季節の壁
青山が死んだ。
五時限目の英語の授業中だった。いつも通り小説を読んでいると、LINEの通知が表示された。幼稚園からの幼馴染、夏海からだった。
「青ちゃんが交通事故で死んだ」
LINEの文面にはそれだけが書かれていた。目の前の小説が歪んだ。視界がおかしくなる。夏海と青山は親同士が仲良く、すぐに訃報が入ったらしい。青山が死んだのは昨日夜、塾の帰り道に自転車に乗っていたところ、バイクと接触したらしい。夏海はあまりのショックで頭の整理が追い付かず、僕に知らせるのが遅れたそうだ。僕は、やはり信じられず、隣町の高校に通う夏海と、放課後に会う約束をした。
六時限目の授業が終わり、僕は放心状態のまま帰りのホームルームを迎えた。信じられないくらい頭が痛い。
電車に三十分程揺られて着いた地元の駅前に、夏海は立っていた。
「ごめん、遅れた」
「ううん、私も着いたばっかりだから」
「シーズンズ行こうか?」
「そうだね、行こ」
僕らは行きつけの喫茶店に向かった。道中、お互い何も話さなかった。いや、話せなかった。幼馴染とはいえ、こんなにも長く感じる沈黙を僕らは経験していなかった。喫茶店に着き、僕はカフェオレ、夏海はミルクティーを頼んだ。
「青山、本当に東大目指して頑張ってたんだな」
僕と青山は中学三年間、ずっと一緒に過ごしていた。ずっとイジメられながら過ごしてきた僕の、初めてできた男友達だった。中学三年になり、図書館の自習室で青山と夏海と一緒に勉強をしていると、
「俺、東大に行こうと思う」
と突然彼は宣言した。僕と夏海は絶対に受かるよと言った。事実、学校の定期テストでも、毎回一位を取っているし、なにより彼の努力を一番近くで見てきたのは、僕らだからだ。しかし、東大に入ることの難しさくらい知っている。それでも心の底から応援した。
青山が超進学校に合格した日、高校生になったら連絡をこちらから取るのはやめようと、心に決めた。それもあって約一年間、青山とは連絡を取っていなかった。
「慶くん……」
「うん」
夏海は今にも泣きだしそうで、必死に涙を堪えていた。ハンカチを渡すことしかできない自分に、嫌気がさす。
「実はLINEでは言えなくて。これを慶くんに」
彼女がカバンから取り出したのは、一通の見覚えがある封筒だった。