時刻む境内
僕たちは静かに、ただ空き教室にいた。
何も喋らずただ、スマホを眺めている。
そんな沈黙を破る一声が聞こえた
「変な体験したな」
光流だ。
嫌な雰囲気に耐えられなくなり、声を上げたのだろうか
「確かに不思議な体験だったな」
僕も同意して、いつも通りの空気に包まれる
そんな中、彼方だけが俯いたまま何も喋らない
「彼方ちゃん?どうしたの?」
そんな様子を見た未愛が彼方に声をかける
「いや、別に・・」
こいつにしては珍しい反応だった
なんというか、しおらしくなっている
「何か悩みでもあるの?」
翔も続けて彼方に声をかける
「・・・ッ!!」
ダッ!と立ち上がった彼方が走り去る
「彼方っ!?」「彼方ちゃん!!」
などと声が上がる
「みんな先に帰ってて、僕が追いかけてくる」
と言い、僕は彼方を追った
彼方が向かったのは第二校舎の体育倉庫だった
「どうしたんだよ彼方」
僕は声をかける
振り返る彼方の顔は涙でいっぱいだった
「だって・・!!私の好奇心で、変なことが起きたんだよ!!みんなを危険に晒したんだよ!!」
悲痛な叫びだった。こいつは責任感がとにかく強い。
何かを任せたら、最後まで完遂するのが彼方だ
そんな彼方だからこそこんなに悩んでいるのだろう
「確かに不思議なことは起きた。」
僕は静かな声を発した
「でも、その程度のことだ。確かに彼方からすれば大きな問題かもしれない。けど少なくとも僕は気にしていない。しかも、また不思議な現象が起こっても、行き当たりばったりでやって行くのが僕たちだろ?だから・・」
彼方の方へ近づき頭に手をやる
「彼方だけが責任を負うことはないよ。彼方にはあの協調性の欠片もない集団を引っ張ってもらわないと困るからな、だからそんなことで悩むな、僕を、僕たちを頼れ」
また、彼方の目から涙が溢れた
こいつはリーダー気質がある。だからこそ、誰かを頼ることが苦手なのだろう。
こうやって少しははっきり言ってやらないとな。
涙を拭いながら
「ごめんね・・・ごめんね・・・」
と言い続ける彼方
しばらくはここから動けそうにない
しばらくして、僕たちは帰路を辿っていた
心配だからという理由で僕は電車を使わずに、徒歩で帰っていた。
「今回のことは他言無用だからね!!」
「はいはい、何回も聞いてるよ」
先ほどのことについて、嫌になる程釘を刺された僕。
心身共に疲れていた
「じゃあ、私、こっちだから。」
そう言い、道を曲がる彼方
「あぁ、また明日な」
ハイタッチをかまし、別々の帰路を辿った
彼方と別れて数分、ようやく僕の家が見えてきた。
電車通学をしているので、学校から徒歩で僕の家に帰るのは少し時間がかかる
島の中では大きな和風の家。
昔ながらの雰囲気がある。
横開きの大きな木の扉を開け僕は家へ入る
「ただいま・・・。」
何も返事はない。
僕は荷物を置き、海が見える和室へ向かった
襖を開け、出てきたのは大きな仏壇
大きな仏壇には遺影が三つ
僕の家族たちだ
事は数年前。
僕がまだ小学生の頃の話だ
父さんが珍しく車を出し、島を巡っていた。
その時に事故が起きた。
反対車線を走るトラックに僕たちの車はぶつかった。
父も母も姉も、みんな即死した
僕を残して
僕に残されたのは資産家だった父の莫大な量の金。
金はあっても僕の心は満たされない
線香を焚き、仏壇の前で手を合わせる
少し長い沈黙。
この時間が何故か心地がいい
家族の近くにいるからだろうか
一通りの家事を終え、僕は一息ついていた
時間を見ると、20時を過ぎていた
「疲れたな」
一人の家でそう呟く
今日は色々と起こり過ぎた
まだ、あの音が耳から離れない
カチ、カチ
意識するともっと明確に聞こえる
あの神社は一体どういう物だったのか、何のために作られたのか、あの異様な雰囲気は何なのか。
そして、あの時計は何だったのか。
考察する脳が止まらない。
僕はご飯を頬張り、水で流し込む。
「ごちそうさま」
そう呟き、僕はリビングを後にした
この家は僕一人じゃ広すぎる。
一人だと、少し悲しくなってくる
寝室に布団をひいて、その上に寝転がる
寝る前だと言うのに、僕の頭は止まらない
先人達が祈ったと言われる神社。
僕たちが見た異様な光景と音。
何かしらの関連があるのだろうか?
そして一番気になるのが、時計だ
僕たちが見た壁にびっしりと貼られていた、時計達
全てが違う時刻を指しており、右回転、左回転、動く速度などが全てバラバラだった。
そして動いていない神社の外に貼られていた大きな時計。
みんなが冷静じゃなかったから、確かじゃないが、時計が落ちて、針の音が鳴っていた時、あの時計は動いていた
そして滞在時間は短かったのに、一時間も時間が進んでいた事。
全てが不可思議で、説明がつかない
今も冷静じゃないのかもしれない。
疲れているのだろう
「寝るか・・・」
そう呟き、僕は掛け布団を頭まで掛ける。
僕は眠りについた。
・・・はずだった
カチ、カチ、カチ
時計の音で目を覚ました
「この部屋に時計なんてあったか?」
疑問に思い掛け布団を捲る
ない、時計なんてない
基本僕はスマホで時間を確認するから、時計なんて付けていなかった。
じゃあ何故?
カチカチ
聞こえる。秒針を刻む音が
カチカチ
少しずつ僕の周りからも聞こえ始める
カチカチ
スマホの時間を確認すると、午後23時59分
そして、0時00分。
その瞬間。頭に大きな衝撃が走る。
僕は気絶するように眠りについてしまった
目を覚ます。
そこはいつもと変わりない僕の寝室
昨日のは何だったのだろうか
時間を見ると、遅刻寸前だった
「やっべ!!」
急いで準備を進めて、駅のホームへ走った
「はぁ、はぁ、あっちぃ・・・」
駅のホームにある椅子に座る。
流石に全力で走るのは辛い
僕は一息ついて、今日の気温を見る
昨日と同じ気温だった
「そりゃ暑いわな・・・」
熱中症になりそうな気温の中で僕はジュースを飲む
すると、首元に冷たい感覚がする。
「よっ」
光流だった
「あぁおはよう光流」
軽い挨拶を交わして、僕の横に座る
昨日と同じような会話をして、電車を待つ
そして
電車は30分遅延した
流石におかしい。
二日連続で同じことが起こり得るのか?
「どうした、詩乃?」
「ん、なんでもない」
昨日の件もあるし、あまり心配はかけられない
やはりおかしい。
授業が昨日と同じ内容なのだ
時間割も、内容も全てが同じだった
僕は不審に思い今日の日付を確認する
九月八日
「っ!?」
昨日と同じ日付
目を疑った、だが今日の全てがおかしかったのだ
同じ時間の遅延をする電車、昨日と同じ時間割、昨日と同じ授業の内容
きっと、今日、日付が変わった時から
僕は、ループしている
この日を