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パート1:神の降臨(4)

 テオがカスカ達を救ってくれたの少し前。


 エルバニア王国唯一の討伐会社、ティシス社の本社ビルを闊歩する少女がいた。


 肩まで伸びたピンク色の髪の毛と、血のように赤い瞳が印象的な美少女だった。顔にはまだ子供っぽい感じが残っていたが、大きい胸や括れた腰からは魅惑的な大人の香りが漂っていた。


 しかし、すらりとした体は長いスカートのついた鎧に隙間なく保護されていた。そして細くて鋭い目つきは、近寄りがたい空気を漂わせていた。


 ビルに残っていた職員達は彼女を羨望の眼差しで見つめた。それも当然だろう。この国の法律で彼女はたった今大人になっただけの少女だが、ティシス討伐会社にとって彼女は年以上の存在だから。


 いや、ティシスに限った話ではない。


「ティア小隊長、ここにいらっしゃいましたね」


 忙しく走り回っていた若い職員が少女――ティアに近づいてきた。するとティアの鋭い目つきが少し和らいだ。


 ……いや、和らいだというか、少しはにかんで喜ぶ様子さえ感じられた。もちろん相手が男だからではなかった。彼女は人に会うといつもそうなるから。


 ――最初は近付きにくいけど、実際に顔を合わせるとそれが本当に可愛いんだね。


 この感想もその職員1人だけのものではない。彼女を個人的に知っている人なら誰でも抱くことだから。もちろんティア自身は自分がそんな評価を受けているということを知らない。


「何かあったんですか?」


「緊急のご依頼が入りました。ロンド商会の一行が王都の東の森を通っている途中、ツノサルの群れに襲われました。ラーク小隊が応戦中ですが衆寡敵せずのようです」


「緊急依頼がどうして私に? 普段私に緊急依頼は任せてないじゃないですか?」


「切羽詰っている様子です。そして現在本社に残っている小隊がありません」


「分かりました。今私の小隊員達も他の仕事をしているので、私1人で行きます」


「お願いします。そしてティア小隊長なら1人でも問題ないはずですが、でも万が一の為に気をつけてください」


「ありがとうございます」


 ティアは外に出てきた。そして馬車よりも速く走って王都の東の門に着いた。しかし門番に挨拶してすぐに森に突進しようとした瞬間、急にその場に立ちすくんだ。


「……!?」


 彼女の頭を襲ったのは強烈な衝動と予感。


 ティアはとても特別な加護を持っている。それはいつも彼女に正しい道を教えてあげる能力。ティアが密かに抱いていた目標に従い、今まで常に天上の〝とある所〟を指していた能力だ。この世界に生まれて以来、いつも彼女の道しるべになってくれた力でもある。


 ところが、その道しるべが示すところが急に変わった。


「これ、は……?」


 今までティアの加護は彼女にたくさんのものを与えた。だが彼女の究極の目標だけはいつも変わっていないし、加護もまた最も重要な道しるべだけは常に揺れなかった。そして彼女自身は今もなお同じ目標を抱いている。


 にもかかわらず、加護が示す方向だけが突然変わった。


 そしてそれと同時に、心の中で警鐘を鳴らしていた危機感が嘘のように消えた。緊急依頼の話を聞いた時から感じられた危機感。これもティアの加護による権能であるが、彼女の究極の道しるべは突然変わったと同時に危機感も消えた。


 その事実の意味することは……。


[ティア小隊長! 聞こえますか?]


 いきなり入ってきた術法通信にティアは内心驚いた。でも表向きは平静を装ったまま回答を返した。


[どういうことですか?]


[ラーク小隊長に連絡が入りました。ロンド商会が緊急依頼をキャンセルしたそうです]


[キャンセルって? ラーク小隊で事態を解決したんですか?]


[身元不詳の助っ人が現れて助けたそうです。現在その助っ人は依頼者のロンド商会長と話をしているそうです。とりあえず依頼はキャンセルされましたので復帰してください]


[……分かりました]


 身元不詳の助っ人。その言葉を聞いた瞬間、ティアの心から何か大きなものがドカンと動いた感じがした。今すぐ助っ人の正体を確認しなければならない――彼女の加護はそんな衝動を引き起こしていた。


 そしてその衝動が指しているのは、ちょうど緊急依頼を要請したロンド商会が襲撃された所。たとえ依頼は取り止めになったが、道しるべが急に変わったこととその助っ人が関係している可能性がある。


 ならば。


「……行くよっ!」


 〈術法:風の疾走〉


 足が強烈な力で地面を叩きつけ、突風が彼女の道を切り開いた。


 風を踏んで前に。瞬く間に通り過ぎる光景には目も向けず、ひたすら前だけを眺める。その途中で逃げ出したツノサルの群れに遭遇したが、ティアに届かないうちに突風に巻き込まれて吹き飛ばされた。


 ――もしかして……この地に下りたんですか?


 答えが返ってくるはずがない問いを心の中にだけ呟いた。


 創造神の恵みでこの世に生まれ変わった以来、ティアの目標はただ1つだけだった。その目標があったからこそ強くなる為に必死に努力したし、届くはずがない空に届こうと必死にもがいた。だからこそ、ティアの加護はいつも天上のことを指した。いつか上がらなければならないと。


 そうした加護が突然土地を示す理由は何だろうか。強烈な予感がティアの頭の中を走った。


「あそこにある」


 遠くの場所に、ロンド商会の馬車が見えた。ティアは馬車の進路の前に降りた。すると向こうからも彼女に気付き馬車を止めた。


 馬車を護衛していた人達のうちに、大きな大剣を担いだ男が前に出てきた。ラークだった。彼は手を大きく振って大笑いした。


「よお、ティア小隊長! ここまでどうした?」


「こんにちは、ラーク小隊長。緊急依頼を受けてきました。依頼は取り消しになったと聞きましたが、少し心配になって」


「ハハハ、後輩さんに心配されるなんて、俺もまだまだだな。まぁそれでも〝エルバニアの国力〟様に配慮してもらうのも悪くないな!」


「……そう呼ばないでくださいって言ったじゃないですか」


 ティアは頬を膨らませたが、ラークは大げさに笑うだけだった。


「それはそうと、ラーク小隊長。助っ人がいると聞いたんですが」


「ん? ああ、そうだった。すげぇ強ぇ人だった」


「ちょっとお会いできますか?」


「できねぇことなんてねぇよ。ちょっと待ってよ」


 ラークが馬車で近づいている間、ティアは静かに立って馬車を眺めた。彼女の加護がその馬車を指していた。


 ――いつか、きっと貴方様の傍に行きます。……ブラケニア様。


 ティアの心臓が今までにないほど忙しく脈打っていた。

小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


●最強の中ボス公女の転生物語 ~憎んだ邪悪なボスの力でみんなを救いたい~

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