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パート2:少女との出会い(3)

 ティアがぼそっと呟いたのを聞いた瞬間、テオは直感した。これ以上言い逃れるのは難しいと。


 さらにティアは彼を追い詰めるかのように、追いかけまで入れようとした。


「それ知ってますか? 転生者は全員魂に跡があります」


「跡……ですか?」


「はい、跡。転生者は皆、創造神ブラケニア様の恩により魂が強化されていますから。普通は見られないけど、魂の姿を見ることができるほど魔力を感知する能力が強くなればぼんやり見えます。魂についている創造神の跡が」


 ティアはテオに顔を押し込んだ。〈仙法:洞察眼〉の魔力が依然として燃えている目は、テオの肉体だけでなく魂の姿までしっかりと直視していた。


「その跡が表に出ているのが転生者の紋様です。ところが貴方にはそれがないですね」


「……」


「その魂に創造神の跡がないくせに、〝ブラケニア〟の紋様を持つ人。学界に報告すれば間違いなく全世界が大騒ぎになるイシューです。今までそんな事例は1度も報告されていませんから」


 正直想像もできなかった。


 転生者の魂にテオの手が届いたのは事実だが、それでテオ自身の跡が残ったことは彼自身も知らなかった。


 実は元々なら残っていても関係なかっただろう。だがテオ自身が人間の肉体を得て降臨した今、ティアのように見抜く人が出てくるかも知れない。


 ――俺がもっと世界に関心を持って見ていたら、こんなことも知っていたのかな。


 世界を愛すると公言しながら、世界を利すると豪語しながら、いざその世界をまともに見つめずに仕事ばかりしていた歳月。その歳月が改めて後悔に感じられた。


 そう考えると、さっきとは違う意味で正体を明かすのが嫌になった。自分でも恥ずかしいくらい酷い神である自分が、この美しくて強い魂を持った少女に愛される資格があるだろうか。


 ティアは転生のことを感謝しているようだが、最初からテオは彼女個人を眺めて転生させた訳ではない。転生はただ世界達の間に魂を循環させ、その流れで世界の霊的潜在力を引き上げるシステムに過ぎなかったから。


 もちろん悪人をはじめ資格のない者は世界に迷惑だ。それで篩にかける作業をしたが、彼にとってそれは会社の社長が志願者の履歴書を見るのと同じだった。そこには個人に対するいかなる感情も感興もない。転生の面談も短く断片的であった。


 だが。


 テオがそんなに躊躇している間に、ティアは目の魔力を消して少し悲しそうな顔をした。


「教えてください。貴方が誰なのか。貴方がどこから来て、今まで何をしていた者なのか。……貴方の口で聞きたいです」


「……俺は貴方の期待するような人じゃありません。存在論的な話じゃなく、精神や内面の面でです」


「そうして勝手に断定を下ろし遠ざける行動もまた傲慢だって、ご存知ないでしょう?」


 その言葉にテオは息を飲み込んだ。


 傲慢……そうだ、テオは傲慢だった。世界の為だと傲慢にただ世界の外に座っていただけ。世界を正しく導く為に世界を真剣に見たことがなかったから。


 ――ネブラ。もしかすると君の言うことが合っていたかも知れないよ。


 とっくに別れた友達の顔が思い浮かんだ。


 それでもためらうテオだったが……ティアは決定打を放つように哀れな眼差しで口を開いた。


「お願い」


 その瞬間、テオは覚悟を決めた。


「……久しぶりだよ、美空(みそら)(れい)さん」


「……!!」


 ティアは目を大きく開けた。


 美空零。この世界の人は誰も知らない名前。ティアがティアとして生まれる前、不幸の中で亡くなった少女の名前。


 ティアをその名前で呼べる存在が誰なのかは、あえて言葉で表現するまでもない。


「会い……」


 小さくて震えた声。その顔だけは相変わらず無愛想だったが、肩は声と同じくらい震えていた。やがてその震えは全身に広がり、瞳も揺れ始めた。


 そしてティアの頑固な外見が崩れる直前、彼女はテオの懐に飛び込んだ。


「会いた……かったです……!」


 テオは暫く固まっていたが、自分の胸に顔を埋めたまま震えているティアを見て、覚悟を決めたように眉間をそろえた。そしてモジモジしながら手を動かしてティアの頭にのせた。下手で遅い撫でだったが、それでもティアは気持ち良さそうに笑い声を流した。


 ……いや、笑い声が少しおかしかった。


「……ティア?」


「ふふ、ふふふ……ふふふふふふふ」


 ティアは顔を上げた。身長差でテオの顎にぶつかったりすることはなかったが、かなり近い距離で目が合った。彼女の目に涙の跡のようなものは全然なかったし、その眼差しはいたずらっぽく輝いていた。


「ふふ、あははははは! 騙されたでしょうね?」


「え、あれ……?」


「あ、愛してるって言ったのは嘘じゃありません。加護についても同じですし」


 そしてやっとテオは状況を理解した。理解してみると幼稚な憤りがこみ上げてきた。


「……お前! まさか演技したのかよ!?」


「ピンポン、正解ですよ!」


 するとティアは体を離してにっこり笑った。さっきまでの無愛想な顔とはとてもマッチしない笑顔だった。


「何故そんな演技を……」


「言ったでしょう? 私の加護は〝道〟を教えてくれるんですって。ちなみに、〝道〟を教える仕事の種類に制限などはありませんよ? まぁ、至高の創造神様が感情演技にまんまと騙されるチョロい人という〝道〟が出たのはちょっと意外だったんですけどね」


「こ、このガキが……!」


「あ、でもこれ秘密ですから、どこかに行って話さないでくださいね?」


 するとティアは片目を閉じて、人差し指を唇に当てたまま微笑んだ。


 ……その笑顔が可愛いので許してあげようと思わず思ってしまったのが、無駄にくやしいテオだった。

小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


●最強の中ボス公女の転生物語 ~憎んだ邪悪なボスの力でみんなを救いたい~

https://ncode.syosetu.com/n1356hh/


●魔王が消えて受付嬢が現れた ~勇者の恋人になった魔王様は、ギルドの受付嬢として第二の生を生きています~

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