15.みんなで幸せになるために(エラルド)
「ねぇ、エラルドは閨教育受けたの?」
「ねやきょういく?」
「子どもをどうやって作るか、教えてもらった?」
「ううん、まだ。結婚する前には教えるって母上が言ってた。
そういう教育をするために、ちゃんとした相手を用意するからって」
「ふうん。ちゃんとした相手、ねぇ」
腕組みして考え込んだラーラは、はっとした顔になる。
「それって、私たちなんじゃない?」
「ラーラが?」
「私だけじゃなく、この三人が閨教育の相手なんじゃないの?」
「え?そうなの?」
「私も?」
ラーラの発言にエルマとジャンナも驚いている。
「だって、私たちはエラルドと一緒にいていいって、
伯母様から認められているわよね?
学園に入ってからも一緒にいて何も言われないのって、
私たちがそういう相手に選ばれたからじゃないの?」
「そうなのかな」
「だって、学園での噂のことは伯母様だって知ってたはずよ。
エラルドが私たちを領地に連れていくつもりだってことも。
男女の仲だって疑われても止めなかったってことは、
伯母様もそれでいいと思っているからでしょう?」
「そうよね。夫人にエラルド様をよろしくって言われたわ」
「私もよ。ずっとエラルドのそばにいてあげてねって」
「ほら、そういうことよ」
なるほど。閨教育が何をするのかわかってないけど、
この三人は僕の相手として選ばれていたんだ。
家庭教師について学ぶ時に、この三人は僕のために用意したって言ってた。
それは、そういう意味だったのかもしれない。
「だけど閨教育って、実際には何をするの?」
「子どもを作ることをするのよ」
「え?三人と?」
「普通は一人と練習すれば十分なんだろうけど、
ディアナ様は完璧主義っぽいし、ちゃんと練習しなさいってことなのかも。
ほら、ちょっとでも失敗したら怒りそうだし」
「……う。ディアナに怒られるのは嫌だな」
あんなふうに冷たい目で見られ、「どうして失敗するの?」と責められるのかな。
そんなことになったら、僕はまた逃げてしまうだろう。
「でしょう。だから、いっぱい練習しなきゃ」
「いっぱい練習したら怒られないかな」
「ええ。きっと大丈夫。慣れれば簡単なことよ」
よかった。三人と練習すれば何とかなりそう。
もうこれ以上怒られるのは嫌だし、難しいことはしたくない。
「それに私たちにエラルドの子どもができたとしたら、
エラルドは責任取って私たちの面倒を見なきゃいけなくなる。
ディアナ様だって、そうなれば文句を言えないと思うの」
「そうなんだ」
「ええ。そこまでいったら貴族として責任を取らなくちゃいけないもの。
だけど、ディアナ様はそうしたくないんでしょうね」
「え?」
「ほら、私たちから離れるように言ったじゃない。
私たちを領地に連れて帰りたくないからだと思うわ。
これ以上、私たちがエラルドと仲良くなるのは嫌だったんでしょうね。
子どもができちゃったら、連れて帰るしかなくなるもの」
「……ええぇ。だから離れるように言われたのか」
どうしてそんなに嫌がるんだろう。
この三人はディアナの邪魔をしたりしないし、僕を支えてくれる大事な人なのに。
ちゃんと話したらわかってもらえると思うのに、ディアナはいつも忙しい。
ゆっくりお茶を飲んで話をしたことは一度もない。
もう少し僕たちに歩み寄ってくれてもいいと思うんだけど。
「ねぇ、ディアナ様は領主になるんだったら、
自分で子どもを産んでる暇なんてないんじゃない?」
「そうよ。だって、子育てするような時間もないでしょう」
「今だって忙しいって言って、エラルドにほとんど時間を使わないものね」
「……ディアナは僕よりも仕事が大事なんだ。
仕方ないよ。僕は仕事を代わってあげられないから」
「ふふ。エラルドは本当に優しいのね。
奥さんになるんだから、もっとディアナ様に怒ってもいいと思うのに」
「ううん、いいんだ。僕はあまり怒りたくないし」
ディアナに怒るだなんて、怖くてできない。
ただでさえ、ディアナはいつも不機嫌そうで怖いのに。
「私たちが代わりに産めばディアナ様は産まなくてもいいんじゃない?」
「そうよね。そうしたら領主としての仕事を休まなくていいもの」
「そうだな……ディアナはそのほうが喜ぶかもしれない」
あのディアナが僕と一緒にいたり、子どもを育てるとは想像できなかった。
忙しそうに仕事をしている想像しかできない。
でも、それだと後継ぎがいなくなってしまうから、
三人が代わりに産むというのはいい方法かもしれない。
「じゃあ、決まりね。私たちで子どもを作りましょう」
「いいわね。でも、ディアナ様には内緒にしなきゃね」
「どうして?」
「ほら、私たちと離れるって約束しちゃったじゃない」
「そうだった」
「だから、もう責任取るしかないところまでいってから、
ディアナ様に説明しましょう?
怒るかもしれないけれど、そこまでいけば仕方ないって納得してくれるわ」
「そっか。じゃあ、そうするよ」
ちゃんと子どもができるまではディアナに内緒にしようと、
僕たちは学園では一緒にいないことにした。
授業が終わったら、ラーラの家が持っている別邸に集まる。
いつも通りの時間には屋敷に帰り、どこに行っていたのかは言わない。
きっと僕の家にはカファロ家の使用人がいるってラーラが言ったから、
僕は家の者にも何も言わないで行動することにした。
初めての閨教育は大変だったけど、三人が相手だから頑張れた。
これだけ慣れればディアナの相手も大丈夫だと自信がついた頃、
ジャンナが身ごもったかもしれないと言い出した。
これで三人をカファロ領地に連れていくことができる。
間に合った、そう思った。
あと一か月もすれば学園を卒業して、
僕たちはカファロ領地に向かわなくてはいけない時期が来ていた。




