致命的に仲の悪いオレとアイツに前世のイチャラブカップルの記憶が蘇る ~ やめろおおおお! 自我が壊れるうううう! ~
「ちょっと近づかないでよ!」
「てめぇが向かって来たんだろ!」
「誰があんたみたいなキモイやつのとこなんかに。同じ空間にいるだけで吐き気がするわ!」
「はん! こっちこそてめぇみたいなケバいブスなんか見るだけで寿命が縮むわ!」
イライライライライライライライラ。
「だったらさっさと死ね! 社会のゴミを生かすなんて酸素の無駄よ!」
「てめぇが死ね! 不快な害虫なんて生かす価値も無え!」
イライライライライライライライラ。
「ぶっ殺す!」
「ぶっ殺す!」
イライライライライライライライラ。
「まてまて、待てって!」
「そうよ、落ち着いて!」
イライライライライライライライラ。
「幸長、ほらあっち行こうぜ」
「吉田さんも離れよう」
「「チッ」」
ダメだ、イライラが止まらねぇ。むしゃくしゃする。
俺、幸長 悟と幼馴染の吉田 佐奈子は犬猿の仲だ。いや、犬猿の仲なんて言葉では生温いな。相手をこの世から消してしまいたいと半ば本気で思う程度には嫌い合っている。
「お前らマジで良い加減にしろよな。俺達が止めなかったら本気で掴みかかってただろ」
「それだけで済めば良いがな」
「はぁ……一体何があったんだよ」
「別に何もねーよ」
「何もなくてあんなに激しく喧嘩するわけないだろ」
「マジでねーんだよ。ただ生理的にどうしても受け付けないだけだ」
そう、きっかけなんて無いに等しい。
幼い頃に喧嘩をして仲直りせずに更に喧嘩。
それを延々と繰り返すうちに相手の姿を見るだけで吐き気を催す程に不快な気持ちになり、相手が存在していることすら許せず憎らしくなっただけのこと。
敢えて原因を挙げるとするならば、たかが子供の喧嘩だと思った大人達が強引に仲直りさせようとあいつと何度も引き合わせようとしたことだろうか。それがなければこれほどに憎しみを募らせることなど無かったかもしれないとは思わなくは無いが、そんなIFなどどうでもよい。
もうすでに俺達は引き返せない程に敵対しているのだから。
ああ、過去の事を思い出したらまた無性にイライラしてきやがった。イライライライライライライライラ。
「おい、幸長!」
「っ!」
右頬に強い痛みを感じて正気に戻った。
クラスメイトが叩いてくれたのだろう。もし俺がおかしくなったらそうして良いと事前に言ってあるので怒りはしない。
「わりぃな」
「お前マジでやべぇ顔してたぞ」
「だろうな」
嫌悪感を我慢することすら不快に感じるから感情を隠せねーんだよ。
「やっぱりクラス替えするように先生に言って来ようぜ」
「無駄だな。大人なんて『どうせ子供のやることだから』くらいにしか思ってないさ」
でなければこんな状態になるまで俺達を放って置くわけが無い。
それでも中学の頃は先生達がトラブルを避けたかったのか、やつと同じクラスになることは無かった。だが高校では俺達の関係について先生達が詳しく無かったのだろう。二年になったときにやらかしやがった。
「病院は?」
「行ってるぞ。全く効果無いけどな。いや、薬飲むと少し落ち着くから少しは意味があるのかな?」
俺の担当の精神科医の先生の能力が低いのか、それとも精神科医はこんなもんなのか、薄っぺらくて何も心に響かない言葉を放つだけで治療の効果など感じたことも無い。あるいは実は効果が出ていて、通院していなければもっと酷いことになっていたかだ。
「とにかくだ。妙なことを考えるなよ、マジで」
「…………」
「返事しろよ」
悪いが保証は出来ない。
あいつへの想いは憎悪と言っても過言でないくらい負の感情で占められている。そんな相手と同じ空間で過ごさなければならないストレスはとてつもなく、何かをやらかしてしまう可能性は否定できない。
「よし、今日は放課後遊びに行くぞ。ストレス発散だ!」
「あ?」
「何だよ不思議そうな顔して」
いやだってこの状態の俺を避けることなく気遣ってくれるとか、こいつ良い奴すぎるだろ。
「お前だれだっけ?」
「酷っ、同じクラスなのに!」
こんな良い奴がいるなら、もしかしたら俺はこれ以上狂わないかもしれないな。
なんて思っていたのだが。
「…………」
「…………」
何の因果か、階段の踊り場でやつと会ってしまった。
しかも周囲には他に人がおらず二人っきりだ。
「退けよ」
「そっちが退きなさいよ」
「「チッ」」
すれ違うスペースなど余裕にあるのに喧嘩をしかけてしまうのはいつも通りのこと。普段ならここで誰かが止めるまで口論をするのだが、生憎と俺は用事があってこの場をすぐに離れたかった。
だからこれ以上は関わってられないと強引に階段を登ろうとするが、当然あいつも引かずに体をぶつけてくる。
「てめぇ!」
「邪魔よ!」
どちらが手を出したのか、それは分からない。
体がぶつかったことでカッとなった俺達は手で相手を強引にどかそうとして、一緒に階段を落ちる羽目になってしまった。
「いってぇ……」
「なんなのよもう……」
幸いにも大怪我には至らなかったが全身が痛い。こいつのせいでこんなひどい目に遭ったと思うと激しくイライラする。このイラつきをこいつにぶつけてやろう。
そう思った時。
『来世で幸せになろう』
『はい』
な、なんだこれ。
猛烈な頭痛と共に、妙な風景が頭の中に流れ込んでくる。
『例え死が二人を分かつとも』
『私達の魂は永遠に愛し合う』
『愛しているよ、さちこ』
『愛しています、まさる』
男は俺に似ていて、女は吉田に似ている。
人気の無い海岸で二人は見つめ合い、やがて顔が近づき……
「「うわああああああああ!」」
なんて最悪な映像なんだ。
よりにもよって俺があいつなんかと!
「「おえええええええええ!」」
あまりにもおぞましくて吐き気が酷い。
こんな地獄みたいなシーンを生み出したやつは誰だ。
「「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」」
どうしてこいつまで俺と同じ反応をしてやがるんだ。
可愛い顔が台無しじゃないか。
あれ、俺今妙なことを考えたような。
「あんたのせいで酷い目にあったわ」
「てめぇが邪魔したからだろ」
痛みが退いて来ると、謎の頭痛で忘れてたイライラが戻って来て顔も見ずに反射的に罵倒し合う。
そして投げかけられた言葉に反応してお互いが相手の方を見る。
ズキリ、とまた頭痛がする。
「さちこ?」
「まさる?」
先程脳裏に浮かんだ女性の姿がこいつと被った。
会いたかった。
今度こそ幸せな人生を送ろう。
気付いたら俺の手はこいつの方に伸びて……
「「ぎゃああああああああ!」」
あぶねぇ、こいつを抱き締めるとかあり得ねぇから!
さっきから一体何なんだ。
どうしてこいつなんかを愛おしく感じてしまうんだ。
こいつと付き合っていた最低最悪な記憶は何なんだよ!
「てめぇ何をしやがった!」
「何かしたのはあんたでしょ!?」
この反応、やっぱりこいつも俺と同じものを見ているのか。
いくら一緒に階段から落ちたとはいえ、そんな馬鹿なことがあってたまるか。
「俺はただお前に会いたかっただけだ!」
「私だって会いたかったもん!」
「「ぎゃああああああああ!」」
だ、だめだ、このままこいつの傍に居たら確実に狂ってしまう。
こいつから逃げるなんて腹立たしいが仕方ない。
「どうやら離れた方が良いみたいだな」
「あんたなんかと同じ意見なのは癪だけどそうみたいね」
一つだけ救いなのはやつも苦しんでいるってことくらいか。
はは、ざまぁみろ。
「「とりあえず連絡先を交換しておこうぜ(ね)」」
「「…………」」
もう嫌、助けて。
――――――――
家に帰ってベッドで横になりながら気持ちを落ち着けると、なんとなく状況が分かって来た。
どうやら謎の記憶のまさるという奴は俺の前世の人物らしい。つまり前世の記憶が蘇ったってやつだ。信じられないがあまりにも鮮明な記憶が蘇って来るから受け入れざるを得なかった。
まさる達は愛し合っていたにも関わらず周囲の人間に交際を認めてもらえずに仲を強引に割かれようとし、さちこが好きでもない男に嫁がされそうになっていたところをまさるが勇敢にも奪い駆け落ちしたが、取り返しに来た人々から逃げ切れそうにないと判断した二人は来世で幸せになると約束して入水自殺をして命を絶った。
それほどまでに愛する相手がいてその想いを引き継いで欲しいと言われたら、迷惑ではあるけれど相手次第では良いかなと思わなくもない。だが問題はその肝心の相手が寄りにもよってやつであるということだ。
ありえない。
やつと似た顔の女と自分がイチャラブするシーンを思い出す度に吐き気がする。
何度も何度も壁に頭を打ち付けて、発狂しないようにするので必死だった。
まさる達には悪いが、生まれ変わった対象が間違っていたと思い諦めてもらうしかない。
今日みたいに体が勝手に動いてしまうとまずいから、明日からはいつも以上に距離をとるように気をつけないとな。
…………
「なんでいるんだよ!」
「それはこっちの台詞よ!」
「一緒に登校したいからに決まってるだろ!」
「私だってそうよ!」
「「ぎゃああああああああ!」」
距離を取るっつったのに、朝一番で会うとか最悪じゃねーか。
どうして俺は今日こいつの家の近くを通って登校しようとしちまったんだ。こいつもこいつで俺の家に近いルートを通ってやがるし。
「ああもう、朝から最悪!」
その気持ちだけは同意するわ。
こいつみたいな可愛いやつと会うなんて……って脳内まで汚染されつつあるぅ!
ガンガンガンガン!
コンクリ塀に、頭をぶつけて、思考を取り戻せ!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
よし、少し落ち着いて来た。
どうやら吉田も似たようなことしてるな。
流石に女子だからか頭を打ち付けてはいないが、頭を抱えて激しく左右に振っている。
「そのヘアピン可愛いな」
「ほんと!? 悟君のためにってごるぁ!」
ダメだ。
何を言おうとしても思っても無い言葉ばかり口にしてしまう。
「どうしてっ、こんなのっ、つけてっ……」
吉田はヘアピンを地面に叩きつけて怒り狂って踏んでいる。
あ~あ、あんなに感情を露わにすると反動が来るぞ。
「もっと可愛いのをつけなきゃああああ!」
ほらな。
何かを言おうとするから自爆するんだ。
もう何も言わねぇ。
「…………」
「…………」
なんでこいつと肩を並べて登校しなきゃならねーんだよ!
くそぅ、走って逃げたい。なのに足が動いてくれねぇ。吉田の歩くペースに合わすんじゃねー!
しかし文句を口にしたら、間違いなく酷い言葉を発してしまう。
どうする、どうすれば良い。
「お、おい、アレ見ろよ」
「嘘、吉田さんと幸長君が一緒に登校してる!?」
「仲直りしたのか?」
「いやいや、ありえねーだろ。何か勝負でもしてんじゃね?」
「でもなんか幸せそうな顔してるようにも見えるけど……」
ぐはぁ、こんな悲惨な姿を見られるなんて屈辱だ。
「まるで恋人みたいに見えるよね」
「「オロオロオロオロ」」
「幸長!?」
「吉田さん!?」
この人でなしどもが!
人間言ってはならないことってのがあるだろうが!
でもありがとう。
おかげで保健室に直行でこの地獄から解放されるぜ。
……
…………
……………………
ん、いつの間にか寝てたのか。
あの記憶のせいで昨日は全然眠れなかったし、ストレスが溜まりに溜まっていたからかな。
保健室に連れてこられた辺りから記憶が曖昧だが、体を包み込むような温もりから察するにベッドに寝かされているようだ。しかし枕が妙に温くて弾力があるのが変な感じ。
この感覚は覚えがある。
俺の記憶では無く、押し付けられた方の記憶に。
『どう、気持ち良い?』
『ああ、最高の枕だよ』
頭上からかけられた穏やかな声が安心出来る。
それに優しく髪を撫でる手がとても心地良い。
さわさわ。
そうそう、こんな感じで…………ん?
「「あ」」
目を開けた途端、俺を見下ろすやつの目とばっちり合った。
やつの体勢、異性の独特の香り、頭の下のこの弾力から導き出される結論は。
「「ぎゃああああああああ!」」
こんなやつに膝枕されるなんて不覚だ。
最低最悪の目覚めだ。
「気持ち悪い! 悟君の温もりが消えちゃう!」
「てめぇふざけんなよありがとう」
「「もう嫌!」」
でもどれだけ嫌がろうともこれまでのように罵倒することがどうしても出来ない。
意識は俺のままで、記憶が流れ込んでいるだけで乗っ取られているような感じは無いのに、あまりにも強すぎる『好き』の気持ちが渦巻いているせいで反射的に狂った対応をしてしまう。
ガンガンガンガン!
ベッドのフレームに頭を打ち付けて冷静になろうとするが、これも効果が薄くなってきた。
「ちょっと何の音!?」
助かった。
保険の先生が戻って来てくれた。
適当に誤魔化した俺達はもう大丈夫だと保健室を出て教室へと戻ることにする。
流石に授業中は何も起こることはなく、ようやく少しだけ落ち着くことが出来たのであった。
悲しい事に授業中は、だがな。
「幸長、何がどうなってるんだ!?」
「俺が知りたいよ……」
昼休みになるとおせっかいなクラスメイトがこれまた俺を心配して寄って来た。
「そんなこと言わずに教えろよ」
「だから俺も分かってないって言ってるだろ」
前世の記憶云々なんて言っても頭がおかしいとしか思われないだろうから説明しようがない。
「おい、どこ行くんだ?」
「どこってそりゃあ飯食べるに決まってるだろ」
昼休みなんだから当然だろ。
「ゆ、幸長?」
「しつこいな、何だよ」
「いやだってお前、その席……」
「?」
席がどうかしたのか。
別に何も……
「…………」
「…………」
「「ぎゃああああああああ!」」
またこれかよ!
吉田と向かい合って昼飯食べるとか拷問じゃねーか!
「こ、これは何かの間違いで」
「そうよ、どうして私がこいつなんかに弁当を作って来なきゃならないのよ」
「弁当!?」
「吉田さんどういうこと!?」
ぐはぁ、こ、こいつまさか、そこまでさちこに汚染されてるのか!?
いや、違うな。
『はい、あ~ん』
『たくさん食べてね』
『まさるくんが食べてる姿見るの大好き』
あの記憶が正しいのならば、さちこは料理をまさるに食べてもらうのが特に好きだった。
俺達の行動を大きく変えてしまうほどの強い想いの中でも、その料理に関することが特に強い想いだとするならば汚染というよりも単に耐えきれなかっただけだろう。
その気持ちは分かるが、マジで止めろ!
「こんなのっ……!」
そうだ、そのままその弁当を床に叩きつけろ。
俺もお前もこれ以上被害を拡大させたくないだろ。
やれ! やるんだ!
「佐奈子の弁当楽しみだな」
「はぁ!?」
「幸長どうしたんだ、白目剥いてるぞ!?」
弁当のくだりもそうだが、名前を呼ぶのがこんなにダメージを負うとは思わなかった。
吐きそうだけどもう胃の中が空っぽで何も出てこない。
ぐぅ~
このタイミングで腹の音とか最悪すぎる。
催促しているみたいじゃねーか。
「ダメ、ダメよ……止まって!」
吉田が弁当の包みを開け、弁当箱の蓋を開ける。
「ハートマーク!?」
「え? え? やっぱり付き合いだしたの!?」
「あのケンカは照れ隠しだったの!?」
「なんだよ、騒がしい奴らだな」
「ち、違う……」
お前らそんな目で見るな。
生暖かい目で見るな。
違うんだ。
俺はこいつのことがマジで大っ嫌いなんだ、ムカつくんだ、今でもイライラするんだ。
でも偽りの記憶が勝手にこうしちゃうだけなんだよ!
「私はこんなやつのことなんて!」
「俺だっててめえなんかと!」
激しい怒りのおかげか、ようやく本来の言葉を伝えられるようになったのかな。
そうだ、この激情こそがてめぇにぶつける真の感情だ。
あんな他人の気持ちに左右なんてされてなるものか!
吉田は強く握りしめた手を俺の方に向かって突き出してくる。
お前がそのつもりなら受けて立ってやる。
突き出されたそれを、俺は躊躇することなく口に入れた。
「うん、美味しいぞ」
「やった」
「…………」
「…………」
「「ぎゃああああああああ!」」
ほんと誰か助けて!
――――――――
学校の連中には勘違いされるし、望まないイチャラブを強制させられるし、散々な一日だった。
もう学校に行きたくないよ。
『明日も朝はいつもの時間な』
『うん。お弁当楽しみにしてね』
削除削除削除削除さくじょーーーー!
家に着いても油断できないのかよぉ。
スマホは危険だ、遠ざけておこう。
マジでどうしたら良いのだろうか。
前世の記憶と今の記憶が混ざり合って自我が崩壊しそうだ。
というか、乗っ取りじゃないのにどうして今の俺の気持ちが勝てないんだよ。心中する程の好きと比べても負けないくらいにあいつのことが嫌いだと思ってたんだがな。
少しでも気を抜くとあいつのことが好きだと錯覚してしまいそうになるからマジでヤバい。
猛烈な好きと強烈な嫌いが合わさってストレスマッハで倒れてしまいそうだ。
全く別のことを考えて息抜きするか。
若い男子高校生の息抜きと言えばやっぱりアレだ。
人並みに性欲はあるし、人並みに発散はしている。
パソコンを開いてお気に入りのブツを使ってリフレッシュしよう。
……
…………
……………………
『まさる、恥ずかしいよ』
『綺麗だよ、さちこ』
ぎゃああああああああ!
止めろ、それだけは絶対に止めろ。
イメージを全部吉田の顔にするんじゃねええええ!
治まれ、興奮するな、治まれよ!
こんなの嫌ああああああああ!
「は、はは、あはははは!」
こうなったのも全てあいつが悪いんだ。
あいつが俺をここまで不快にさせたから、こんな目にあってるんだ。
あいつが赤の他人のままならば、この記憶とも上手く付き合えた気がするのに。
ふざけるな。
俺の人生を返せ。
絶対に許さない。
気が付いたら俺は夜の住宅街を歩いていた。
向かっている先はあいつの家がある方向。
まるで夢の中を彷徨っているかのように現実感が無く、それでいて不思議と気分が高揚している。
「…………」
「…………」
どうやら吉田も同じことを考えていたらしい。ばったりと出会ったあいつの目の据わりようが俺と同じだ。
これまで何度も侮辱し、罵倒し、言葉の暴力を振るいあった。その時と同じか、それ以上の暗い澱みをお互いに湛えていた。
この苦しみを終わらせるために。
俺達はこれまでギリギリのところで我慢していた禁断の手段を選ぼうとする。
『来世で幸せになろう』
『はい』
残念ながらその願いは叶わない。
もっと別の人間に生まれ変われば良かったのにな。
「佐奈子!」
「悟!」
お互いの魂の叫びを合図に二つの影は重なった。
「「ん……」」
って違うだるぉ!?
なんで抱き締めてき、きき、キスっ……
「「オロオロオロオロ」」
脳がっ、脳が壊れるぅ!
自我が破壊されるぅ!
こんなやつと恋人になるなんて嫌だああああ!
「「いっそ殺して!」」
俺達がやろうとしても勝手に愛しちゃうから誰かお願いします!
『来世もその次もその次の次も永遠に一緒に居よう』
『はい』
死んでも助かりそうにありませんでした。
チクショウ!
これもう呪いだよね。
(記憶を引き継いだのが男同士だったらどうなってたんだろう……)