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あなたと私の美味しい関係  作者: 眼鏡ぐま


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46/52

46.ルルーシア・ヘイローはそんな約束していない

またしても、またしても遅くなり申し訳ねぇっす……(T_T)


 

 アルドラーシュに好きだと返したら笑ってくれるだろうかと考えてはいたけれど、まさかこんなに素敵な笑顔を見られるとは。

 この笑顔を見られただけで先延ばしせずに今伝えられて良かったと思える。

 上機嫌で私の手を握っているアルドラーシュに満足していると、もうひとつ聞きたいことがあったのを思い出した。


「そういえば」

「なに?」

「うちの家には知らせてあるの? さすがに言わないと不味いと思うのよね」


 領地は王都から離れているため耳には入らないかもしれないけれど、もしかしたら人伝に伝わる可能性もある。

 私がアルドラーシュの気持ちに応えたことも含めて言っておくべきだろう。


「ルルーシアを我が家で預かることに関しては、もうヘイロー伯爵の許可はいただいているよ」


 正直やっぱりねという感想だ。


「さすがアルドラーシュ、そういうところは抜かりないわね」

「……」

「どうしたの?」


 私としては褒めたつもりだったのだけれど、なぜかアルドラーシュは浮かない顔をした。


「いや……本当に抜かりのないやつは今回みたいに君を困らせたりはしないんじゃないかな、とね」


 ははっと乾いた笑い声とともに自嘲気味に話すアルドラーシュを見て、私は今回のことでアルドラーシュを責めただけで、お礼の一つも言っていないことに今さらながら気づいた。

 もしかしたらアルドラーシュは自分が余計なことをしたと思っているのかもしれない。


「あのね、アルドラーシュ。私、外堀を埋めるようなことに関しては怒っていたけど、あなたの気持ち自体は嬉しかったのよ?」

「……それは」

「だって私が心細かったって言ったから、だから傍にいてくれようとしたんでしょう? す、好きな人が自分を思ってしてくれたことが嬉しくないわけないじゃない」


 私がそう言うと、アルドラーシュは片手で握っていた私の手を両手で包み込むと、俯き加減で大きく溜息を吐いた。


「……ルルーシア」

「な、なに?」

「早く怪我治して。それで早く俺に抱きしめさせて」

「……は? え!?」


 言われたことを理解して動揺する私の手を握ったまま、アルドラーシュは畳みかけるように「早く正式にルルーシアの婚約者になりたい」と言った。


「可愛すぎる君が悪い」

「は、はあ? 何馬鹿なこと言ってるのよ」

「馬鹿なもんか。好きな子にそんな顔でそんな可愛いことを言われて喜ばない男はいない」


 アルドラーシュは私を見つめて大真面目にそんなことを言った。

 その破壊力たるや本当にすごいもので。私はしばらく何も言えず、息をするだけで精一杯だった。


「悔しい……!」

「いきなり、どうした?」

「私ばかり動揺させられてるじゃない。なんだかアルドラーシュはきらきら輝いて見えるし、どんな魔法を使ったのよ」


 今までだってアルドラーシュの容姿の良さはわかっていたけれど、こんなに格好良く見えたことはなかった。

 きっと私の気持ちの問題なのだとはわかっていても、素直に認めるのは負けているようで悔しい。

 いっそ魔法の影響だとでも言われたほうが素直になれそうだ。

 どこまでいっても私は可愛い女の子にはなれない。

 私がそう言うとアルドラーシュは声を押し殺して笑った。


「なんていうか、そういうのを馬鹿正直に言ってしまうところが俺にとってはすごく可愛いんだけどね。俺、思っているよりルルーシアに好かれてるって自惚れてもいいのか?」

「何よ、それ……ちゃんと好きって言ったわ。せいぜいしっかり自覚しなさいよ」

「はは、そうか。嬉しいな。でも絶対に俺のほうが好きだよ」

「はあ? 私の気持ち舐めるんじゃないわよ。私のほうが好きよ」


 それを言うなら自分のほうがずっと前から、いやいや、好きになった早さなど関係ないなど、「俺のほうが」「私のほうが」という押し問答を何回か繰り返し、気づいた時には互いに顔を見合わせて笑ってしまっていた。


「ふふっ! 何を言ってるのかしらね、私たち」

「本当だ。でも今日は思いがけず幸せな日になったよ。本当に、早くヘイロー伯爵にも婚約の許可を貰わないと」


 シシリ家はあの親のことだからすでに婚約に必要な書類は揃えているに違いないとアルドラーシュは苦笑を浮かべて言う。


「ああ、そうよ! 私の両親には何て言ってあるの? っていうか、どうやって連絡取ったのよ。もしかして寮の共鳴石借りに行ったの?」


 ヘイロー伯爵領までは馬車で一週間もかかるだけあって手紙のやりとりだけでも結構な時間を要するはずだ。

 となると、この短い間に連絡を取るならば共鳴石以外ありえない。

 しかし、ヘイロー家とシシリ家を繋ぐ共鳴石はないのだから、寮に置いてある共鳴石を使用するはずだ。

 本来ならば私が魔力を流さなければ通信はできないのだけれど、緊急時用に寮監と学園の事務官の魔力でも通信ができるように登録してあるのだ。

 先日、私が森で行方不明になった時にはそれを利用して親に連絡がいっていた。


「あー……うん、共鳴石は共鳴石なんだけど……」


 なんとも歯切れの悪い返事に私は首を傾ける。


「なによ、はっきりしないわね」

「いや、母上がさ……」

「サルヴィア様? サルヴィア様がどうかしたの?」

「……ヘイロー伯爵に婚約の打診の手紙を出した際に、一緒に共鳴石も送っていたらしいんだよね」

「……は? なんで?」


 アルドラーシュの話によると、彼が私に贈ったような宝石の共鳴石ではなく、ごく一般的なものであったらしい。

 けれど、ヘイロー家とシシリ家は今まで特に関わりもないし、共鳴石をもらう謂れはない。

 私の気持ちがはっきりしない段階でそんなものを受け取ってしまえば、受け入れなかった時に断りづらくなると考えた両親は共鳴石の受け取りを固辞したそうだ。


「さすがルルーシアのご両親だよね」

「どういう意味よ。だけどよく断れたわね……」


 相手は格上の侯爵家だ。

 いくら手紙を運んできたのがただの使者だったとしても、侯爵家からあげると言われたものを断るのは覚悟と勇気が必要だ。


「俺はその話を聞いた時はちょっと感動したよ」


 両親の言動から、私が大切に育てられたんだということが感じ取れたのだという。


「まあ最終的には無理を言って押し付けてきたみたいだけど」


 結局は手紙と共鳴石を運んできた使者に粘られて、本当に不要になれば共鳴石は回収するという形で受け取ったらしい。 


「ごめんな。うちの使者もたぶん母から「ちゃんと受け取ってもらうのよ~」とか無理を言われたんだと思う」


 アルドラーシュは呆れたように苦笑を浮かべる。


「でも、それが今回役に立ったわけだけど。まあとにかくその共鳴石で連絡を取って、驚かれたけど許可は頂けたよ」


 どうやら父様は少しごねたそうだけれど、母様がお世話になりますと言ったそうだ。 


(やっぱり我が家は父様よりも母様のほうが強いわよね)


 思わずふふっと笑いが溢れる。

 きっと母様はこの前話した時に、私がアルドラーシュにどう返事をするのかわかっていたのだと思う。

 母様と違い、シシリ家のお世話になるなら治療院でも良いのではないか、婚約前の娘に変な噂でも立ったらどうしてくれるとブチブチ言っている父様も想像できるけれど。


「アルドラーシュ。その共鳴石、今度貸してもらえる? 今回お世話になることと、婚約について、私からもきちんと話すわ」


 シシリ家の皆さんはなぜだかとても乗り気だし、両親は私の気持ちを優先すると言ってくれているから、私が気持ちを固めたらこの話はトントン拍子に進むだろう。

 であれば、怪我が治って再び学園に登校するようになる前にある程度話を纏めておいたほうが良い。

 そうすれば、妙な噂が立ったところですでにシシリ家とヘイロー家では私たちの婚約が内定しており、あとは書類を提出するだけと言うことができる。

 父様が心配しそうな私の悪評を抑えることにも繋がるだろう。


「田舎は嫌いじゃないけどこういう時不便よね。婚約証書にサインをもらうだけでも一苦労だわ」


 長期休暇で領地に戻った時に書いてもらうか、父様に王都まで来てもらうか、もしくはあちらで書類を用意してもらってサインを書いて送ってもらうか。


「俺としてはできれば両家できちんとした場を設けたいんだよな。ルルーシアのご両親にまともに挨拶もせずにって言うのはちょっと気が引ける」

「そっか。そういえばアルドラーシュはまだ私の親に会ったことなかったのよね。それも含めて話をしなくちゃ。でもとりあえず婚約したいって話はするわよ?」


 私がそう言えば、アルドラーシュはその整った顔に笑みを浮かべ頷いた。

 本当に良い笑顔だ。


「ルルーシアさえ良ければ、俺もこの後両親に話をしてきてもいいかな?」

「私も一緒に行くわ」

「んー、それはもう少し回復してからにしよう。今日は俺だけで話してくるよ」


 喜びを爆発させたサルヴィア様が私を揉みくちゃにしそうで怖いとアルドラーシュは苦笑を浮かべた。

 そんなことは、と思いつつ、ありえなくもなさそうなのでそのまま受け入れることにした。


「じゃあまず私がやることは、早く回復すること、両親に話をすることね」

「回復したら俺に抱きしめさせてくれるっていうのも忘れないでくれよ?」

「なっ、そんなの約束してないわよ! バカ! さっさと行きなさいよ!」


 思わずクッションをアルドラーシュに向かって投げつける。

 それをいともたやすくキャッチして、クッションを私に返しながら「照れた顔も可愛いな」などと恥ずかしげもなく言ってアルドラーシュは立ち上がった。


「話だけしたら戻ってくるから、一緒に夕食を摂ろう」


 そう言って手を振りながらアルドラーシュは部屋を出て行った。


「もう! 頭おかしくなってるんじゃないの!?」


 アルドラーシュから返されたクッションにバシバシと手を叩きつけ、そのままベッドへと乱暴に身体を預ける。

 多少手や腕が痛い気もしたが、今はそんなことよりも恥ずかしさのほうが勝っていた。


読んでいただきありがとうございます。

想いが通じ合ったということで、アルドラーシュへのボーナスタイムでした(笑)°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°


いいねや感想&誤字報告に評価などありがとうございます。

日々の糧になっております!

まだまだ暑い日が続きますが、皆さんご自愛くださいね~。

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