I am going to visit Kamakura.
「青ちゃんのお母さんから預かったの」
封筒を見た瞬間、中学生の頃の記憶が蘇った。青山が勉強の合間に習得したコイン移動マジックに使っていたものだ。丁寧に封を開ける。出てきた手紙を開くと、分かりやすく一番上に「遺書」と書かれていた。一人で読むのも違うと思い、夏海に声をかける。
「一緒に読もう」
夏海は身を少し乗り出して、手紙を覗き込んだ。二人でゆっくり何回も読んでは、泣いた。青山は勉強に対する苦悩、人間関係に対する苦悩、僕らへの感謝の気持ちを、嘘偽りない言葉で綴ってくれた。何も出来なかった自分に腹が立ったけれど、その悩みを解決する術を僕は知らなかった。無力な自分を改めて思い知らされた。なにより、友達が苦しんでいるのにそれを知らなかったことが、一番悔しかった。
涙が枯れ果てた頃、時刻は午後七時を回っていた。夏海を家に送り届けて一人になった瞬間、膝から崩れ落ちるほどの疲労感が襲った。夏海の前で無意識に気を張っていたんだろう。これまで夏海には弱いところをなるべく見せないようにしてきたけど、今日は流石に無理だった。
あの日から青山の葬儀を経て、僕は気持ちに一区切りをつけなけばいけないと分かっていながら、まだ引きずっていた。もう無理やり気持ちを整理しないと、精神も持たないかもしれない。だけど、唯一の男友達の死を忘れられるほど、僕は堕ちていなかった。夏海もそうだ。僕と同様に、日々青山との思い出に浸っていた。青山の死後、僕らは頻繁に会うようになった。違う高校に通っているため、毎日は難しいが、できる限り一緒に過ごしたかった。
「夏海、明日鎌倉に行ってみないか?」
例の喫茶店で集合した僕らは、青山との思い出を巡る旅の計画を話し合っていた。
「鎌倉かぁ、懐かしいね。明日は何も予定無いから大丈夫だよ」
中学二年の夏に僕ら三人で初めて行ったプチ旅行先が鎌倉だった。どうして夏休みを前に、学校をずる休みしてまで行ったのかは、覚えていない。
「じゃあ明日は八時に駅のラーメン自販機前で集合しよう」
「うん……」
「どうした?」
「いつ言おうか迷ってたんだけどさ、今言っていいかな?伝えられないままは、もう嫌だから」
「もちろん」
夏海が改まって何か言うなんて、嫌な予感がした。
「ずっと慶くんに言えなかった。私さ、中学生の頃……青ちゃんが好きだったんだ」
「ええぇ‼」
思わず声が漏れた。これはかなりの衝撃だった。
「好きだったのは、中学三年生の一年間だけなんだけどね」
「青山は夏海の気持ち知っているの?」
「あの時は関係を壊したくなくて、言ってない。でもさ、今になって思うんだ。私は青ちゃんが好きだったんだけど、中学生特有の気まぐれだったなぁって。友達としては勿論好きだよ。でも本当に心の奥底で恋していたのは、中学卒業して以降離れて生活していても、ずっと想っていた、慶くんだった。今更言うのも照れるけど……私と幼馴染じゃなくて、恋人として鎌倉に行ってくれますか?」
「ふぁ」
変な声がでた。夏海の顔が見れなかった。
「ちょっと、せっかく勇気出して告白したんだから、何か言ってよ恥ずかしい」
「ごめん。心の準備ができてなくて、頭真っ白になった。……先に告白させちゃってごめんね。僕もずっと好きでした。明日は恋人として鎌倉行こう。」
「うん、良かったぁ」
夏海の笑顔を久しぶりに見た。やっぱり夏海は笑っていないと駄目だ。僕がいつまでもクヨクヨしていられない。明日は青山に対する思いをしっかり心の中で整理して、前を向く日にしよう。
夏海がいつも頼んでいるミルクティーを飲んでみるか。今日くらいは、苦手なものも飲める気がした。