諦められねぇよ
ループをしていて、何個か気付いたことがある。
僕以外にループを自覚している奴はいない。
誰も今日が九月八日なことに疑問を抱いていない
つまり頼れるのは僕自身というわけだ
次に、ループには規則性があり、毎日日付が変わる瞬間に、九月八日の0時00分に戻る。
そして、【必ずしも同じ現象が起きるとは限らない】ということだ。
どういうことかというと、ループをしていてるけど、毎日少しだけ違う点が出てくるということだ
この前は電車の遅延がなかった。
だからといって手掛かりがあるわけじゃないけどな
僕は、なんとしてもこのループから抜け出さなきゃならない。
こんなところじゃ諦められねぇよ。
何回も何回も続く九月八日。
記憶を引き継ぐ方法は一つ。
僕が覚えていること
わかっていたが、メモも、日記も何もかもが白紙に戻る
何日も前の出来事を覚えているのは、難易度の高い伝言ゲームをしているようだった
そして今日も変わらない日々が続いて行く。
この日も変わらない九月八日だった。
今日、日付が変わるまでは、
目を覚ますと、僕は海の上にいた。
澄み渡る空と日差し。
普段なら嫌なセットだが、なぜか嫌だという感情が湧いてこない。
なぜか沈むことはなく、周期がない波の音が心地よかった。
周りを見渡すと、見慣れたものが多かった。
僕のカバンから、家の家具、光流の家の大きなテレビまで、僕の見慣れたようなものばかりだ。
そして、僕の前にあるのは、あの神社だ。
大きな時計があり、やはりこの空間でも異様な雰囲気が漂っている。
そして僕は、いつの間にか歩を進めていた。
神社に引っ張られるような、そんな感覚で進んで行く
一歩、また一歩と確かに進んで行く
・・そして急に僕の意識が途絶えた。
目を覚ますと見慣れた寝室だった。
ここ最近は寝付きも悪く、寝起きの気分は最悪だった。
でも今日は違った。
謎の幸福感が胸を満たしていた。
今日も変わらない日だった。
誰も変わったような事はなく、ただ時間だけが過ぎて行く
だが、あの夢はループの輪から脱出する手掛かりになるんじゃないかと、思っている。
きっと真実へと進んでいける。
と、謎の自信が湧いてきた
一日、また一日と時間だけが過ぎていった。
これと言った手掛かりはなく、あの夢の続きも見ることができていない。
全くもって手詰まりだ。
新しい情報もなく、しばらく何の変化のない時間だ
そう思っていた。
ある日、僕はいつも通り、駅のホームにいた。
今日もここで、光流を待つだけ。
そのはずだったんだ
いつもの時間になっても光流が来ない。
今日の変化は光流が来ない事なのだろうか?
なんて、思った瞬間、
「なぁ」
後ろから声がした。
明らかにいつもと違う声色だ。
僕は後ろに振り返り、光流を見る
「なんで・・・なんで今日が九月八日なんだ?」
「は?」
そんな声が漏れた。
とりあえず確認をしなければならない
これが今日の変化の可能性もある
「光流、昨日って何が起きたかわかってるか?」
そう聞くと、光流は
「あぁわかってるぞ。あの神社のことだよな?」
昨日のことも覚えている
次の確認だ
「昨日、何か起きなかったか?例えば日付が変わる時に、時計の秒針の音がした・・・とか」
そう聞くと
「ん?なんでその事お前が知ってるんだ?」
今ので確信に変わった。
こいつはループの輪の中にいる。
僕と同じように
何故なのかはわからない、だが、これで一つ進んだ気がする
僕はこれまでの経緯を全て光流に話した。
「んなことがありえていいのかよ・・・」
そう言って頭を抱える光流
「だけど、それが事実だ。お前も明日になればわかる」
そう言葉を吐いて、ジュースを流し込む
一つ安心したことがある。
それは一人じゃないことだ。
こいつは性格は良くないが、それこそ、頭がキレるやつだ。
一人でいるより、何か発見があるのかもしれない。
そして、その日の昼休み、僕たち二人は二号館の屋上に来ていた。
僕はいつも通りサンドイッチを食べていた
すると光流が
「なぁ、今日俺たち二人であの神社に行ってみないか?」
そういう提案があった
「その発想はなかったな」
まずまず一人であの場所に行けるかどうかも怪しかったが、こいつがいるならとりあえずは大丈夫だろう
「少しでも手掛かりになるのなら、僕は行ってみたい」
「ん、それじゃ決定だな」
そういうと、光流は立ち上がり屋上から出て行こうとする
「どこに行くんだ?」
単純な疑問を口にする
そういうと
「決まってんだろ?」
光流がニカッと笑い
「今から行くんだよ」
と、言った
僕は自然に笑みが溢れ出て
「全く、お前はそういうやつだったな」
と、笑った
そこからの行動は早かった
教師の静止も聞かず、僕たちは山の方へと走った。
一人だと何も感じなかったはずの景色が、二人だと何故か違って見えた。
山の麓で少しだけ駄弁っていた。
「ったく、お前は体力ねぇんだから少しは鍛えろよー」
「仕方ないだろ、僕は運動が嫌いなんだ」
しかし、何度見ても東雲山は大きい。
何個も都市伝説があるのも頷ける
またしばらくして、山の中へと入っていった
前と同じ道を進み、神社へと進んで行く。
そして、神社への階段を登り、そこにあったのは・・・。
「は?」
光流の声が聞こえる
「なんで、なんであの神社がねぇんだよ!?」
そう、階段の先にあるはずの神社が跡形もなく無くなっていた。
神社の跡地にあったのは、あの大きな時計だけだった。
「どうなってるんだ・・・」
唖然としている僕を横目に、光流は奥へと進んでいった
そして
「なぁ詩乃」
奥の方で声がした
「この道、進んでいけそうじゃないか?」
光流が指差す方向には、木々がまるで道を開けているような、そんな道が続いていた
みんなで行った時は鳥居の先までしか行っていなかったから、神社の裏に何があるかまでは知らなかった。
「・・・行こうか」
僕は声を発した
すると光流が
「おっ、珍しいな詩乃がやる気なんて」
と、ニコニコしていた
お前は父親か?
僕たち二人は道を進んでいた。
長い、長い一本道。
光が届くこともなく、ただ、ただ暗い道だった
やっぱり不気味な雰囲気は変わらない。
どこに行っても薄暗く、まるで森自体が光を嫌がっているようだ。
進んで行くたび、暗くなる。
山の上に登っているはずなのに光の一筋も見えない。
鬱蒼とした森が僕らを虐げているような、そんな気がする
そんな中、
「おい!!あれ!!」
光流が声を上げた。
指差すその先には光が差し込んでいた。
一本道の出口だ。
その光に向かって僕たちは走った。
そして光の中へと進んだ瞬間
ビュンッ!!
と、大きく風が吹き荒れた。
次に目を開けるとそこには・・・
海だった。澄み渡る空と、日差し
みたことのある景色だ
そう、夢で見たあの景色
正夢にしてはタチが悪い
そして、あの夢と同じなのだとしたら
僕は振り返る。
そして目を向けた先には
神社があった。
夢で見た光景と同じ
全てが同じだった。
あれは夢なんかじゃな「なんなんだよここ・・・」
僕の思考を止めるように光流が困惑の声を漏らす
ザァーと、波の音共に聞こえる時計の音
「俺たちは山に登ったはずだよな?」
確認が飛んでくる
「あぁそのはずだ・・」
僕も答える
「じゃあ・・・」
二人の思考がシンクロした
一体ここはどこなのか・・・
その疑問もそのはずだ。
僕たちは山の上へと進んだ
一回も下の道はなく、上へと進んでいた
なのにどうして海があるのか
そう言う疑問だった
ただ僕の頭の中にはもう答えがあった
「ここは、僕たちのいた世界なんかじゃない」
それもそのはずだった。
僕たちは海の上にいるんだ。
歩くたびにチャプチャプと水の音が聞こえる
だが一向に沈むことはなく、地面に立っている感覚だ
そんなことはあり得ない
だからこそ、僕たちのいた世界じゃない。
ここは【異空間】だ。
何故こんなところにいるかなんて僕も知らない。
でもこれは現実なんだ。夢でもなければ幻覚でもない
僕たちは自分の足でこの場所にいる。
僕は歩き出した。あの夢と同じことが起きるなら、ここで意識が途絶えるはずだ。
チャプ
チャプ
チャプと、僕が歩を進める音がする。
そして僕は立ち止まった。
僕は神社の目の前にいた。
意識が途絶えることはなく、僕は神社を見上げていた
そして木の柱に、彫られた字を見る
そこには
夏祭神社と書かれていた
自然と手が伸びる。
衝動に駆られる。
この神社に触れたい
僕の心の中は好奇心でいっぱいだった
その瞬間・・・
意識が途絶えた。
まるでシャットダウンしたかのように僕の思考も止まった。
そして全てが暗闇に飲まれていった。
目を覚ますと、そこは神社の前だった
後ろを見ると階段があり、最初の場所に、僕たちも神社も帰ってきていた。
横には光流も倒れており、ことの重大さに今気がついた
「おい!?大丈夫か!?」
光流の体を揺らしながら僕は叫ぶ
「んだよ・・・うるせぇなぁ・・・」
生きてはいるようだ。
それより寝起きのような感覚なのだろう
光流が大きく伸びをして、僕の方を見る
「ったく、何があったんだよ」
「僕にもわからない。とりあえずあの場所は僕たちのいた世界じゃない。」
「まぁ、確かにそうだな。あの異様な感じ、この世界のものじゃねぇ」
「そう考えると・・・」
そういい僕は神社を見る
「この神社も、この世のものではないかもしれないな」
と、呟いた
「とりあえず、帰るか」
光流が声を発した
その声には疲労が感じられ、僕自身も疲れていた
「そうだな。」
僕はそういい、神社を後にした
夏祭神社。この神社にはどんな謎が詰まっているんだ?
そしてこのループは一体何なのか?
まだまだ解明できないことが多い。
それでも
「一歩前進かな」
そう呟き、僕の前を歩く光流の後を追いかけた