パート2:少女との出会い(1)
馬車のドアが開き、突然の訪問者の姿が見えた。少し無愛想に見えるが奇麗な美少女、ティアだった。彼女を見た瞬間テオの頭に浮かんだ思いは、たかが可愛い子が完全武装していて珍しいというくらいの感想だった。
だが彼女を見た瞬間、カスカは驚いたように息を飲んだ。
「ティ、ティア小隊長!? ここまでは何故……」
「緊急依頼を受けてきました。依頼をキャンセルしたという話は聞いたのですが、一度状況を確認したかったです。皆ご無事で何よりです」
「光栄です!」
どう見ても年はカスカが父にあたるようだけど、ティアに対する態度はむしろカスカが目下の者のようだった。ティアはそんな彼の態度に困惑した様子だったが。
その時、ティアがテオに目を向けた。
「彼が今回助けてくれた助っ人さんですか?」
「ええ、その通りです。テオ様、この御方はティシス社の……いや、我が国の最高戦力であるティア様です」
「……そんな風に呼ばないでくださいってお願いしたじゃないですか」
――大体分かったな。
テオは穏やかに笑いながら、前に出て手を出した。ティアは彼の手を取り合った。
「はじめまして。テオドール・ブラケニアです。貴方も〝ブラケニア〟でしょう?」
「お初めまして。ティアキエル・〝ブラケニア〟・リスリーティスです。どうして私が〝ブラケニア〟だということを知ったんですか?」
「カスカさんの態度が尋常ではなかったですからね。この国の〝ブラケニア〟が1人だけという話と結び付けて考えてみました」
「……ふぅん」
何故かティアは暫くテオの顔を黙ってじっと見た。
「……どうしたんですか?」
「……カスカさん、この方とちょっと2人だけで話してもいいですか?」
ティアはテオの問いかけを無視してそう言った。カスカは暫く当惑しているように見えたが、すぐ微笑んで俯いた。
「私にはテオ様の行動を決定する権限がありません。テオ様の意思次第です」
「……それはそうですね。ちょっとお願いしてもいいですか?」
今度こそテオへの問いだった。
――……どうする。
テオとしては別に断る必要はないが、だからといって承諾しなければならない理由も分からないというのが本音だった。初めて会った少女がいきなり2人だけで話そうと呼び出す理由が分からないから。
しかも彼女が〝ブラケニア〟というのは、つまり彼女も転生者だという意味だ。
今の肉体は創造神だった時代とは形が違う。しかし、ある程度自分の外見を参照して作ったので、たとえれば親子程度では似ている。
そして転生者は創造神としてのテオと旧知だ。いくらなんでも創造神が突然人間になってこの世に降りてきたという発想までには至らないはずだが、何か怪しいと感じるかも知れない。
そこまで考えていたテオはふと自分の考えの違和感に気づいた。
――俺は正体を隠したいのか?
思えば、彼は創造神であることを隠そうと思ったことはなかった。ただ自分で明らかにしたところで、信じてくれるはずがないと思っただけ。そして本当に知られても面倒になるという思いしかなかった。
だが、いざこのような瞬間が来ると、妙に渋い感じがした。それに理由は分からないが、何かティアにそのことがバレたら面倒くさいという奇妙な予感がした。
「どうしましたか?」
ティアの言葉にテオは我に返った。そういえば考える為に、ずっと返事をせずにいた。
――やめよう。元々俺の正体に気付いたと確定した訳でもないし、1人で騒がしくする必要はない。
「ああ、すみません。そして俺は構いません。ここで話すんですか?」
「ちょっと森に行きましょう」
ティアは何も言わずにカスカを見て、カスカは「分かりました」という言葉だけを残してラーク達に向かった。ティアは頭を軽く下げて彼の背中に挨拶し、さっと背を見た。
幸いティアは遠くには行かなかったし、木越しにカスカ達の姿がちらりと見える所で止まった。そして指をパチンと鳴らした。かすかな魔力が辺りを覆った。
〈術法:密会の空間〉
秘密の話を交わす為の結界の術法だった。
――あ、くそっ。面倒になる感じがもっと強くなった。
テオの本音なんて分かるはずがないティアは淡々と口を開いた。
「テオさん。本当に人間ですか?」
――いきなり核心!?
やはりティアはテオを疑っている。
まさか人間に擬態する魔物もいるのか? とかも考えたが、言うまでもなく現実逃避だ。いや、厳密に言うと、そんな魔物も存在するということは神として知っている事実だ。でも、まさかそれを疑うんじゃないだろう。
もちろん、ここですぐに率直に言うつもりはない。
「どういう意味ですか? 俺が魔物に見えたりしたんですか?」
「いいえ、それは違います」
「良かったですね。俺は名実共に人間です」
「……」
気まずい沈黙がやってきた。
ティアの無愛想な顔からは感情を感じられなかった。しかしその顔を眺めていたテオは、たちまち彼女の目から変なことを感じた。
――俺を見る目じゃない。まるで俺の中を覗き込むような感じだ。
何でそんな感じがしたのかは分からないけど、その感じは確信というほど強くテオの心に浸透した。
ティアはやがて再び口を開いた。その口から出てきたのは表面的には突拍子もない話題だったが、テオとしては痛い話でもあった。
「私は創造神に大きな恩を受けました」
「転生のことですか?」
「ええ、前世で私はとても不幸だったんです。欲しいものは何1つ持てず、生きていくことさえ思いのままにできない人生でした。もちろん世の中を探してみたら私より不幸な人もいると思いますが、私にとっては自分自身こそ世界で1番不幸でした。そうだった私に創造神が新しい人生をくださいました」
ティアは右手を胸に当てた。すると無愛想な顔を少しだけ動かして、とても幽かに微笑んだ。
でもその笑顔に込められた心だけはとても大きいということを、テオは何となく感じた。
「だから私は創造神を愛しています」
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