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パート2:少女との出会い(4)

 ティアは暫く憎らしくにこにこしていた。それでもその笑いが純粋な喜びで輝くまでそれほど長くはかからなかった。


「ところで私の前世の名前を呼ぶとは予想できませんでしたね」


「どうのこうの言葉で説明するよりもそれが確実だから」


「私が意外だったのは〝どうして〟じゃなく〝どうやって〟でしたよ」


「ん? 何が?」


「名前。覚えてくれたじゃないですか」


 ――あ、それか。


 テオは苦笑した。


 多分ティアは多くの人を転生させたテオが、たかが人間1人の名前を覚えていたのを疑問に思ったのだろう。


 テオもそれが妥当な疑問だと自覚はあった。そもそも美空零……ティアを転生させる時も特に彼女を特別に扱うことはなかったし、転生作業が終わった後は彼女の名前を思い出したこともなかった。


 しかし、だからといって必ず忘れるべき理由もなかった。


「転生者が2番目の人生で経験することは結局俺にも責任があることだから。だから俺はすべての転生者の名前と魂を記憶しておいたよ。転生しても魂を覗き見れば前で誰だったか分かる」


「……そうですね」


 ティアは一瞬がっかりしたように肩を落とした。でもすぐににっこり笑って、いきなりテオの腕に抱きついた。


「でもブラケニア様の正体を知るのは私だけでしょう?」


「これからバレなければそうなるだろう。……ああ、そういえば」


 テオはティアに捕まらない方の手を上げ、手のひらを自分の顔に当てた。そこで魔力の光が瞬間光った。


「よし、これでいいだろう」


「何をなさったんですか?」


「〈仙法:洞察眼〉で俺を見てくれる?」


 ティアの目がまた輝いて、テオは再び身体を捜索されるような感覚にとらわれた。しかし、今度はティアの反応がさっきとは違った。


「え? 創造神の跡が……」


「ちゃんと見える?」


「はい、見えます。他の転生者と同じですね。どうやって?」


「転生者に残された跡は、どうせ俺の力が魂に介入した結果だと言ったじゃん。その力の主である俺自身には簡単なことだよ」


 たとえティアのようにテオの魂を覗き見ることができる人に会っても、跡を具現化した今ならただの〝ブラケニア〟に思えるだけだろう。


 ティアのような特異ケースがどれだけあるかは不明だが、面倒なことが起こる余地は減らしたいというのがテオの考えだった。


 だがティアは別の意味で喜び、笑みを浮かべた。


「ふふ、もう本当に私とブラケニア様だけの秘密になりましたね」


「さっきも言ったけど、バレなかったらね。それよりいちいちブラケニア様と呼ぶな」


「ご心配なく。人の前ではちゃんとテオ様と呼ぶから」


「人がいなくてもそのままテオって呼んでいいよ。どうせそれも真名だから」


「え? 真名って……」


「さっき言ったじゃん? テオドール・ブラケニア。それは仮名じゃなくて、ただの真名だよ」


 ティアはぼんやりとした顔でテオの顔をじっと見た。しかしそれもつかの間のことで、すぐに首を回すとぷっと笑い出した。


「あはは、創造神様が人間になって来たのに真名をそのまま使うなんて。お粗末すぎじゃないですか?」


「どうせ人間は俺の名前をただブラケニアとしか思っていないから。それが創造神の真名だということを知っている人間がこの世界にはないから関係ないよ」


「ないでした(・・・)ね。さっきまでは。2人だけの秘密がもう1つ増えましたね」


 ティアはにこにこしながらそう言った。


 ――何だよ、最初はすごく無愛想な子だと思ったのに。意外に感情表現が豊かだな。


 テオがそんな考えをしていると、ティアは頬を膨らませて目つきを鋭くした。


「今何を考えていらっしゃったのか分かる気がします」


「う、うん? 何でもないよ」


「ないじゃないでしょう。無愛想な子みたいだったけど、意外だな~とか思ったでしょう?」


 ――鋭い!!


 テオは冷や汗をかいた。それこそティアの言葉通りだったから。


 人間の基準をよく知っている訳ではないが、不満そうなティアの態度を見ると、無礼な考えだったのかも知れない。実はテオは考えただけで言葉にはしなかったから、1人で汗水たらするまでもないが。


 でもティアはすぐクスッと笑い出した。


「ぷっ、あははははは! 本当に人の心や会話が未熟ですね。そんなことでいちいち緊張しなくてもいいですよ」


「……マジ?」


「……っていうか、普段は無愛想だという自覚くらいはあるんです。感情を表すのが苦手な方なので」


「全然そうでもなさそうだけど?」


「それだけテオ様に会えて嬉しいことですよ。気持ちとしては1日中テオ様と2人でいたいけど……」


 ティアはカスカ達がいる方を見た。


「あっちが待っているので、ひとまず合流しましょう。テオ様との時間はどうせ今じゃなくても多いから」


「ん? まさかずっと俺と一緒にいるつもりかよ?」


 テオがそう言うと、ティアは目を細めてテオを見つめた。まるでひどく疑わしいというような眼差しだった。


「お金、家、身分、職業。この中でテオ様が持っているものを1つでも話してみてください」


「……」


「ありませんよね? なので私がお手伝います。まぁ、わざわざ私の助けがなくても〝ブラケニア〟というのを前面に出せばかなり待遇されるかも知れませんけど、あれこれ面倒なこともたくさん起こるでしょう。それにテオ様は人間の常識にも暗いと思うし」


「……ありがとうと言っておくよ。それより、〝様〟は抜いてよ」


「ダメです。至高の創造神様ですから」


「抜いてなければ一緒に行かないよ」


「……さんで妥協しましょう」


「オーケー、落札」


 ティアはため息をついたが、これだけはテオも譲ってあげるつもりがなかった。特に具体的な理由はないが、何だか放っておくとものすごく面倒になりそうな予感がしたから。


「そろそろ合流しましょう。そのままエルバニア王国の王都まで行きます」


「分かった。宜しく頼むよ」


「……宜しくお願いします、テオさ……さん」


 それを最後に、2人はカスカ達と合流した。


 ――人間の都か。楽しみだな。

小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


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