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あなたと私の美味しい関係  作者: 眼鏡ぐま


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13/52

13.アルドラーシュ・シシリは実は緊張していた

お待たせしました。

少し涼しくなってきましたね。

今回はシシリ視点です。



あと少しお知らせをば。

9/15(金)からコミックブシロードWEBさんで

『王立騎士団の花形職』のコミカライズが連載スタートします。

初のコミカライズに心がワッショイしています∩(*´ᗜ`∩)♪

よろしくお願いいたします。

 

 ヘイローに寮まで送るという提案を前回と同じように断られ、内心残念に思いながらも笑顔のまま公園で別れた。


(もう少し一緒にいたかったな)


 きっとこんなふうに思っているのは自分だけなのだろう。

 ヘイローは俺が想いを寄せているなんてまったく考えていないはずだから。


「でも、一歩前進だ」


 ベンチに座り直し、左耳に着けたイヤーカフに手をやる。

 イヤーカフはヘイローに渡したブレスレットと同じ金色のシンプルな土台に小さな共鳴石が一粒はめ込まれている。

 今日はこの共鳴石を絶対に渡したかった。

 今回ヘイローとまた一緒に出掛けることができたのは本当にたまたまだ。

 あの時ヘイローを探して声をかけなければ、今日という日すらなかったかもしれない。

 初めて一緒にスイーツ店に入った日から、学園にいる時にヘイローのもの言いたげな視線を感じるようになった。

 それまでは勉強のことくらいでしか会話がなかったヘイローが自分を見ていることに驚きつつも、彼女の視界に自分がいるということに嬉しさを感じた。

 今まではどちらかというと敵視されているのだと思っていたし、話しかけようものならあからさまに困惑の表情を浮かべるものだから好かれていないと思っていたのだ。

 スイーツ店でのヘイローは学園にいる時とは違って笑っていることのほうが多く、嫌われているわけではないと知ることもできた。

 けれど学園で俺と話すとその後が面倒だと言ったヘイローに声をかけるのは躊躇われた。

 本当は話しかけたかったけれど、そうすることでまた彼女が何かを言われてしまうのではと思うとそれもできなかった。

 そのうち彼女のほうから何か言ってくるだろうと思っていたけれど、何日たってもそれはなく。

 ただただ、視線を感じる毎日。

 気になりすぎて、結局人目がないところを狙って話しかけた。

 そうして今がある。


「……あの時勇気を出して話しかけて良かった」

「本当に。うまくお渡しできて良かったですね」


 俺の呟きに答えるように従者のロビンが言った。


「感慨に浸っているところ申し訳ありませんが、迎えの馬車がきましたよ」

「ああ、ありがとう」


 公園の入り口のすぐ横に付けられた馬車に乗り込み腰を下ろす。

 そしてまた今日という幸福な時間を思い返す。


 ローリンガムさんがたまたま行けなくなったから空いた彼女の相手役。

 ちょうど良いタイミングで俺が声をかけたのだとしても、ヘイローに誘ってもらえたことがとても嬉しかった。

 この時ほど自分が甘いもの好きで良かったと思ったことはない。

 ヘイローと約束をして高揚感に包まれながら迎えに来た馬車に乗り帰路に就き、はたと気づいた。

 今回はたまたまそこに自分がいたから誘ってもらえたけれど、その次は?

 ヘイローがいくら俺の素の姿を知って少し気に掛けてくれるようになったとはいっても、自分と彼女の距離感は今までとさほど変わっていない。

 学園内で話す頻度だってこれまでと同じ。


(俺はまた今のように偶然の幸運が舞い込むのを待つだけでいいのか?)


 せっかくヘイローが自分のことを嫌っているわけではないと知ることができたのに?

 自分の素を見せても大丈夫だとわかったのに?

 彼女と自分の共通の好みを知ることができたのに?

 自分に笑顔を向けてくれる喜びを知ったのに?

 それなのに今までと同じような学園で必要最低限の会話をするだけの関係で満足できるのか?


(……それだけじゃ嫌だ)


 また笑いかけてもらいたい。

 彼女の笑顔をもっと近くで見ていたい。

 欲深いことを言うなら、俺のことを嫌いじゃないよりも好きになってもらいたい。


 そのためには今のままではいけない。

 きっとヘイローの中の今の俺の位置は、ただの好敵手で負けたくない相手というだけだ。

 ローリンガムさんのような友人ですらない。

 しばらく時間が空けば、「昔シシリとスイーツ店に行ったこともあった気がする」くらいに忘れられてしまう遠い存在だ。

 どうにかしてヘイローとの繋がりをもっと強固なものにしなくてはと焦った俺が考えたのがこの共鳴石だった。

 いつでもどこでも自由に連絡を取り合える便利な道具。

 共鳴石があれば他人の目を気にせずヘイローと連絡を取ることができる。きっと学園の外でなら彼女ももっと気安く接してくれるはずだ。

 連絡を取り合うだけならただの武骨な石の共鳴石でも良かった。けれど俺が渡したのはブレスレットになった美しい宝石の共鳴石だった。

 無骨な石の共鳴石ではなく、宝石の共鳴石はそれこそヘイローが言ったように本来婚約者や好意を持った者への贈り物とされるべきものだ。

 俺は彼女に好意があるのだから渡しても何の不思議もないが、ヘイローからすればなぜこんなものを自分にと思うに違いなかった。

 しかもただでさえ受け取ってもらえるかわからないのに、わざわざ宝石の共鳴石を用意するなんて自分でもどうかしていると思う。

 けれど、初めて彼女に贈る物を適当なものにしたくなかった。

 自分が自由に扱えるものの中で一番彼女に似合う素敵なものを渡したい、そう思ったのだ。

 そんな俺の気持ちが裏目に出て受け取りを拒否されるなんて思ってもいなかったのだけれど。

 俺は何となく、ヘイロー家のあの家訓があるならブレスレットも簡単に受け取ってもらえると思っていたのだ。

 けれどそうはいかなかった。

 ヘイロー家の家訓、『いただけるものは遠慮なく受け取るべし。ただし、不審なものは除く』のまさか不審なものに当てはめられるだなんて思ってもみなかったのだ。

 ひどくないか? 『不審なもの』だなんて。

 ……まあ確かに、あわよくば自分の贈ったものを身に付けてもらいたいという下心がなかったといえば嘘になるけれど。


(なんとか渡すことができて本当に良かった)


 きっとただのブレスレットだったら受け取ってもらえなかっただろう。


(……ふっ、ヘイローの食い意地が張っていて助かったな)


 ヘイローの言葉を思い出して思わず口元が緩む。

 同性の友人と一緒に店に行っても遠慮して思い切り食べられないという言葉があったから、俺は自分が一緒に行くと言うことができた。

 それによって連絡手段として共鳴石を渡すという建前ができた。

 きちんとした理由があれば『不審なもの』にはならないだろう。そう思ったけれど、もっと普通の共鳴石のほうが良いと言われるのを防ぐために、ヘイローの好奇心を煽って騙し討ちのような形で共鳴石に彼女の魔力を登録させた。


(さすがにあれは怒っていたなぁ。可愛いだけでまったく怖くはなかったけど)


 上目遣いで睨んできた可愛いヘイローを思い出して笑っていると、向かいの席に座った男が呆れたように呟いた。


「さっきから気持ち悪いですよ、アル坊っちゃん」


 ロビンは口調こそ丁寧ではあるが意外と意地が悪い。

 彼は我が家の執事と侍女頭を祖父母に持ち、両親もそれぞれその後を継ぐ者として我が家に使えてくれている。

 ロビンたち兄弟はそれこそ生まれたときからの付き合いで、彼らもまた兄と俺の従者として仕えてくれている。


「……うるさいな」

「まだ共鳴石をお渡しできただけなのでしょう? もっと頑張られないと」

「うるさい。今までの関係からしたら大きな一歩だろうが」

「大きな一歩だとしても、あまりゆっくり歩かれていると誰かに抜かされてしまいますよ」

「わかっている」


 この国の貴族の多くは20歳前後で結婚する者が多い。

 俺たちは今17歳。恋人がいたり、そろそろ婚約者を決めたりする者も少なくない。

 家同士の繋がりで婚姻を結ぶ場合もあるが、昔に比べるとかなり減ってきているらしい。

 今では学園内で相手を探したり、好ましく思う相手と見合いをしたり、パーティーなどで気になる相手に声をかけたりと恋愛を経て婚姻を結ぶ場合が多い。

 ただ、魔力の維持の関係で、基本的に貴族は貴族としか婚姻を認められない。貴族同士でも子供が連れてきた相手を親が許さず破談になるということもあるようだが。


「幸いヘイロー伯爵令嬢はまだ決まったお相手はいないようですけどねぇ」

「そのようだな――って、おい。なんでお前がそんなこと知っているんだ」

「旦那様に奥様、さらにはイグ坊っちゃんもいろいろとお調べになったようですよ? アル坊っちゃんにやっと春が来たって、それはもうお喜びでしたから」

「……何をしているんだ、あの人たちは」


 たしかに、今までも「好きな人はいないのか」「気になる人くらいはいるだろう」「どんな子が好みなんだ」とうるさく聞かれたこともあるが、まさかそこまでするとは。

 息子や弟の恋路に興味津々すぎではなかろうか。

 呆れて溜息を吐きかけてハッと気づいた。


「……もしかしてこの対の共鳴石を俺に渡したのって」


 今回ヘイローに渡した共鳴石のブレスレットは1年ほど前に両親からもらったものだった。

 当時は俺だけではなく、兄のイグニーシュも同じように装飾品となった対の共鳴石をもらっていたから何も不思議に思わなかった。

 ずいぶんと気前が良いなと思ったくらいだ。

 1年前はちょうど俺がヘイローへの気持ちを自覚して少したった頃だ。まさかその時から俺がこれを彼女に渡すと見越していたのか。


「あ、やっとお気づきになられました? アル坊っちゃんに想い人ができたらしいと知った奥様が、ご令嬢を直接確認に行って品を選ばれたそうですよ」

「……は? なんだって? 直接確認しただと?」

「ええ、そう仰っておられましたよ」

「いつだ!?」

「さあ? 奥様に直接確認なさってみては? ちょうど着いたことですし」


 ロビンがそう告げたのとほぼ同時に馬車は屋敷へと到着したのだった。


もらいものを人にあげるとは何事かー(ノ`Д)ノ

というご意見もあると思います。

しかしシシリは侯爵家の次男ではありますが、自由に使えるお金はあまりありません。

もしもルルーシアが婚約者であったなら必要経費とできたでしょうが……違うので!

だから大目に見てやってください。


次もシシリ視点になる予定です。

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