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イツミ   作者: Aju
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最高機密 1

 私はもう一度、違和感のある記録を調べてみることにした。まだ、何か見落としているかもしれない。

 私もタカと同じ意見で、この『伝説のエスパー』には必ず、軍が何らかの形で絡んでいるだろうと考えている。


 だからこそ、副長官という地位を手にすれば、全ての謎が明らかになる——と考えていた。

 ところが、長官と同じ機密へのアクセス権があるにもかかわらず、私の前に現れる『イツミ』関連の情報は、それ以前と何も変わらないのだ。

 私のIDで検索をかけても、出てくるのは『MAYUTUVA』の記事がほとんどで、「アクセス拒否」すら出てこないのだ。

 まるで、「そんなものは存在しない」とでも言うように・・・。


 これが意味するところは何か?


 たしかに、軍の公式報告書には何の矛盾もない。私が(おそらく私だけが)感じ取っている「奇妙な杜撰さ」を除けば——。

 それは、百年ほど前から始まる都市伝説の「事件」全てに、共通して感じられる違和感だった。


 私は、ふと(これより前には、同じような違和感のある記録はないのだろうか)と思い立ち、調べてみることにした。



 あった!


 いや、「ない」と言うべきか。


 120年ほど前の記録が、ごっそりと抜け落ちているのだ。

 一見すると、目立たないようにつなげてあるが、どう見ても明らかに「意図的」に抜いてある。

 これは、いったい・・・・。


 この問題を、私はどうすべきだろう?


 このことを、長官は知っているのか?

 それとも・・・・


 これが容易ならぬ話である——ということは、さすがに分かる。

 軍の記録が組織的に「オモテ側」から隠蔽されているのなら、そのことを歴代長官が問題にしなかったはずはない。


 ならば・・・、

 それは長官にしかアクセス権のない「裏の機密」だ。


 ここで止めるべきだ——。と私は思った。

 これ以上の深入りは危険である。


 それどころか、私は先日シーク長官に迂闊な質問を発してしまっている。長官はおそらく、私がこの「裏の機密」に持ってはいけない興味を持っていることを察していることだろう。


 これ以上は危険だ。

 ここは大人しく「出世」を待つべきだろう・・・。



 私がそんなふうに思い始めた頃、そうしたことに拘っていられないような大事件が勃発した。

 まだ、就任して7ヶ月だというのに、私はシーク長官と共にこの未曾有の事態に対処せざるを得なくなったのである。

 あのテイィ・ゲルが、連邦中の惑星にG弾をばら撒く準備を進めているという情報がもたらされたのだ。

 しかも、準備はほぼ整って、ここ数日中に実行される——という。


 1人の情報局員が生命と引き換えに送ってきたこの情報は、連邦政府内部に蜂の巣をつついたような騒ぎをもたらした。


 ドクター・ザイド・ラパ・テイィ・ゲル。誰もが知る連邦最大の脅威にして、テロリストの物理学者。

 連邦で最も危険なテロ集団「新銀河救済教団」を実質的に率いるマッドサイエンティストだ。


 知っての通り、G弾は惑星の重力バランスを崩して内部から崩壊させる、という最終兵器だ。

 150年前の星間戦争の最終局面で、無人惑星で行われた「実験」のあまりの凄まじさに、銀河条約でその使用と保有が禁止され、その技術は、星間戦争後に成立した銀河連邦政府の奥深くに厳重に封印された。


 それが盗み出されたという形跡はなく、テイィ・ゲルはどうやら民間にある断片的な情報から、その技術を復元させたらしい。


 攻撃がどこから、いつ始まるのか、の情報が全くない中、連邦安全保障委員会は右往左往するばかりだった。


 シーク長官は大統領に呼ばれて執務室に行き、帰ってくるなり厳しい表情で、私に長官室に入って内側からドアをロックするように命じた。

 長官の表情には、何か、惑星オーバルの嵐を思わせるような厳しい覚悟が浮かんでいる。大統領の指令は何だったのか?

 私も緊張して次の言葉を待った。



「あなたは『イツミ』を探していたわね。実は、あなたを副長官に指名した理由の一つにそれが入っていたのよ。」

 長官のいきなりの切り出しに、私は内心狼狽えると同時に、景色が回り出すほどの困惑を覚えた。


 なんの話だ?

 この危機的状況において、都市伝説の話? 


「本来なら、この機密は副長官と共有すべきものなんだけど——。

この半年、あなたに伝えるべきかどうか、迷っていた。あなたは『MAYUTUVA』ともつながりがあるしね。」

 全て把握されていたのか——、と私は心臓から青ざめた。

「誤解しないで。責めてるわけじゃない。あなたが『MAYUTUVA』には何一つ軍機を漏らしていないことも把握済みだし、私はあなたの軍人としての忠誠心も疑っていない。」


 ここで、長官は少しだけ表情を緩めて、その口元に微笑を浮かべた。

「これは、どちらかといえば私の内心の問題なのよ。 でも、もう、そんなことを言っている場合ではなくなった。」

 長官は首を少しだけ振って、呆然としている私を奥へと促した。


「ついてきて——。『イツミ』に会わせてあげる。」



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