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あなたと私の美味しい関係  作者: 眼鏡ぐま


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17/52

17.ルルーシア・ヘイローはその笑顔が嫌いだ


いいねや感想&誤字報告に評価などありがとうございます。

 

 私が顔を背けたまま黙っていると、シシリ、もといアルドラーシュが声を抑えて笑い出した。


「――いな」

「……何か言った?」

「可愛いなって言った」

「可愛い? ああ、このお店は内装も可愛いわよね」


 だからこそアルドラーシュも男一人で来ることを躊躇したのだし。


「いや、うん。店内も可愛いけど、ルルーシアが可愛いなって」

「……はあ?」


 思わずお腹の底から可愛くない声が出た。


「何それ。そんな言葉でご機嫌取ろうとしたってそうはいかないわよ」

「……なんでそうなるんだ。俺は本当に――」

「お待たせしました~! こちら本日のスペシャルスイーツセットでございます!」

「わぁ、可愛い!」


 元気の良い店員さんによって運んでこられた大皿の上には様々な種類のスイーツが載せられていた。

 中央には美しく飾り付けられたオレンジのパフェ。その周りには小振りなキイチゴのタルトに可愛く絵付けされたクッキー、ロールケーキにピンク色のクリームでバラの装飾が施されたカップケーキがバランスよく置かれている。

 店員さんが去った後どれから手をつけようか胸の前で手を組み考えていると、目の前から盛大な溜め息が聞こえてきた。


「わかるわ。溜め息ものの可愛さよね」

「君って気持ちの切り替えがとても早いよね。まあそこがいいところでもあるんだけど」

「え? なに? なんの話?」

「なんでもないよ。うん、たしかに可愛い。食べるのがもったいないかも。どれからいこうかな」

「本当よね。私はこのバラのカップケーキからいただくわ」

「じゃあ俺はこのパフェから」


 思い切って一口でカップケーキを頬張ると、鼻からふわっとバラの香りが抜けた。

 見た目だけでなく味までバラ風味とは洒落ている。見た目は可愛いけれど味は大人向けだ。


「すごいわ、シシ、アルドラーシュ。このカップケーキ、味までバラよ」

「本当? 手が込んでいるな。このパフェもとても美味しいよ。これは普通のオレンジとは違うのかな。すごく瑞々しいし味が濃いんだ」

「じゃあ私も次はパフェを食べてみるわ」


 その後も感想を言い合いながらスイーツを堪能し、スイーツセットを完食すると、アルドラーシュがおもむろに「よし」と呟いた。

 そしてちらりと私に視線を向けた。


「ルルーシアも食べるよな?」


 その言葉で私はアルドラーシュの言わんとしていることを察する。


「もちろんよ。アイスクリームも付けるわよね?」

「もちろん」


 私とアルドラーシュは互いににやりと笑みを浮かべた。

 スイーツ店ルルの今月の新作『りんごのキャラメリゼ』。これを食べずして帰れるわけがない。

 追加注文をし、やって来るまでの間アルドラーシュとまた他愛もない話をする。

 今の話題は領地での過ごし方だ。


「ルルーシアのことだから室内で大人しくって感じでもないんだろ?」

「……なんだか言い方に悪意を感じるんだけど? まあ、でも実際その通りだけど」

「外に出て何をするんだ?」

「そうねぇ……遠乗りとか」


 私が思い出しながらそう言うと、アルドラーシュは目を丸くした。


「え? 君、乗馬できるの?」

「できるわよ」


 うちの領地はシシリ家ほどではないがなかなかに広い。

 広いと言っても人が住んでいる所よりも、森や草原などの自然のほうが多いのだけれど。

 領の特産である薬草は人が手を付けると上手く育たないものもあるため手つかずの自然も多く残されているのだ。

 そういった場所は大体が人里から離れているため、馬は移動には欠かせない。


「だから馬の数も多いし、馬に乗れない人のほうが少ないんじゃないかしら」

「へえ、それは性別関係なく?」

「ええ」

「それはすごいね」

「シシ、アルドラーシュは?」

「ふふっ」


 シシリと言ってしまいそうになって慌てて言い直した私に、アルドラーシュは思わずといった様子で笑った。


「ちょっと! 笑わないでよ。そんなすぐに慣れるわけないじゃない」

「ごめん、ごめん。えーっと、領地では何をして過ごすかだったな。俺は剣術の訓練かな。王都の屋敷でもやってはいるけど、領地には子供の頃からの師匠もいるし」


 アルドラーシュの答えに今度は私のほうが目を丸くした。


「剣? あなたが?」

「どうしてそんなに驚くかな。貴族家に生まれた男なら大体は剣術を習うだろ?」


 アルドラーシュの言うとおり、貴族家に生まれた子息たちはよほどの理由がない限り剣術を学ぶだろう。

 もちろん私の兄弟も剣術を嗜んでいる。


「それは、そうなんだけど。アルドラーシュと剣っていうのがあまり結びつかなくって」

「ええ? 俺ってそんなに非力そうに見える?」

「そういうわけじゃないけど、どちらかというと身体を動かすよりも頭を使う方が得意そうだし、魔法があれだけ使えれば剣が使えなくても差し支えないでしょう?」


 私がそう言えば、アルドラーシュもなるほどと言うように頷いた。


「でももし魔法を封じられたら? 魔力切れを起こしたら? できることが多いことに越したことはないさ」


 アルドラーシュの言葉に私は改めて驚いた。

 私は今まで自分の魔力が切れたら、魔法が封じられたらなんて考えたこともなかった。

 一応貴族令嬢の端くれでもある私が、供も付けずに街まで気軽に出かけられているのは魔法に自信があるからだ。

 魔法さえ使えれば、大型魔獣だろうが暴漢だろうが仕留める自信はあるけれど、それが封じられたら私はただの非力な人間に過ぎない。


「……すごいわ。アルドラーシュはいつも私よりもずっと前を歩いているって感じだわ」


 同級生なのに。私はアルドラーシュのライバルのはずなのに。

 なぜか彼に置き去りにされた気分だ。

 悔しさからか自分の口から出る声が少し硬くなる。

 それを知ってか知らずか、アルドラーシュは明るい声で「そんなことないよ」と言う。


「ちょっと格好つけて言ったけどさ、一番の理由は兄さんに勝ちたいからだ」

「お兄さん?」

「ああ。本当にすごいんだよ、兄さんは。それこそいつも俺の一歩先を進んでる。俺より早く生まれたんだから当然だっていう人もいるけどさ」

「わかる。そういうことじゃないのよね。年とか関係なくただ勝ちたい、それだけよ。大体年齢の話をされたら一生勝てないってことじゃない」


 私にも兄がいるからよくわかる。私の場合は特に性別も違うから余計にそう言われることも多かったのだけれど。


「そう、そうなんだよ! わかってくれるか?」

「わかる。ものすごくわかるわ」


 うんうんと頷き心の底から同意する。

 年齢が、性別がと言われていることは理解できる。勝てない私を慰めてくれようとしていることもよくわかっていた。

 その気持ちはありがたかった。けれど、だからと言って簡単に負けを受け入れられるかという話だ。

 ただわかってほしいのは、決して兄のことが嫌いなわけではない。むしろその逆で、自分よりもすごいと認めているからこそ挑みたいのだ。


「さすがルルーシア、よくわかってる」

「でも私は年上の気持ちもよくわかるわ」


 アルドラーシュは末子だけれど、私には弟がいる。

 姉に勝ちたい弟、弟に負けたくない姉。実力が迫ってくればまだ負けるまいとさらに努力する。


「まだまだ格好つけたいの」


 弟が挑んでくる姿を思い出すと自然と笑みが零れた。


「どちらにせよ相乗効果で実力は上がるのだから誰も損はしないのよ」


 よく考えるとライバルという関係に似ているなと思っていると、アルドラーシュが「君みたいな姉がいて弟君は幸せだね」と言った。


「あら、アルドラーシュの姉代わりにもなってあげましょうか?」

「それは駄目」


 揶揄うようにそう言えば、シシリはすぐさま拒否した。


「どうしてよ。私本当にいい姉よ?」

「どんなに良くても駄目。ルルーシアと姉弟なんて絶対嫌だ。困る」

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない」

「……君だって俺が兄になったら嫌だろ?」

「嫌よ!」

「うわ、即答。でもほら、お互い様だろ? 俺はルルーシアとは兄妹とかよりも今の関係のほうがいいよ……君と俺は互いに切磋琢磨し合う良いライバル、だろ?」

「そうね!」


 アルドラーシュの言葉に気を良くした私とは対照的に、彼が苦笑を浮かべていたことにこの時の私は気づいていなかった。


「……ほんと、鈍感」

「うん? 何か言った?」

「いや、デザート楽しみだなって」

「本当ね。あ、来たみたい」


 そうして目の前に置かれたりんごのキャラメリゼ、バニラアイス載せ。

 まず香りが良い。

 甘さの中に香るカラメル独特の芳ばしい香り。バニラアイスに振られたシナモンパウダーとの相性も抜群だ。

 そして見た目も良い。

 りんごに沁み込んだカラメルとアイスクリームの色合いは最高だし、温かなりんごの上で緩やかに溶け出す様も目を喜ばせる。

 りんごをスッと切って、まずはそのまま一口。途端にバターの芳醇な香りが広がり、その後にカラメルの甘さとほろ苦さで満たされる。

 口の中からその存在が消えると休むことなくナイフを入れ、今度はアイスクリームと一緒にいただく。

 甘さがくどくなるかとも思ったがまったくそんなことはなかった。


「最高。来て良かった……」

「同感」

「これは来月も期待できるわね」

「また来る?」

「もちろん。アルドラーシュも来るでしょう?」

「もちろん」


 当然だと互いに頷き合いながら、私たちは口いっぱいに幸せを頬張った。


 心行くまでスイーツを堪能し、お店を出てもう集合場所の定番となった公園までやってきた。


「それじゃあね、シシリ。今日も楽しかったわ」

「まだアルドラーシュだ」


 公園には私たち以外誰もいなかたので呼び方をシシリに戻したが、すぐさまシシリに訂正された。


「はいはい。またね、アルドラーシュ。ふふっ、学園でアルドラーシュに声をかけることがあったらこんがらがりそうだわ」


 パッと見の容姿が違うことが救いだろうか。

 ただ最初こそシシリと謎シシリと区別していたけれど、今となってはどちらもただのシシリに見えてしまうからあまり容姿の違いの効果は無さそうだけれど。


「間違ってしまわないように気をつけなきゃ」

「俺はべつにアルドラーシュって呼んでもらっても構わないけど?」

「嫌よ。私まだ死にたくないもの」

「……大袈裟な」

「大袈裟なもんですか。あなたはどれだけ自分が女性から好かれているか自覚したほうがいいわね」


 私がそう言うと、アルドラーシュはその顔に苦笑を浮かべた。


「……どれだけ好かれたって、君に振り向いてもらえないなら意味無いよ」

「え? なんて?」


 小さすぎる呟きを聞き取ることができず聞き返す。

 するとアルドラーシュは先ほどまでと違った完璧な笑顔で「なんでもないよ」と言った。


「……その顔、やめなさいよ」

「え?」

「その作り物の笑顔を私に向けるのはやめてって言ったの。言ったでしょ? シシリがどんなシシリでもあなたであることに変わりないって」


 目を丸くして私の言葉を聞いていたアルドラーシュは眉をへにょっと下げて困ったように笑った。


「……まいったなぁ。ほんと、君には敵わないよ」

「敗北宣言ね!」

「もうそれでもいいかも」

「ちょっと! やる気見せないさいよね」

「……そうだね、もっと頑張らないと。さあ、早く帰らないと暗くなるぞ」

「あら、ほんと」


 アルドラーシュに言われて空を見上げると、上には夕焼けが迫り始めていた。


「じゃあ今度こそ帰るわ」

「うん、今日も送らせてはくれないんだろ?」

「ふふ、そうよ。じゃあね」

「ああ、また明日」


 アルドラーシュと別れ、今日も有意義な一日だったと振り返りながら寮への道を急いだ。



店員「店長ー! 私めっちゃタイミング悪かったです! メガネの子に睨まれました!」

店長「お邪魔虫ねぇ。ちゃんと空気読みなさいよ」

店員「ひどい! 店長がさっさと行けって言ったんじゃないですか!」

店長「し~らない」

店員「もー!」



カラメルってめっちゃ美味しいですよね(´﹃`*)

リンゴとシナモンはよくある組み合わせですが、私はシナモンが苦手です……。


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