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青ちゃん  作者: 夜野聡
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ぼやけた日常

 おそらくこの世界は、できるだけ早く死んだ方がいいのだ。毎日毎日必死こいて勉強をして覚えたことは、社会に出てから殆ど忘れるだろう。東大に行けば何か変わる、人生が開けると意気込んだ中学生の頃の自分は、世間を何も知らない頭お花畑ちゃんだった。高校入学後、クラス全員が超難関大学を目指して勉強している姿を目の当たりにして、なんか気持ち悪くなってしまった。自分がいる場所ではないと思った。しかし中学時代の親友である慶と夏海に東大を目指すと豪語して、この高校に入学してしまったからには、途中で逃げ出すことはせず、卒業はしたかった。それすら出来なかったらもう二人に合わせる顔がない。

 あの日も、意識ここにあらずの状態で塾に行っていた。問題集をペラペラめくり、問題を解いているフリをする。もう勉強はついていけなくなっていた。無駄な時間が過ぎていく。あの二人と図書館で勉強していた時と、あまりにも時間の進み具合が違った。

 勉強しているフリも終わり、自宅に帰る。時計は午後十一時を回っていた。帰って早く寝よう。もう色々疲れた。自転車を漕ぎながら、数秒目を閉じた。次の瞬間、右腕に強い衝撃が……

 数メートル吹っ飛ばされた僕は即死した。なんか自分らしいなと思った。普通後悔とか、恐怖とか、憎悪とか、家族とか、親友とか様々な感情、思い出が頭の中を駆け巡るんだろうけど、頭に浮かんだのは、なんの役にも立たない高校受験用に覚えた数式だった。ふざけんな、勘弁してくれよ、と思った。

 意識が無くなりどれくらい時間が経っただろうか。僕は幽霊になっていた。壁をすり抜けたり、宙に浮くのは朝飯前だった。死んだのは五月。さっきふらっと入ったラーメン屋の日めくりカレンダーを見たら、七月六日だった。封筒はちゃんと二人のもとに届いただろうか。いつ死んでもいいように、高校入学早々に遺書を書いておいて良かった。せめて家族と二人には、感謝の気持ちを伝えたかった。

 幽霊になって一ヶ月以上が経った。家族にはチラッと会ったが、まだ二人に会いに行く勇気はない。あちらから自分は見えないわけだから、気負う必要なんてないのに動けなかった。

 いつも時間を潰している公園は、夏休み中の子供たちで賑わっている。一回だけ霊感のある子供に見られてしまった。ごめんね。街を歩いていると他の幽霊たちとも顔なじみになっていく。会釈をするだけの関係だけれども、なかなか怖い。益々さっきの少年に申し訳なくなった。

 このままでいいんだろうか。そろそろ幽霊生活も飽きてきた。

 腹を決めて、二人に会いに行こう。この状態でいられるのもいつまで続くかわからないし。

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