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12.ルルーシア・ヘイローは渋々受け取った

遅くなってすみません(>_<)

いいねや感想&誤字報告に評価などありがとうございます。


一迅社様より『私の名はマルカ』

アリアンローズ様より『王立騎士団の花形職』

アマゾナイトノベルズ様より『恋愛結婚いたしましょう』が発売中です。

よろしくお願いいたします。


 リッシェルダを出て歩きながら、今後の連絡もシシリ家に手紙を出せば良いかと聞いた私に、シシリは「まだ時間ある?」と言って、昼間待ち合わせた公園まで私を連れてきた。

 以前と同じようにシシリと並んでベンチに座る。


「あの、さ」

「なあに?」

「嫌だったら断ってくれて構わないんだけど」

「な、なに? 私今から何言われるの?」


 妙にかしこまったシシリに思わず姿勢を正す。

 隣りで身を固くした私の前に、シシリが正方形のケースのようなものを差し出した。

 それは手のひらくらいの大きさで平べったく、光沢のある生地でできていた。


「……?」

「……これ、なんだけど」

「なに、これ?」

「開けてみて」


 そう言ったシシリにケースを握らされた。

 薄々感じてはいたけれど、このケース、きっとものすごくお高いに違いない。

 だって手触りがすごく良い。なに、この滑らかな生地。


(こんなケースに入っているものって一体なんなの? こういうのに入っているのって大体はジュエリーだったりするけど……それはないでしょ? じゃあ何? 怖いんですけど!?)


「ヘイロー?」


 ケースを手にしたまま固まった私にシシリが不思議そうな顔をする。

 私がなぜ今この状態なのか、シシリにはこれっぽっちもわからないのだろう。


「……危険なものとか入っていたりしないわよね?」


 思わずそう聞いてしまった。


「しないよ。そんなもの君に渡すわけがないだろ」

「そう、そうよね」


 とりあえず危険なものではないらしい。

 けれど私にとっての危険なものと、シシリにとっての危険なものは指しているものが全然違うと思うのだ。

 今私が思う危険なものとは、落としたり壊したり失くしたりしてはいけない高価なものを指している。


(開けないわけにはいかないわよね……)


 落ち着くためにこのすばらしく手触りの良い生地をもう少し撫でていたいような気もしたが、私は大人しくケースを開けることにした。

 中に入っていたのは――。


「……ブレスレット?」


 華奢な作りのきらきらと輝くブレスレットがケースの中には入っていた。


「どう?」

「どう、って……」


 細い金色のチェーンに付けられているのはいくつかの小さな美しい石。これもきっとガラス玉ではなく宝石なのだろう。

 そしてその中で他の石より少しだけ大きめの石は淡い青色で、中に数か所うっすらと黄色の班が入っていた。

 角度を変えてみると光が反射して青い石が黄緑にも見えるような不思議な色合いだ。


「とっても綺麗……」

「っそうか! 良かった!」


 不安そうな顔からぱあっと笑顔になったシシリはそのまま「じゃあ――」と言葉を続けた。


「これ、受け取ってくれないか?」

「……嫌よ」

「……え?」


 なぜ驚く。

 シシリは断っても構わないと言っておきながら断られるとは思っていなかったという顔だ。


「……なぜ?」

「いや、無理でしょう。こんな高価そうなもの」

「おい、ヘイロー家の家訓はどうした」

「……よく覚えていたわね」

「貴族としてはなかなか衝撃的な家訓だったからな」


 たしかに我が家の家訓は『いただけるものは遠慮なく受け取るべし』だ。

 人からの厚意は遠慮なく頂戴する。


「じゃあもっとちゃんと思い出してよ。『受け取るべし』の後に続く言葉があったでしょう?」

「……『ただし、不審なものは除く』」

「そう、それ」


 不審なものといったら失礼だけれど、いくら遠慮せずと言っても限度があるし、もらう理由もわからない高価すぎるものをおいそれと受け取るわけにはいかない。

 大体こういった高価なアクセサリーは婚約者や好意のある者へのプレゼントとして贈る物だろう。

 厚意ではなく好意だ。

 私がそう言えば、シシリは私の顔をじっと見て「なら問題ないな」と言った。


「……」


 そういうところだぞ、シシリ。

 私は勘違いしたりしないから大丈夫だけれど、他の子だったら「それって私に好意があるってことよね!?」と思ってしまうんじゃなかろうか。

 特にあの人とか、あの人とか。

 思わず半目でシシリを睨んでしまった。


「……シシリ、変なのに好かれるのはあなたにも原因があると思うの」

「いきなりなんだよ」

「今みたいな言い方したら勘違いする子がわんさか出るわよ? シシリが自分に気があるんじゃないかって」

「……ヘイローは?」

「なあに?」

「ヘイローもそう思った?」


 シシリにしては行儀悪く、片手で頬杖をついて首を傾げながら聞いてきた。

 これを無意識でやっているなら本当に罪づくりな男だ。

 勘違いする女性ばかりを責められるはずもない。


「大丈夫よ。私はそんな勘違いしないから安心してちょうだい」


 だからこそこのブレスレットをもらうわけにはいかないのだけれど。


「……君にだったら……」

「何? なんて言ったの?」


 シシリが言った言葉が小さすぎて聞き取れず聞き返す。


「……理由ならちゃんとあるって言った」

「うそ、あるの?」


 理由があるならこのブレスレットをいただくことも吝かではない。

 シシリはブレスレットを指差して言った。


「ヘイロー。それにちょっと魔力流してみて」

「なんで?」

「いいから、いいから。面白いことが起きるよ。あ、危険はないから安心して」


 危険はないからと言われても……。

 シシリの笑顔がどこか怪しい。あの笑顔こそ危険な気がする。

 ブレスレットとシシリの顔を交互に見ながら魔力を流すことを躊躇する。

 けれどシシリの言う面白いことというのも気になる。

 しばらくブレスレットを前に悩んだが、結局私は好奇心に負けてそれに魔力を流すことにした。

 私が魔力を流すと、淡い青色の石が一瞬眩しく輝いた。


「なに? 今のが面白いこと?」


 不思議な現象ではあったけれど、そこまで面白いことでもなかったとシシリを見れば、彼は「これで完全にヘイローのものになったね」と言った。


「え? なに? どういうこと?」

「ヘイロー、それ共鳴石」

「へ?」

「その淡い青い石、共鳴石なんだ」

「え? これ、共鳴石なの!? 嘘でしょう!?」


 説明しよう。

 共鳴石とは、よく通信用に使われる石のことだ。

 よく使われると言っても共鳴石自体が高価なものなので、使っているのはほとんどが貴族や国の機関、裕福な商人などではあるのだけれど。

 それはさて置き、共鳴石はその名の通り共鳴し合う石で、一つの塊の石を割って分けるとそれぞれが共鳴し合う。

 片方の共鳴石に魔力を流すとそれを感知した対の共鳴石が仄かに光り熱を帯び、その対の共鳴石からも魔力を流すと互いの音を届けてくれるのだ。

 貴族が個人的に使う共鳴石には万が一、失くしたり盗まれたりしても悪用されないように多くの場合使用者制限の魔法が掛けられている。

 一番最初に魔力を流した者と、次に魔力を流した者のみがその共鳴石を使用することができるようになる仕掛けがほとんどだ。

 そして使用者制限の魔法が掛けられた共鳴石は、一度登録された魔力を書き変えることはできない。

 いくら後から他の人が魔力を流したところで上書きすることはできないのだ。

 つまり唯一無二の共鳴石。故に高価な共鳴石。

 しかも共鳴石は見た目はただの石のことが多いのだけれど、このブレスレットに付いているのは明らかに宝石だ。

 普通の共鳴石よりも確実に価値は上がる。

 まさかこれが共鳴石だったなんて。

 好奇心に負けて共鳴石であると考えもせずに魔力を流した数分前の自分を叱りたい。知っていたら魔力なんか流さなかった。


「なんで後から言うのよ! そういう大事なことは先に言いなさいよ! 全然面白くないじゃない!」

「っふ……くはっ、ふふ……」


 隣に座るシシリの腕を掴みゆさゆさと揺らし、なんてことをしてくれたのだと文句を言う私とは対照的に、シシリは顔を背けて肩を揺らしている。

 ……はっ! まさかこの慌てふためく私の姿を予想して面白いとか言ったんじゃないでしょうね。


「もしかして、からかっているとか? そうなの!? そうなのね!?」

「残念。それ間違いなく本物の共鳴石だよ」

「これが本当に共鳴石なら対の石はどこにあるのよ。それを見るまで信じないわよ!」

「ヘイロー、これ対の石」


 そう言ってシシリは自分の耳にかかる髪をかき上げた。

 形の良いシシリの耳にはイヤーカフが付けられており、そこには私の手にあるブレスレットと同じ淡い青色の石が輝いていた。


「信じてくれた?」

「……信じたくない!」

「っぶは! いや、信じようよ」


 そう言ってシシリはイヤーカフに魔力を流したのだろう。

 私の手の中にあるブレスレットの共鳴石が仄かに光った。シシリを見ると、「ほら早く」と言わんばかりに目を細める。

 仕方なく私も先ほどと同じようにブレスレットに魔力を流すと、『ほらね、本物だろ?』と隣のシシリの口から聞こえた音と同じ音が共鳴石からも聞こえた。


「いやー! 本当に登録されちゃってるじゃない……」

「いいじゃないか。何も問題ないだろ?」

「あるでしょうが! 共鳴石って見た目がただの石でもそれなりに高価なのよ? それなのにこの共鳴石の美しさ! 値段を聞くのが恐ろしい!」

「聞かなきゃいいんじゃないかな? べつにヘイローが払う必要はないんだし。それにほら、もう登録されちゃったから」

「ほぼ騙し討ちじゃないの! 誰よ、最初に断ってくれても構わないって言ったのは!」

「俺?」

「小首傾げて可愛く言っても駄目なんだから!」

「駄目か。でもほら、さっきも言ったけど、それを君に渡すきちんとした理由もあるからさ。不審なものじゃないからヘイロー家の者としては受け取らないとな?」


 シシリはすごく良い笑顔でヘイロー家の家訓を盾に高価な共鳴石使用のブレスレットを押し付けようとしてくる。


「それよ! まずは理由を教えてちょうだい」


 きちんとした理由を聞くまでは絶対に受け取るものかと、そうシシリに問えば、彼はこともなげに「これで直接連絡が取れるだろ?」と言った。

 手紙でも良いけれど、共鳴石で連絡を取るより時間がかかるしこちらのほうが楽で良いと平然と言い放つ。


「それはそうだけど……」

「だろ?」

「でも――」


 これは共鳴石なのだ。

 一旦登録したら上書きはできない。


「……一応聞くけど、この共鳴石の登録可能人数って」

「二人まで」

「やっぱりそうよね。……はあ、もう私たちしか使えないじゃない」

「いいんだよ、それで。もうヘイローしか使えないんだからもらってくれなかったらただのゴミになってしまうんだけど。受け取ってくれる?」

「~っああ、もう! もらうわよ! 受け取ればいいんでしょ? どうもありがとう!」


 ただ連絡を取り合うためだけにこんな高価なものを寄こすなんてとぶつくさ言う私に、シシリは「うちにはこんなのたくさんあるから気にしなくていいよ」と言ってのけた。

 腹が立ったので思い切り腕を叩いておいた。


シシリは頑張った!



更新遅くなりすみません。

私デスクトップパソコンなんですが、置いてある部屋にエアコンがないんですね。

8月がもう暑すぎて暑すぎて……測ってみたら室温38℃とかだったんですよ(;´Д`)

こりゃ危険、倒れるってなってエアコンある部屋に避難していたので全然書き進められず……。

まだまだ暑そうなので更新かなりのんびりになると思います。

ご理解いただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

皆様もご自愛くださいね。

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