表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青ちゃん  作者: 夜野聡
4/5

踏切を渡る

 街中を探し回り、僕は駅前で慶と夏海を見つけた。二人はぎこちない動作で手を繋ぎはじめた。あぁやっとか。幽霊になって初めて親友たちの姿を目にして、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。でも同時に、二人が結ばれたようで安心した。

 電車に乗り込む二人を追いかけて、僕も一緒の車両に乗る。気づかれることなく、二人のそばにいるのは少し寂しいけど、懐かしい心地よさを思い出した。会話を聞くと、どうやら鎌倉に行くようだ。

 鎌倉に着くと、懐かしい道を歩き始める二人。中学生の頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。最初は気まずそうだった二人の雰囲気も、少しずつ和らいでいくのが分かった。

「ねえ、覚えてる? この神社で青ちゃんが転んで、お守り売り場のおばちゃんに励まされたの」

夏海の言葉に、僕も思わず笑みがこぼれた。勿論、その出来事も覚えている。

「そうそう。あの時、膝を擦りむいたんだけど誰も絆創膏を持ってなくて、近くのコンビニまで買いに行ったよね」

 あれは痛かったなぁ。せっかく三人での初鎌倉旅行だったのに、あの怪我のせいで午後の予定を大幅変更せざるを得なくて、でも何一つ嫌な顔を見せず、楽しそうに次の観光地を提案してくれた二人は、やっぱりかけがえのない親友だった。

 昼食の時間になり、あの時三人でたどり着いた小さな食堂に入る二人。テーブルに着くと、夏海が突然涙ぐんだ。

「ごめん...青ちゃんのことを思い出して...」

夏海の言葉に、僕も胸が熱くなる。慶が優しく夏海の手を握るのを見て、少し切ない気持ちになったけれど、同時に安心した。

「大丈夫だよ。きっと青山も、俺たちが幸せになることを望んでいると思う」

 慶の言葉に、思わず頷いていた。そうだ、僕は二人の幸せを何より願っている。どうしたってもう生き返ることなんてできない。願うことしかできないんだ。見守ることしかできないんだ。あの世から二人を応援することが、僕にできるせめてもの恩返しなのかもしれない。自分の人生に価値を与えることができなかった僕は、二人の人生が幸せに続くことを祈り続ける。

 二人が東京に帰るのを密かに見送り、僕は湘南の砂浜に移動した。もうやり残したことは無い。そう呟いた瞬間、魂がもの凄い勢いで天に昇り、着いた場所は真っ白だった。そこから先は何もわからない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ