終わらない夏の島
僕は夏が嫌いだ。
高い気温、照りつける太陽の光、鳴く蝉の声、澄み渡る水色の空。
この全部が僕は嫌いだ。
夏なんて無くなって仕舞えばいいのに。ずっとそう思っていた。
「あちぃー」
駅のホームで一人でそう嘆く僕。
手元にはすっかりぬるくなってしまったジュースと、日に照らされて暑くなったスマホ
「これだから夏は嫌なんだよ・・・」
そう呟くも、夏は終わってくれない。
というか「終わらない」
僕がいるこの場所は、お世辞でも大きいとは言えない島の中だ。
そしてこの島では、不思議なことに夏が終わらない。
今の文明では解明ができないほど、謎に包まれた島だ。
昔からの言い伝えによれば、作物が育たなくなり、環境が悪くなる冬を嫌がった先人が神に願ったそうだ。
この夏が終わりませんようにってな。
全くもって迷惑な話だ。
この場所に身を置く僕たちの身にもなって欲しいものだ
だが夏が終わらないおかげで、一応僕たちの生活が良くなることもある
それこそ、作物がよく育ったり、夏のイベントが一年中あったり、多少のメリットはある
だが、それに対してデメリットが多すぎる。
一番大きなデメリットは、そう
夏が終わらないことだ
「よっ」
と、陽気な声を共に僕の首元に冷たい物が当たる
「うわっ!!」
驚きすぐさま後ろを振り返るとそこには、僕の親友である因幡 光流の姿があった
顔はイケメンだが性格がダメな典型的なクズ男
「どうした、詩乃今日も微妙な顔しやがって。」
「馬鹿にしてるのか?」
なんとなく昨日も見たような会話をしながら光流は僕の横に座る
「にしても、今日は一段とあちぃなー」
汗を拭いながら光流がそう呟く
「こうも暑いと、やる気が削がれていく感じがするよな」
「いつもだろ」
「やっぱお前僕のこと馬鹿にしてるだろ」
そう二人で笑い合いながら電車を待つ
結局電車が来るのは光流が合流してから30分後だった
「あぁぁー生き返るー」
クーラーの効いた車内で、そういう僕を横目に光流はスマホをいじる
「まさかの遅延だったしな」
「線路に大きな岩があったんだって?」
「あぁそうだな、噂では近所のガキじゃねぇのかなって」
「勘弁してくれよ」
そういい、今日も電車に揺られる
高校に到着して、時間を確認する
「まぁ流石に間に合わないな」
周りには僕たちと同じ電車の遅延の被害者達が登校している
「一時間目数学じゃないのか?光流、今回授業行かなきゃまたテスト赤点取るぞ」
「大丈夫だって、いざとなったら詩乃を連れて夜通し勉強会だろ」
「僕を巻き込むな」
そういい僕は、校舎内へと進んでゆく
「待ってくれよ」
と、後からついてくる光流
教室に着くと同時に授業の終わりのチャイムが鳴る
光流と話しすぎたのかもしれない
僕は自分の席に歩を進めて椅子に座る
クーラーの効いたこの部屋はまさに天国のようだった
「今日は何があって遅れたの?」
と、僕の席の前から声がする
氷雪 玲奈
名前とは大きく違った明るい性格、学校の中でも人気者だ
「線路にガキがイタズラだってさ」
「最近の子供は行動力があるなー」
と、感心をしたように言う玲奈
「こっちからしたら迷惑な話だよ」
「ま、今日も暑いもんね」
「あぁ」
それに同意しながら、僕はスマホをいじる
チャイムの音が教室中に鳴り響き、四限目の終わりを告げる
号令がかかり僕たちはある場所に向かっていた
僕たちがいつも昼食をとる場所は、もう使われていない二号館の空き教室。
だれも周りにいないから好き勝手できるのだ
この空き教室はなぜかいつもクーラーが付けており、すごく快適だ
ここにいるメンバーは
僕と光流、玲奈と後三人
一人目は天谷 翔
面倒見が良くて、僕たちを制御するのはこいつだ
二人目は巫 未愛
いっつもおどおどしてるけど、なんだかんだ僕たちのグループにいるやつだ
三人目は坂宮 彼方
このメンバー一の問題児
クーラーの効いた部屋でそれぞれ喋りながら昼食をとっていると、彼方が声を上げた
「ねぇ知ってる?東雲山の中に神社があるって話」
東雲山とは、この島のちょうど真ん中に位置する大きな山だ。色々な都市伝説があり、それもその一つだ
「あぁ知ってるぞ、夏が終わらないのは先人がその神社に祈ったからって言われてるよな」
光流が詳しく解説する
「光流って勉強のことは覚えないのに無駄なことだけ覚えてるよな」
そう僕が言うと
「わかる」
と、玲奈も賛同する
「ひでぇな」
「それで、その神社がどうしたの?」
翔が疑問を口にし、彼方から一つの提案がされる
「その神社、行ってみない?」
僕は耳を疑った
「こんな暑い中行くのか?」
「当たり前でしょ、雨の日に行くのもめんどくさいし」
「いいんじゃねぇか?」
と、光流が同意したので勢いに乗り、僕以外のみんなが同意した
「詩乃くんも一緒に行こ?」
未愛が見つめてくる。
「・・・しょうがねぇな」
「やっぱ詩乃って未愛に甘いよな」
「この扱いの差はどうしてなのか」
「日頃の行いを見直してこい」
「えぇー」
そんな彼方と光流は無視して、僕はサンドイッチを頬張る
放課後になり僕たちは山の前にいた
「いつ見ても大きいね」
と、未愛が感心したように言う
「ほんと、この中に神社があるのかなー?」
玲奈が言うこともわかる
こんな鬱蒼とした山に神社なんてあるのだろうか
それにしても
「あついぃぃぃぃ・・」
「おぉい詩乃がやる気無くしてるって」
「ほら!!詩乃山登りもしてないからやる気出して!!」
そんな彼方が熱い声援を送るが逆効果だ
「それじゃ、行こうか」
翔の声と共に僕たちは山の中へと入っていった
山の中は道以外は舗装されていない。
その道も廃れていてかなり危なくなっていた
「なんかこうしてるとワクワクするね!!」
唐突に玲奈がそんなことを言う
確かに、こう言うところの探検は僕は好きな方だ
橋を越え、細い道を越え、休憩も挟みながら、二時間ほど僕たちは歩いた
「はぁはぁ、あぁぁ」
僕は呻き声を上げた
「おいおい、この程度でへばってんのか?」
「そうだそうだー!!詩乃は体力がないんだ!!」
なぜ光流と彼方が元気なのか
「確かに・・これは・・辛いね・・」
息が途切れている未愛
他の奴らも疲れているようだった
「ねぇあれ!!」
彼方が声を上げた
彼方が指差すその方向には
まだ日も出ているのに、なぜか暗い、そんな雰囲気が漂う神社がポツンと立っていた
「これが噂の神社・・・」
翔が興味深そうに眺める
周りの岩などには多くの苔が生えているのにもかかわらず、神社だけは何もなく、逆に不気味だ
「なんでこんな暗いの?」
玲奈は周りを見渡しながらそう言う
確かにそうだ。
周りに大きな木が日を防いでいるわけでもなくただ、この鳥居の先だけが暗いのだ
「・・・なぁこれ」
光流がスマホを指差す
皆がそのスマホを見る
その時に異変は起きた
「・・・時間が進んでいない?」
日付は九月八日
時間は十六時四二分
いち早く異変に気付いた僕は自分のスマホも取り出す
それに便乗して全員がスマホを取り出す
全員が一致してスマホの時間が進んでいない
「きっとスマホのバグだよ・・・」
弱々しく未愛が言う。
「神社の中」
彼方がそう言う
全員が神社の中に目を向ける
そこには
壁一面に貼り付けられた時計
異様に早く回っているもの、異様に遅く回っているもの
一つ一つ違う回転をしている
その中で一つだけ回っていない時計がある
神社の真ん中にある大きな時計。
「・・・不気味だな」
「ねぇ帰ろう?」
玲奈がそう言った
「そうだな」
全員満場一致で帰ることにした
その瞬間
ガタンと
音がした。後ろからだ。
大きなの時計が落ちた
音がする
秒針を刻む音
カチカチとあらゆるの方向から聞こえる
頭がおかしくなりそうだ
そんな中僕は
「みんなっ!!とりあえず鳥居の外に出ろっ!!」
と叫んだ
ここで僕が冷静さを欠いていてはどうしようもならない
うずくまった未愛の腕を掴み、僕たちは鳥居の外に出た
必死に全員で走り、休憩スペースまで走った
「なんだったんだ今の・・」
僕は呟く
「知らねぇよ・・」
いつにもなく弱々しげな光流
そういえば
「大丈夫か?未愛」
僕は声をかける
「う、うん、ごめんね心配かけて」
「玲奈、大丈夫?」
彼方が玲奈の背中をさする
「うん、大丈夫」
「どうなってるんだ・・」
僕は異変に気が付いた
スマホを見るとそこには
九月八日
十七時四十ニ分
先ほどの時間から一時間ほど進んでいる
「一時間過ぎている?」
翔もスマホを確認しながらそう言う
「・・・とりあえず、この山から降りようよ」
彼方が弱気なのは珍しい
「そうだな・・・」
そういい僕たちは山を後にした