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側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。  作者: gacchi(がっち)


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25/29

25.どうしてだろう(エラルド)

「エラルドがどういう考えでそうしたのかはどうでもいい。

 どうせ聞いても理解できないからな。

 それで、三人を愛人にするというだけならともかく、

 エラルドはジャンナ嬢が産む子どもをカファロ家の後継ぎにすると言った」


「エラルド!あなたどうしてそんな馬鹿なことを言ったの!」


「え?だって、僕の仕事は子どもを作ることなんでしょう?

 ディアナは忙しいから、代わりに愛人が産めばいいんだと思って」


「そんなわけないじゃない!」


真っ赤な顔して怒りだした母上に、これはまずいことをしたんだとわかった。

母上が怒っているところなんて見たのは初めてだ。

どうしよう。謝ればいいのかな。


「まさか、こんなにも何も知らないとはな。

 今後は学園でのD教室を廃止させなくては。

 基本的なこともわからない者は入学させないようにしよう」


「……僕の何が悪かったんですか?」


「例えば、他国の女王のところにこの国の王子が婿入りしたとする。

 この国の貴族令嬢を愛人として連れていけると思うか?」


「……?ダメなんですか?愛人がいるのは当たり前なのですよね?」


「はぁ……そこからか」


ため息をつかれたけれど、何がおかしいのかわからない。


「だって、父上も愛人いますよね?」


「は?」


「母上がいつも言ってました。

 父上には愛人がいっぱいいるけれど、正妻は私一人だから。

 私は優しいから愛人がいても許してあげるのよって」


「……マリーナ?」


「……エラルドに話したのは悪かったと思いますが、

 本当のことを言って何が悪いのですか?」


「私には愛人などいない」


「「え?」」


ため息をついた父上が嘘を言っているようには見えない。


「あなた、そんな嘘はつかなくても私は怒りませんわよ?」


「嘘ではない。帰ってこないのは本当に忙しいからだ。

 王宮は前の国王のせいで使えないものが多すぎる。

 あの時代、文官や女官は容姿や家柄だけで採用されていた。

 そのせいで陛下の婚約者候補は顔だけで選ばれた。

 その中で選ばれたのが今の側妃様だ」


「知っていますわ。側妃様は笑うだけで何もできない方だと噂になってました。

 あの方が王妃になったらどうなるのだと心配されてましたもの。

 だけど、陛下が即位する時に、急に公爵令嬢を王妃にすると発表になって。

 側妃様が子を産めないからかと思っていましたが、

 数年後には第二王子を産んでますし、いったい何だったのかと」


「あれは陛下があのまま何も仕事ができない側妃様が王妃になったら、

 国がつぶれてしまうと思い、今の王妃様を説得したのだ。

 この国を一緒に立て直してくれと。

 そして、側妃様には謝った。愛しているが、国を守りたいと。

 その代わり、王妃様と側妃様以外の妃も愛人も生涯持たないと」


国王でも愛人がいない?

でも、妃が二人いるのなら、それは愛人と違うのかな?


「私も陛下に忠誠を誓うときに同時に誓った。

 私情を捨て、この国のために生きると。

 妻以外のものにふれたことなどない。

 愛人など持つ暇があったら、一刻でもこの国をまともにしたいのだ」


「忙しいと言って帰ってこないのは、本当に仕事だったのですか……」


「そうだ。あともう少しで王宮貴族と地方貴族を、

 結婚という形でうまくつなげられるところだった。

 時間はかかったが、ようやく国王の代替わりも決まって、

 陛下にいい報告ができると思っていたのに」


悔しそうな父上に、母上も黙ってしまう。

国王にも父上にも愛人がいない。


じゃあ、貴族ならだれでも愛人がいるっていうのは、

母上の勘違いだったってことなの?だから、僕が怒られた?


「エラルド、先ほどの話に戻るぞ。

 基本的に王族であっても婿入りする側に愛人を持つ権利はない。

 もし、妻に子どもが生まれなかった場合でも、

 子を産ませるための女性は妻側の血筋で選ばれる。

 つまり、お前の場合はカファロ家が用意するということだ」


「三人がカファロ家の血筋じゃないからダメだってこと?」


「……もっとも、今回の契約では、それもできなかった。

 ディアナ嬢に子が生まれない場合は分家の子を引き取るという契約だった」


「分家の子……」


あのジョイとルーイの子を引き取る。

僕が婿なのに、やっぱりあいつらのほうが大事なのか。


「まだわかっていない顔だな。

 なぜ他国の王族の話をしたと思う。

 この国は昔は小さな国がたくさんあった場所だった。

 それが共和政の大きな国となったが、うまくいかなくて王政に戻った」


「そのくらいはエラルドだってわかりますわよ。ね?」


「言われてみれば教わった気がする」


「……カファロ領地はもとはカファロ王国だったところだ。

 地方領地は、今でも国王よりも領主に忠誠を誓っている。

 カファロ領民にとって、ディアナ嬢は姫だ。

 姫の子だから領主になるのであって、お前の血は必要ではない。

 ディアナ嬢が浮気しても問題はないが、お前が浮気すれば責められる。

 そのくらいお前の立場は低い」


ディアナはよくて、僕はだめ……ひどくないか?


「ましてや、お前の愛人の子を後継ぎにしろというのは、

 国の乗っ取りをしようとしたのと同じだ。

 そんなことをすれば間違いなくお前は殺され、戦争になる」


「せんそう?僕が殺されるだけじゃなくて?」


「お前は誰の子どもだ?この国の宰相の子なんだぞ。

 しかも、三人の令嬢は全員が王宮貴族だ。

 王家がカファロ家を乗っ取ろうとしたと思われるだろう。

 ここ三百年続いた平和があっという間に壊れる。

 下手したらカファロ領だけじゃなく、他の地方貴族も巻き込んで反乱がおきる」


「……反乱って?」


「王家が倒され、この国はバラバラになる。

 私やお前たちは間違いなく殺されるだろう」


「そ、そんな」


「だから、言ったんだ。公になればお前は処刑される。

 反乱になるかもしれない種を王家が放置するわけがない。

 お前の命だけでは足りず、私は宰相を下ろされ、上の二人も責任を取ってやめることになる。

 そうなればますます王宮は機能できなくなり、王家は弱体化する。

 それをわかっているから、ディアナ嬢は公にしないと言ってくれたんだ」


処刑だとか、父上が宰相を辞めさせられるとか、

そんな大ごとになるなんて思わなかったんだ。


「僕は……ただ三人と一緒にいたかっただけなんだ。

 それが一番いいと思ったから……」


「それが一番いいか。それはお前にとってだな。

 お前が一番大事にしなければいけなかったのは誰だ」


「え?」


「生涯を共に生きるのは、結婚する相手は誰だった?」


「ディアナです……」


「ディアナ嬢の要望を聞いたことはあるのか?」


「ディアナの要望ですか?」


「婿入りするのに領主の勉強は嫌だ、カファロ領地にいるのは嫌だ。

 ディアナ嬢からの手紙に返事はしない。贈り物は最低限で直接渡すこともない。

 令嬢と距離を取れと言われてもまったく聞かない。

 そのうえ、仕事もしないくせに側近として三人を養え、

 それがだめなら愛人としてでも連れていくと?」


父上の僕を責めるような目が怖い。ここから逃げ出したい。

だけど、隣に母上が座っているから逃げることもできない。


「でも、僕はディアナのためだと思って」


「だから、ディアナ嬢はそれを望んだのか?

 ディアナ嬢がお前にして欲しいと言ったのか?」


「い、いえ」


「違うのなら、おかしいだろう。

 ディアナ嬢がしてほしいと言ったことは何一つしないのに、

 言わないことはディアナ嬢のためだと押し付ける。

 今回のことが決定打になったが、結婚する前でよかったのかもしれない。

 カファロ領地まで行った後で何かしていれば、もう手は出せなかった。

 マリーナ、これだけ聞けばわかったよな?」


「……はい。申し訳ございません。私の育て方が間違っておりました」


「母上?」


「伯爵家には連絡済みだ。明日には迎えが来る。

 私が見送ることはできない。……元気で暮らせ」


「……もうお会いできないのですか?」


「おそらく、マリーナとエラルドは社交界に出してもらえないだろう。

 私も立場上、エラルドと縁を切らねばならない。すまぬな」


「……わかりました」


ううぅと泣き崩れる母上に、静かに部屋から出ていく父上。

どこから僕は間違えたんだろう。

あの時、カファロ領地から逃げ帰ったこと?

それとも、ディアナが僕に惚れているって思いこんだこと?


部屋に戻された後もどうしてこうなったんだという思いが、

頭の中でぐるぐるしていた。けど、答えはでない。


次の日、迎えに来たのは母上の兄だった。

無言で馬車に乗せられて、そのままどこかへ連れていかれる。

王都の外れだと思う場所に着くと、私と母上だけ下ろされる。

そこは庭付きの小さな家だった。


「その家の敷地から出た場合は安全を保障しない。

 世話をするものはつけてある。それではな」


「……はい、お兄様」


すぐに馬車は見えなくなる。

残された母上と家に入ると、中には高齢の侍女が二人いた。

母上が小さいころに専属だったものらしい。


庭はあるが、何も植えられていない。

高い塀があるから、外は見えない。

処刑されることはなかったけれど、ここから出ることはできないらしい。


ラーラは修道院に入れられると言っていた。

じゃあ、エルマとジャンナはどうなんだろう。

僕のようにどこかに閉じ込められるんだろうか。


三人に会いたいと思う気持ちはなぜか薄れていた。

離れてしまえば、いなくても平気だったのかと気がついた。


僕はただ、一人でディアナに向き合うのが怖かっただけなんだ。


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