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財政を改善しよう

 カステーン大公爵の手紙という問題が解決したあと、クルトは早速領地改革に乗り出していた。


 自分でラスボスを倒すことができない以上、倒せる人物を雇うしかない。そうなると必然的に金が必要になってくる。


 ただ、アントナー家にそれほど蓄えがあるようにも思えなかった。

 収入が少ないのか、支出が多いのか。

 それを調べるためにクルトはアントナー領の帳簿が収められている執務室へ来ていたのだが――。



「なんだ、この帳簿は? 計算間違いが多すぎるぞ」



 領地の帳簿を見てクルトは頭を抱えていた。

 間違いだらけということは、まともにこの領地の金の流れを見ていなかった、ということだ。


 こうなってくると収入や支出の金額すらも正しいものが書かれているのか怪しくなってくる。



「とにかく一度計算し直してみるか」



 それからクルトは一日中、ずっと計算していた。

 これほど電卓が欲しいと思ったことはないが、それでも苦労しただけ得るものも大きかった。


 もちろん悪い意味で……だったが。



「どうして70%の税率を取りながら赤字なんだよ……」



 この世界での領地の税金は大体40%〜60%である。

 それを超える70%の税は領民にかなりの負担を強いていることになる。


 それなのに支出が上回っているようでアントナー領は大赤字になっているのだ。


 これは早々に改善すべき案件であった。


 領民のことをまるで考えていないこの税率ではかなり不満を溜めているだろう。

 それが爆発した結果がチュートリアルで起こった暴動なのだろう。


 しかし、ここアントナー領を成り立たせる上でそれだけの金が必要であるなら減らすこともできない。


 まともに記載されずに使途不明金として処理されていたせいで、これが領地に必要な金かの判断がクルトにはできなかったのだ。


 両親は悪役子爵であったことからも私腹を肥やしていた線が一番高そうだが。



――いったいこれほどの金を何に使ったのか……。



 苛立ちを示すようにクルトは無意識に机をトントンと叩いていた。



「あの……、何かお悩みですか?」



 側に控えていたメイドがオドオドと聞いてくる。クルトが苛立ちを見せると何か怒られると思うのかもしれない。



「いくら一人で考えても答えは出ないわけだしな。この使途不明金が何に使われたのか、わからないか?」



 帳簿をメイドに見せて確認をする。

 じっくりそこに書かれた数字を眺めるメイドだが、首を傾げているので望み薄だろう。


 ただすぐにメイドは目を輝かせて、書かれた数字の一つを指差していた。



「これは確か奥方様が商人から宝石を買うのに使ってたお金ですね」

「……本当か!?」

「間違いありません。お金を運んだのは私ですので。その……数え間違えちゃってあとからすごく怒られたからよく覚えているのです……」



 当時の様子を思い出して苦笑を浮かべてくる。

 どうやらそそっかしいメイドのようだ。


 でも、そのおかげで一つ、用途がわかったのだからありがたい。


 使用用途が宝飾品ならば売り払えば多少なりとも赤字の穴が埋められるだろう。



「よくやった。全てがそうではないにしてもこの不明金は私服を肥やすために使われた可能性が高いというわけだ」



 原因がわかったのなら手の打ちようはある。

 ただ、クルトは不思議で仕方なかった。



――自分たちの私腹を肥やすためだけに税を増やせば、いずれ領民の暴動が起こるとわからなかったのか?



 使途不明金は領地に使われる分ではないとして、再度計算をし直す。

 その様子を眺めているメイド。



「クルト様、計算がすごく早いんですね」

「このくらい普通だろ?」

「そんなことありません。そこまで早い人は商人さん以外で見たことありません」

「この屋敷にもいくらでも人はいるのだから子供の俺以上の人間なんていくらでも……」

「そ、その、他の人が計算してるところなんて見たことも……。い、いえ、なんでもありません」



 慌てふためくメイド。

 どうやらこの館の使用人も調べる必要がありそうだった。



――カステーン大公爵(黒幕)の手先くらい紛れ込んでいそうだもんな。



 そんなことを考えながらクルトは計算を終わらせていた。



「よし、これなら40%まで減らしても余裕でやっていけるな」



 実際には30%でも優に利益は出そうであるが、そこまですると周りの貴族から反発を買いそうなので、少し安い程度にとどめておく。


 アントナー領近くの貴族たちはほとんどが税率50%で経営していた。


 それでしっかり街を警護し、領民たちが潤うように優良な活動しているのだから不満は聞こえてこない。


 しかし、そこに突然自分たちよりも20%も安い税率の領地が現れては面白くないだろう。

 ただ、今までの厳しい税率を考慮して少しだけ周囲より安くする。


 これが暴動を抑えるには一番効率的だろう。



「えっ、大丈夫なのですか!?」



 そのことに驚いたのはメイドであった。

 ただ喜んでいる、というよりは不安げな様子だった。


 ただ、クルトが説明しようとした時に扉がノックされる。



「クルト様、来客です。バルミット大公爵様の使いだそうですが」

「応接室に通してくれ。すぐに行く」



 そう告げると相手を待たせては失礼だとクルトもすぐに支度を始める。




◇◇◇




 カステーン大公爵からの使いはモノクルをつけた妙齢の男性だった。

 護衛に連れた最小限の兵以外は誰も連れていないところを見ると襲おうとしているわけではないようだ。



「遠路はるばるよく来てくれました。私がクルト・アントナーです」

「私はバルミット大公爵様より遣わされたクラウス・アードラーにございます。大公爵様はクルト様の謙虚な態度に感動され、ぜひ領地を建て直すために、と私を派遣されました。多少領地経営を携わったことがあるだけの若輩者ですが、こき使って頂けると幸いにございます」



 片膝をついて忠誠の証を見せてくる。


 ただ、こうもわかりやすく自分の手先を送り込んでくることに驚きを隠しきれなかった。

 本当ならば追い返したいところだが、理由もなく追い返したとあっては大公爵を怒らせることになるだろう。



――それならば。



 クルトは表情を崩さずに絶えず笑みを浮かべながら言う。



「それはすごく助かります。今、この領地の帳簿を見てたのですが、よくわからなくて……。見てもらってもよろしいですか?」



 クルトは直す前の間違いだらけの帳簿をクラウスの前へと差し出す。



「あっ、それは――」



 メイドが思わず口に出してしまう。

 ただ、クラウスはメイドの言葉など気にした様子もなく、帳簿を確認していた。


 ここでクルトのことを考えているなら赤字であることを指摘するはず。

 あとは計算間違いがわかるかどうかで、その能力も見ることができる。


 反応でカステーン大公爵がどの程度この領地に関与してくるつもりかわかるだろう。

 


 クラウスが一通り読み終えるとわかりやすいため息を吐いていた。



「わかりやすいほどに赤字ですね。間違いも多い」



――意外とこのクラウスは有能なのかもしれない。カステーン大公爵は関係なく不正を正そうとする正義の意志を持っているのかも。



 有能な人材が圧倒的に不足しているアントナー領では、たとえ敵の息がかかっているとわかってても使わないといけないときがある。


 不正を正す意思さえあるならば条件はクリアする。


 クルトは嬉しそうに少し表情を崩していた。



「ならばどうしたら改善されますか?」

「間違いは私がいれば問題ありません。赤字は……、さらに税を取れば解決ですね」



 笑顔で悪魔のような提案をしてくる。



――どうやら最初から全てをむしり取るつもりで来たようだな。せっかく役に立ちそうな人材だと思ったのに。



 クルトは思わずため息を吐くのだった――。

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