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あなたと私の美味しい関係  作者: 眼鏡ぐま


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24.ルルーシア・ヘイローは混乱する

いいねや感想&誤字報告に評価などありがとうございます。

 

 重大な話だと言ったはずなのに、アルドラーシュはなぜか先ほどの話を蒸し返してきた。


「ルルーシアは俺のことを優しいと言ったが、それは正解であり間違いだ」

「……えーっと、重大な話じゃなかったの?」


 正していた姿勢から若干力が抜けた。

 必要なのかどうかもわからない覚悟を決め、緊張感をも覚えたあの時間は何だったのか。

 そんな疑問を持って問いかければ、アルドラーシュは「まあ、最後まで聞いてくれよ」と言った。


「とりあえず、今俺が言った言葉の意味を考えてくれないか?」

「言葉の意味……?」


 よくわからないまま、言われたことを素直に考えてみる。

 アルドラーシュ曰く、彼は優しいけれど、それは正解でもあり間違いでもあるらしい。

 いや、意味不明。

 どれだけ考えてもアルドラーシュが優しいということは間違いない事実なのだ。

 彼が怒っているところなど見たことがないし(怒るような状況になっていないだけなのかもしれないが)、男女問わず誰にでも優しく平等であるからこそ人気も高い。

 それなのに、それが間違いだと言われても首を傾けることしかできない。

 私がそう言うと、アルドラーシュはその美しい顔に苦笑を浮かべた。


「誰にでも平等ということは、裏を返せば誰も特別ではないということだよ。周りと上手く付き合うために当たり障りのない態度を取っているだけだ。長年そうしてきたから、おそらく無意識でそういう行動を取ってる」

「無意識、ねえ。でもそれでもいいんじゃないの? それって意外と難しいと思うのよ」


 意識的ではないそれはアルドラーシュの思う優しさではないのかもしれない。

 けれど人を不快にさせず、受け取る側が優しいと感じているのならば、それは十分優しいということになるのではないだろうか。

 人に不快感を与えるなんてことは意外と簡単にできてしまう。

 そうならないのはアルドラーシュが相手の気持ちを理解しようとし、相手の立場に立って考えることができているからだ。

 しかもそれを長年、無意識で行っていると言う。

 誰だって無意識で行動に移すようになるのは、それが身体に沁みつくまでずっと行ってこなければそうはならない。

 しかも最初は意識的に、だ。

 つまりアルドラーシュは幼い頃から周りをよく見て相手に思いやりを持って接するように意識してきたということに他ならない。

 たとえそれが、自分が侯爵家の人間だからそれに恥じないようにと思ってのことだったとしても、それはすごいことだと思うのだ。

 わかっていてもできない人は大勢いる。

 身近な例としては私だろう。


「ほら、私なんかは気が強く言い返してしまうこともあるから、目をつけられることもあるでしょう?」


 たとえばあの厭味ばかり言ってくる二人組とか、と私は頭の中に彼女たち思い浮かべる。

 あの人たちもアルドラーシュのような考えであれば、私に日々厭味を言ってくることもなかっただろう。

 私がそんなことを考えていると、アルドラーシュは残念なものを見るような目で私を見ていた。


「な、なによ」

「今の会話で拾い上げるとこそこなの? 他にもっとあっただろう?」

「え? もっと? えーっと……」


 他、他とは。

 私今結構真面目に考えていたのだけれど。

 あとアルドラーシュが言っていたのは誰にでも平等ということは~のくだりだろうか。


「そう、そこだよ」


 そこだったらしい。

 けれどアルドラーシュがそう言ったことで、私は彼が言いたかったことようやく気がついた。


「つまり、私がアルドラーシュを優しいと感じている行動は無意識に行われるものだから特別でもなんでもないということね!」


 いろいろ考えていたが、アルドラーシュが欲しかった答えはもっと簡単なことだったらしい。

 なるほど、と頷きながら答えを出すと、アルドラーシュはがっくりと項垂れた。


「どうして、どうしてそうなるんだ……」

「アルドラーシュ、大丈夫よ。私、自分が特別だなんて勘違いしたりしないわ」


 アルドラーシュのことだ。無意識とはいえ、他人からしたら優しく見えるその行動で勘違いされた良くない思い出があるのかもしれない。

 主に女性関係で。

 今だって学園ではアルドラーシュの周りには、彼の隣に立たんとする、清楚な女性からギラギラとした女性まで多種多様な女生徒がいるのだ。

 アルドラーシュが女好きであったり、ちやほやされたりするのを好むような人間ならそれも楽しめたのだろうが、残念ながら彼はそうではない。

 皆平等に接するというのはアルドラーシュが平穏に暮らすために必然的に身に着いた癖でもあるのだろう。


(きっとそうね。アルドラーシュが私に話しかけたってだけで他の教室から私を見に来る女生徒がいたくらいだものね)


 互いに授業の内容の話をしただけだったのに、そんなことが起こるのがアルドラーシュなのだ。

 私は彼のライバルであり友人でもあるけれど、この関係をアルドラーシュも好んでくれているようだから変な勘違いで壊したくないのだろう。

 だから大丈夫だと言ったのに、それを聞いた瞬間項垂れていたアルドラーシュの肩がピクリと動いたかと思うとすごい勢いで顔を上げた。


「勘違いしてくれよ」

「え?」

「いや、勘違いでもなんでもなくて……一応確認だけど、遠回しに断られているわけじゃないよな?」

「断る? 何を?」


 アルドラーシュの言っていることこそ遠回り過ぎてよくわからないと首を捻る。


「……俺は、俺はルルーシアだけは他のみんなよりも優しく接しているつもりだった」

「え? どうしてよ?」


 私だけ、とは。

 まったくもって意味がわからない。

 たしかに気が利くし、椅子を引いてくれたり馬車の乗り降りの時は手を貸してくれたりするけれど。

 けれどそれは他の女性と一緒の時でもアルドラーシュなら行うことだと思っていた。


(もしかしてやらないの?)


 それはなぜだろうと考え、一つの結論に至った。


「あ! もしかして私が謎シシリのことを知ってしまったから?」


 勘違いされたくないから皆平等に接していたのに、私にあの変装を見られ、さらには甘いもの好きが露見してしまったのだ。

 その美貌を隠すことでひっそりと趣味を楽しんでいたのに、思いがけず私に見つかってしまったのだから気が気でなかったのだろう。

 アルドラーシュの心の平穏を乱してしまったことは申し訳ないと思うが、そのせいで私を他の人よりも優遇していたとはなんとも腹立たしい。


(そんなことしなくても言いふらしたりなんてしないのに)


 私がそんな考えに至り少し表情を曇らせると、それを見て取ったアルドラーシュが「ちょっと待って」と言ってきた。


「絶対見当違いなこと考えてるだろ……ルルーシアって、本当に鈍いよね」

「はあ? どういう意味よ」

「今さ、俺が君に優しくしたのは変装や甘いものを楽しんでいることを暴露されないため、とか考えていただろ」


 アルドラーシュがジトっとした目で妙に確信的に言ってきた。

 図星を突かれ、私は口を引き結ぶ。

 なぜそこまで正確に私の考えていることがわかるのだろう。そんなにわかりやすい、もしくは顔に出てしまっているのか。

 私はアルドラーシュが何を言いたいのかまったくわかっていないというのに。


「私が鈍いんじゃなくてアルドラーシュの言い方が悪いんでしょ。言いたいことがあるならはっきり言ってよ」


 悔しくなって、少しつっけんどんに言い返した私に、アルドラーシュは「うん、そうする」とあっさり言った。


「ルルーシア、今から本当に一番大事なことを言うから。今日の他のことは忘れてもいいからこれだけは覚えていてほしい」


 そしてそこからのアルドラーシュの話は私の頭を大いに混乱させた。




「俺はルルーシアが好きだ」

「何よいきなり。私もす――」

「言っておくけどルルーシアの思っている友人としてとか、人としてとかそういうのじゃないから」


 アルドラーシュの言葉を即座に友人としての好きだと理解し、自分もだと口を開きかけたところで先んじて言葉を遮られた。


「え?」

「ルルーシアが俺の好きに対してそう返すのは想定済みだ。たしかに友人としても、人としても好ましいとは思ってるよ。でもそれだけじゃない。そんなものじゃ足りないんだ。俺は、俺は君の恋人になりたい」

「……こい、びと?」

「そうだよ。俺の好きはそういう好きだ」

「………………そ、れは……愛とか」


 突然の意味不明発言に停止していた思考が働き出したが、まったく処理ができない。

 自分の目が驚きからものすごく見開いていることはわかる。

 正常に機能していない思考が思わず「愛?」とか訳のわからないことを聞き返してしまったが、それに対し目の前の人物はかっと頬を赤く染めた。


「っそうだ。愛とか恋とか、そういう意味の好きだ」

「…………………………………………は!?」


 理解が追い付かな過ぎて、目に続いて口までぽかんと開けて固まってしまった。

 こんな顔を母に見られたらさすがにお叱りを受けるだろうという間抜け面だ。けれど許してほしい。

 いきなりこんなことを言われたら誰だってこういう顔になる。絶対なる。


(す、好き? 好きって言った!? あ、愛とか言ったの!?)


 あのアルドラーシュ・シシリが。

 学園の人気者でいつも女性から秋波を送られているのに誰とも噂になったことのなかったこの人が私を好きだと言った。

 それも友人としてとか人としてとか、そういうものではなくて愛だと。つまり恋愛的な意味で私のことが好きだと言った。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 …………………………なぜ?


 本当に、ちょっと理解が追い付かない。

 なぜ私なのか。

 自分で言うのも悲しいけれど、私はけして男性に好かれるような容姿でも性格でもないはずだ。

 負けん気が強いし、守ってあげたくなるような性格でもなければ大人しく守られたいわけでもない。

 それなのに、どうして。


(駄目だわ……。考えたところで何もわからない)


 頭の中でアルドラーシュの言葉がぐるぐると回るだけで、答えなど出そうもなかった。


ご唱和ください(笑)


「いいぞ、いいぞ、シシリ!」

「頑張れ、頑張れ、シシリ!」


従者ロビンはどこまでも空気です(笑)

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[一言] 「いいぞ、いいぞ、シシリ!」 「頑張れ、頑張れ、シシリ!」 でも唱和しただけで彼女が動かせるか謎な気がします……。
[良い点] GO!GO!シシリ! ついにダイレクトに言ったー!
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