けましものを 今悔しきぞ
仮名:あがもたる みつあひによれる いともちて つけましものを いまくやしきぞ
手→乎。