踏切を渡る
街中を探し回り、僕は駅前で慶と夏海を見つけた。二人はぎこちない動作で手を繋ぎはじめた。あぁやっとか。幽霊になって初めて親友たちの姿を目にして、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。でも同時に、二人が結ばれたようで安心した。
電車に乗り込む二人を追いかけて、僕も一緒の車両に乗る。気づかれることなく、二人のそばにいるのは少し寂しいけど、懐かしい心地よさを思い出した。会話を聞くと、どうやら鎌倉に行くようだ。
鎌倉に着くと、懐かしい道を歩き始める二人。中学生の頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。最初は気まずそうだった二人の雰囲気も、少しずつ和らいでいくのが分かった。
「ねえ、覚えてる? この神社で青ちゃんが転んで、お守り売り場のおばちゃんに励まされたの」
夏海の言葉に、僕も思わず笑みがこぼれた。勿論、その出来事も覚えている。
「そうそう。あの時、膝を擦りむいたんだけど誰も絆創膏を持ってなくて、近くのコンビニまで買いに行ったよね」
あれは痛かったなぁ。せっかく三人での初鎌倉旅行だったのに、あの怪我のせいで午後の予定を大幅変更せざるを得なくて、でも何一つ嫌な顔を見せず、楽しそうに次の観光地を提案してくれた二人は、やっぱりかけがえのない親友だった。
昼食の時間になり、あの時三人でたどり着いた小さな食堂に入る二人。テーブルに着くと、夏海が突然涙ぐんだ。
「ごめん...青ちゃんのことを思い出して...」
夏海の言葉に、僕も胸が熱くなる。慶が優しく夏海の手を握るのを見て、少し切ない気持ちになったけれど、同時に安心した。
「大丈夫だよ。きっと青山も、俺たちが幸せになることを望んでいると思う」
慶の言葉に、思わず頷いていた。そうだ、僕は二人の幸せを何より願っている。どうしたってもう生き返ることなんてできない。願うことしかできないんだ。見守ることしかできないんだ。あの世から二人を応援することが、僕にできるせめてもの恩返しなのかもしれない。自分の人生に価値を与えることができなかった僕は、二人の人生が幸せに続くことを祈り続ける。
二人が東京に帰るのを密かに見送り、僕は湘南の砂浜に移動した。もうやり残したことは無い。そう呟いた瞬間、魂がもの凄い勢いで天に昇り、着いた場所は真っ白だった。そこから先は何もわからない。