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1.ルルーシア・ヘイローは見た

久しぶりの新作です。

よろしくお願いします。

 

 また負けた。

 掲示板に張り出された試験の成績優秀者の結果を見る目に思わず力が入る。


「見ろよ。今回も1位、2位は変わらずだな」

「この二人より上に行けるやつはもうこの学年にはいないんじゃないか?」


 私と同じように結果を見に来ている生徒たちが話す声が聞こえる。


「見て。ヘイローがまた負けてるわよ」

「また? まあ当然よね。あんな田舎者がトップなんて取れるわけないじゃない……って、あら。ヘイローだわ。聞こえちゃったかしら?」


 中には私をバカにする声もある。まあそんなものは気にしない。


(その田舎者に負けてるあなたはなんなのよ? ってね。名前が張り出されたこともないくせにうるさいったら)


 わざと聞こえるように嘲笑する声を無視し、再び掲示板に目を向ける。


 《2位 ルルーシア・ヘイロー》


 ここ最近の定位置となった場所は、私にとっては不本意な順位だ。


(今回は勝てると思ったのに……また2位)


 私には負けたくない相手がいる。

 私がどんなに努力をしても、いつもその上を行く男。

 今回の試験でまた私より良い成績を残した男。


「アルドラーシュ・シシリ……」


 それが私がいつも負けている男の名だ。

 少し訂正するならいつも(・・・)ではなく、時々勝つこともある。

 でも大体負ける。


「はあ、どこが違っていたのか先生に聞きに行かなきゃ」


 悔しいけれど負けてしまったものは仕方がない。

 シシリが私よりできていた箇所があるということだ。

 ならば何を間違え、劣っていたのかを知る必要がある。

 そう思って溜め息交じりに呟いた私の横に人影が落ちた。

 なんとなくその人物を確認し、見なければ良かったと後悔して思わず顔を顰めた。

 どうしてもっと周りを気にしていなかったのだろう。

 きちんと周りを気にしていればきゃあきゃあという女子生徒の声が聞こえていて、その声によって現れた人物が特定できたのに。


「……ん? ああ、誰かと思ったらヘイローか。なんだ、その顔」

「……なんでもない。1位おめでとう」

「ありがとう。ヘイローもかなり良い点じゃないか。すごいな」


 爽やかな笑顔で褒められた。わかっている、この男に悪気がないのは。

 それでも素直に受け止められないのは私の人としての器の問題だ。


「……1位のシシリに言われてもね。でも次は負けないから。あんたも次も頑張ってよ。全力の敵を叩きのめしてこそ意味があるんだから」

「敵って、ずいぶん物騒だな。私はヘイローのことを敵だなんて思ってないんだけど。まあでも、もちろん次も手を抜くつもりはないよ。それじゃあね」


 そう言ってシシリは去って行った。


「……敵じゃない? は? 私なんかライバルにもならないってこと? は、腹立つ~!」


 悔しさで手を握りしめていると、後ろからくすくすと笑い声が聞こえてきた。


「いい加減身の程を弁えなさいよ。シシリ様と張り合おうなんておこがましいったら」

「それに何よ、シシリって。シシリ様でしょう? 本来はあなたなんかが気軽に話しかけて良い相手ではないのよ?」


 先ほど私をバカにしていた女子生徒たちだ。正直またか、という感じである。

 この人たちはいつも私に厭味を言ってくるのだ。その原因がシシリであることは間違いない。


 アルドラーシュ・シシリは非常にモテる。

 いや、違う。正確に言うと非常に人気が高い。

 女子生徒だけに人気があるのならいけ好かない男だが、男友達も多く、彼の悪口を言う者はほとんどいない。

 容姿端麗、成績優秀。これだけあればもう十分じゃないかと思うけれど、彼はそこに加えて武にも秀でている。さらに家は侯爵家という素晴らしさ。

 いや、もう神様いろいろ与えすぎでは? と思わずにはいられない。

 ひとつくらい欠点があってもいいではないかと思うのだが、シシリは性格まで良いときた。

 これに関してはもう神様も何も関係ないから何も言えない。

 つまり、非の打ち所がない人間。

 それがアルドラーシュ・シシリという男なのだ。


 そしてなぜシシリのせいで私が一部の女子生徒から煙たがられているのかというと、私のシシリに対する態度が気に食わない、これに尽きる。

 私はこの学園のある王都から、少なくとも馬車で8日はかかるド田舎出身だ。

 一応家格は伯爵家だけれど、お金はそんなにない。

 ヘイロー伯爵家はものすごく貧乏ということでもないけれど、田舎だから緑豊かな無駄に広い領地があるくらいで目立った物は特にない、そんな領地を持っている。

 力のある貴族は領地の屋敷以外にも王都に屋敷を持ち、そこから学園に通っている子たちが多い。

 当然だがヘイロー伯爵家はそんなもの持っていない。

 だから私は学園の寮に入り、毎日そこから通ってきている。

 何も恥じることはないのだが、王都に屋敷を持つような家の一部のお嬢様方は私のような存在を下に見ている。

 とーっても下に見ているのだ。

 そんな私がシシリの近くにいるのが気に食わない。

 近くにいるといっても、私たちは特別仲が良いというわけでもないのだが。

 私がアルドラーシュ・シシリをシシリと呼び捨てにしているのだって、彼にそう呼んでくれと言われたから。

 私以外の女子生徒は「さん」付けで呼んでいるシシリが私をヘイローと呼び捨てにするのも、自分だけが呼び捨てなんて対等じゃない気がした私がそうしてほしいと言ったから。

 ほら、べつに特別じゃない。

 それなのにこの人たちには私がシシリに付きまとっているように見えるらしい。

 きっと目がおかしいのだ。医者に行ったらいいのに。


「あなたなんか相手にされていないのよ」

「田舎者は田舎者らしく隅で目立たないようにしていなさいな。シシリ様には私たちのような都会の洗練された女性が似合うのよ」

「都会の……洗練された女性」


 あなたたちが? と内心思ったためか、思わず小首をかしげてしまった。


「そうよ! あなたみたいな野暮ったい田舎者とは違うでしょう?」

「この髪留めだって最新のデザインなんだから。まああなたみたいな田舎者にはわからないでしょうけれどね」

「はあ、そうですね」


 たしかにわからない。そんなにギラギラゴテゴテしたのが流行っているのか。

 いくら最新のデザインだとしても私の趣味じゃない。

 そもそも洗練された女性はこんな下らないことしないだろう。


 相手にするのも面倒なので適当に頷いてその場を去った。後ろのほうでなんだかぎゃあぎゃあ言っていたけれど気にしなくても良いだろう。

 さあ、早く先生に間違いを確認しに行かないと。




 ◇◆◇◆



「シシリのやつ、こんな所で何してるのよ」



 先生に確認に行った後、私は寮に戻ろうと学園の裏道を歩いていた。

 本来の道はきちんと表にあるのだが、裏道を行ったほうが早く帰れるのだ。

 それに裏道には魔法の練習場がある。なぜか校舎からひとつだけ離れた場所にある小さな練習場にはほぼ人が来ない。

 もしかしたらここに練習場があることすら知られていないのではないだろうか。

 学園では魔法を使用して良い場所が明確に決められている。それがこの練習場だ。

 練習場は高い塀で囲われており、外へは魔法の効果が届かないような魔法が施されている。

 つまり、もし魔法が暴発しても被害を受けるのは自分だけというわけだ。

 普通は暴発することなんてないから心配する必要もないのだが。

 ちなみに練習場以外のところで魔法を使用すれば、すぐさま先生にバレて罰を食らう。

 とにかくその練習場で、学園からの帰り道に寄って魔法の練習をするのが私の日課でもあった。

 今日もいつも通り立ち寄ろうと入口に辿り着いた時、練習場の中に見知った人物を見かけ思わず隠れた。

 それが、少し前に掲示板の前で別れたシシリだったのだ。



「何してるのかしら。あいつも私も」


 なぜ私は隠れてしまったのか。そしてなぜシシリはこんな所にいるのか。

 そっと顔を覗かせ中を確認すると、何やらシシリの頭の辺りが光っていた。

 そして彼の髪は、その色を亜麻色から黒に変えた。


(えええ! すごいっ! あんな狭い範囲を的確に変えるなんて!)


 魔法だけなら私が勝っていると思っていたのに、そんなことまでできるのかと驚いていると、シシリがこちらのほうに歩いてくるではないか。

 慌てて物陰に身を潜めるとシシリは辺りをキョロキョロと確認して入り口横の更衣室へと入っていった。


(あ、怪しい……怪しすぎる!)


 学園の人気者のシシリがこんな所でこそこそと髪色を変えて、いったい何をしているのか。

 気になる。これは最後まで見届けなければ私の気が済まない。


(何か悪いことでもする気じゃないでしょうね? いえ、でもあのシシリよ? そんなわけないわ)


 悪いこととシシリが全く結びつかない。私の知っているシシリなんて彼のほんの一部かもしれないが。

 そんなことを考えているとシシリが更衣室から出てきた。


(出てきたわ……って、何よあの格好)


 シシリは制服を着替えていた。普段の私が着るような簡素な格好に。とてもじゃないが、侯爵家の人間が着るような服装ではない。

 さらにはせっかく整えられている髪をぐしゃぐしゃと乱し、眼鏡までかけた。


(いや、本当に何してるのよ。いつものシシリと全然違うじゃない)


 私が驚いている間にシシリは走り出し、あっと言う間に裏の塀を軽やかに越えていってしまった。


「あー!」


 慌てて追うも、私が塀をよじ登った時にはすでにシシリの姿は見えなくなっていた。


「なんなのよ、もう」


 結局シシリの謎の行動がなんなのかわからないまま、私は仕方なく寮へと帰ったのだった。


初めましての方も、そうでない方もこんにちは。

眼鏡ぐまです。

読み終えた後に幸せにな気分になれる話を目指します(・∀・)

感想や評価などいただけますと小躍りして喜びます。

よろしくお願いします!



【お知らせ】

別作品にはなりますが、『王立騎士団の花形職』の2巻が6/12に発売予定です。

もしよければお手に取っていただければと思います。

さらに詳しい情報は活動報告に載せておりますので、興味のある方はご覧ください。

よろしくお願いします!

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