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あなたと私の美味しい関係  作者: 眼鏡ぐま


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33/52

33.ルルーシア・ヘイローは真面目で頑固である

遅くなってすみません!

いいねや感想&誤字報告に評価などありがとうございます。

 

 アルドラーシュも席に戻り、私はからからに乾いた喉を紅茶で潤し、ほうっと息を吐く。

 あまりにいろいろなことを聞きすぎて、心を落ち着かせるまでに時間を要してしまった。

 アルドラーシュが私のことを好きになった理由もそうだけれど、いろいろ試着したあの服たちが私のために侯爵夫人が買ったものだとか、まさかすでに婚約の打診までしているだとか。

 驚きを通り越して現実かどうか疑いたくなるほどだ。


「何してるんだ?」


 自分の頬をつねっていた私にアルドラーシュが不思議そうに問う。


「現実かどうか疑わしくて」


 街に下りた時に聞いた話だが、平民の間ではこの行動は自分の頬をつねり痛みを感じたら現実であるということの証明だという。


「痛い」

「当たり前だろ。そうでなかったら困る」

「そう、そうよね」


 今日起きたこと、聞いたことはすべて現実の話で、夢ではない。

 貴族間の婚約は一度結べばそうそう簡単に解消されるものではない。つまりアルドラーシュも、それを打診したシシリ侯爵家も本気だということ。

 結婚しても良いと思うほど私を望んでくれているということだ。


「……アルドラーシュ、あなた本気で私のこと好きなのね」

「そうだよ。やっと本当の意味で理解してくれた?」

「……したわ。さすがにもう疑ったりしない」

「じゃあ俺の恋人になってくれる?」

「それは……できない」


 そう答えた私にアルドラーシュはテーブルの上のカップに視線を落とす。


「……俺のこと、嫌いか?」

「嫌いじゃないわ!」

「だったら――」

「でもアルドラーシュと同じ気持ちは、まだ返せないもの」


 アルドラーシュのことは嫌いじゃない。むしろ人としてなら好きだ。けれど、それが恋愛としての好意に変わるかわからない。

 こんなに真っすぐ気持ちを伝えてくれるアルドラーシュに、中途半端な気持ちのまま彼からの好意を受け入れるのは失礼だと思う。

 そう伝えるとアルドラーシュは大きな溜息とともに行儀悪くテーブルに突っ伏した。


「はあ~。ルルーシアは真面目だよな」


 そんなこと気にせず、ヘイロー伯爵家の家訓に則ってとりあえず受け取ってしまえば良いのにとアルドラーシュは言った。


「無理よそんなの。アルドラーシュは物じゃないんだもの。でも……前向きに検討するわ」

「……本当か?」

「ええ。……私ね、嬉しかったのよ」


 アルドラーシュに可愛いと言ってもらえて、好きだと言ってもらえて、私は確かに嬉しかった。


「こんな私のことを好きになってくれる人がいるんだって、私もまだ誰かのお姫様になれるのかもしれないって」

「お姫様?」

「そうよ」


 小さい頃に憧れていた、物語に登場するその人にとってたった一人の大切なお姫様。

 山猿とか、男のようだとか、ドレスが似合わないとか、誰も好きにならないなんて言われた私とはまったく違う、可愛くて、優しくて、愛されて、必ず幸せになる女の子。


「自分には起こりえない奇跡だと思ってたわ。ありがとう、アルドラーシュ」

「ルルーシア……」


 アルドラーシュは何か言いかけた後一旦止まり、思案する表情を浮かべた後「だったらもうとりあえず恋人で良くないか?」と少し不満げに言った。

 私はそれにゆるく首を振る。


「駄目。アルドラーシュのこと人として好ましく思っているからこそ中途半端なことはしたくないの。この後あなたとどうなっていきたいか、きちんと考えたいのよ」


 私が真っすぐアルドラーシュの目を見てそう言えば、彼は苦笑を浮かべた。


「やっぱりルルーシアは真面目だ。そして頑固だ」

「あら、知らなかった?」

「知ってた。そういうところも好きだけど」


 あっさりと私への好意を口にし、そのままにっと口の端を上げると「つまりここからは俺の頑張り次第ってことだな」と言って笑った。


「俺のこと好きになってもらえるように頑張るから」

「……お手柔らかにお願いするわ」

「どうかな。俺も必死だから攻めるつもりだけど。でもまあ、とりあえず今日の目的は果たせたってことで。ルルーシア、好きに食べていいぞ」


 そう言ってアルドラーシュはテーブルの皿に載っていたクッキーを一つ摘まんで口に入れた。

 たしかにこのテーブルに着いた時から彩り豊かに卓上を飾るお菓子たちが目に入っていた。

 けれど今まではそれどころではなくて、紅茶以外は何も口にしていなかったのだ。

 アルドラーシュは美味しそうに目を細めクッキーを食べ終えると、私にも同じものを勧めてきた。なんでもこれは彼の好きなクッキーらしい。

 サクサクと歯触りの良いクッキーはほんのりと柑橘系の味がして実に美味しい。


「美味しいだろ?」

「ええ、とっても!」

「薄くジャムが塗ってあるんだ。絶対にルルーシアも好きだと思ってさ」


 こうやって互いの好きなものを分かち合うのもいいなとアルドラーシュが急に言うものだから、思わず咽そうになってしまい、コホコホと咳をする。

 キッとアルドラーシュを睨めば「攻めるって言ったろ?」と返された。

 一々反応してしまうのも悔しかったので、すました顔で「そうだったわね」と言ってやった。

 思っていたのと違う反応を見せる私に肩透かしを食らったようなアルドラーシュの顔が面白く、くすくすと笑うとそれにまた彼が笑みを返し、いつものように楽しい時間が流れた。

 シシリ侯爵家の料理人は本当に腕が良く、出されたお菓子や軽食はどれもとても美味しかった。


「相変わらずいい食べっぷり」

「はしたなくて悪かったわね」

「そんなこと言ってないよ。これだけ喜んでもらえたらうちの料理人たちも嬉しいと思う」

「だったらいいんだけど」


 いろいろと食べられるように、ほとんどのものが女性の一口サイズに作られていたためすべてを堪能することができて大満足だ。

 気遣いまですばらしい。


「ルルーシアの家ではどんなお菓子が出てた?」

「うち? うちは木の実を使ったお菓子が多かったかしら。やっぱり周りに木々が多いから――」


 そんな会話をしながら最後の紅茶を飲んでいると、ずっと壁際に控えていたロビンさんがアルドラーシュのもとまでやってきて何かを耳打ちした。

 ロビンさんを見ながら、そういえば完璧に空気になっていて忘れていたけれど、この部屋にはロビンさんもメイドさんもいたのだったと思い出す。


(みんなの前で結構恥ずかしいやりとりをしていた気がする)


 恥ずかしさを紛らわせようと顔をパタパタと仰いでいると、アルドラーシュが私を見ていることに気がついた。


「どうしたの?」

「いや、どういうわけかハリーが来たらしいんだ」

「ソフェージュ様? 今日はアリスとお出掛けするって言ってなかったかしら」

「あー、それだが、どうやらローリンガムさんも一緒らしいんだけど、入ってもらっていいかな?」

「私は構わないけど、どういうこと?」

「さあ? とりあえず来てもらえばわかるだろ。ロビン、ここまで案内してやってくれ」


 仲が良くても通常事前に約束をしていなければ先触れを出すことが一般的だけれど、どうやらそれもなかった様子。

 本当にいきなりやってきたらしい。


「どうしたのかしらね。急用かしら?」

「なんだろうな。ローリンガムさんと一緒なんだったらデートの途中じゃないのか?」


 なぜデート途中にわざわざ友人に会いに来る必要があるのか、やはり本人たちに聞いてみなければわからないねと話していると、ソフェージュ様とアリスがロビンさんに連れられてやってきた。

 そして挨拶もそこそこに事は起こった。


「あの時は本当に申し訳なかった!」


 アリスに「早く!」と急かされるように押し出されたソフェージュ様が、なぜか私に謝罪したのだ。


「えっと、え? なにが?」


 混乱する私にソフェージュ様はなおも頭を下げつ続けているし、私だけでなくアルドラーシュも何が起きているのかわからない様子だ。

 唯一状況がわかっていそうなアリスに助けを求めるように視線を送れば、彼女は溜息を吐いて「ハロルドよ」と言った。


「え? なに? どういうこと? ハロルドはソフェージュ様のお名前よね?」

「そうだけどそうじゃないわ。この人があのハロルドだったのよ!」

「あのハロルド?」


 理解できていない私の態度にしびれを切らしたアリスは、ソフェージュ様をびしっと指差した。

 アリス、人を指差すのは良くないと思う。


「だから! このハロルドが昔ルルにトラウマを植え付けたハロルドだったのよ!」

「……え?」


 未だ頭を下げたままのソフェージュ様を見る。


(この方が? 本当にあの時の男の子?)


 あのハロルド少年はもっと粗野で我儘な印象の子だった。

 対してソフェージュ様は女性には優しいし、人に暴言を吐いたり貶したりなんてしているところを見たことがない。

 以前も困っている私を助けてくれた。とても今目の前で頭を下げている人と同一人物だとは到底思えない。


「あの、ソフェージュ様? そろそろ頭を上げてください」


 私の言葉でやっと顔を上げたソフェージュ様は本当に申し訳なさそうで、アリスが言ったことが嘘ではないのだと思わせる表情をしている。

 けれどまだ実感はわかない。


「すまなかった」

「いきなりなことですので、謝られてもにわかには信じがたいのですが……本当にソフェージュ様があの時の男の子なんですか?」

「そうだよ」

「……そう、ですか」


 いきなりそのようなことを言われても、私自身どうしたら良いのかわからない。

 シーンとした重い沈黙が続く。


「とりあえず、ハリーとローリンガムさんも座って。ルルーシアも混乱しているようだし落ち着いて話を聞かせてくれないか? ルルーシアもそれでいいか?」


 アルドラーシュの言葉にみんなが頷き、無言のまま席に着いた。



予想していた人もいたかと思いますが、ハロルド・ソフェージュがあのハロルド少年だったのでした。


更新遅くなり申し訳ありません。

ぎっくり腰をやりまして、座っているのが辛いので次の更新ももう少し空くと思います_(._.)_

気長にお待ちいただければ幸いです。

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