パート1:神の降臨(3)
「一般的に転生者達は強力な加護を持って生まれます。その為、能力的にも多くの注目を集めるのです。そしてそんな転生者達は魔力を高めると、身体のどこかに創造神ブラケニア様の文様の一部が現れます」
文様の一部か。今テオの右手の甲に浮かんだあれのことだろう。
――だが俺の手の甲に浮かんだのは一部ではなく、完全な形なんだけど?
その疑問もすぐに解けた。
「転生者の中にもごくまれに文様が完全な形で発現する人がいます。彼らは転生者の中でももっとすごい力を誇り、教団では彼らを神の選択を受けた者と規定します。そしてそんな者に限って、創造神の名前である〝ブラケニア〟をミドルネームやラストネームに入れる権利を認めました」
――そうか。だから俺が名前を言った時、びっくりしたんだな。
テオは何も考えずに自分のフルネームを言っただけなのに、彼らはその名前を〝ブラケニア〟として受け入れたのだ。
そして教団が認めたことは、逆に勝手に詐称すれば奇麗には扱われないという意味にもなる。そんなのをそのまま見逃してくれれば、自分達が崇める神の名に傷をつけるから。もしかしたら詐称した者を告発したり、処罰する法のようなものがあるかも知れない。
――何も知らないまま教団から逮捕しにきたりしたら面倒になっただろう。そんな点ではこの商人に感謝しなければならないな。
そう思っているうちに、商人が穏やかに笑いながらまた口を開いた。
「ところで〝ブラケニア〟について知らないのにどうやってその名前を使うんですか?」
「あ……この世界の両親に聞きました。お前は〝ブラケニア〟の資格がある、と仰いました。ところで詳しい話を聞く前に事故で亡くなられたんです。その後故郷というべき所に落ち着いたのです。元々両親は旅行者だったんですから」
「そんな……ご冥福をお祈りいたします」
「ありがとうございます」
つい嘘をついてしまった。この世界の両親などいないのに。
そんな気持ちを紛らわす為に、テオは頭を下げて感謝の意を表した。
「ありがとうございます。おかげで必要なものがたくさん分かったようですね」
「はは、命の借金に比べたら、こんな言葉などは何でもないでしょう」
「それはそうと、外の護衛は直接雇った人ですか?」
「ああ、そうではありません。半分私の専属のように働いてくれていますが、彼らはティシス社の人々です」
「ティシス社?」
また知らないことが飛び出してオウムのように聞いてしまった。
――そういえば、さっきもティシス社なんとかって話が出てたと思うんだけど。
すでに予想したように、商人は苦笑しながら説明を始めた。
「さっきご覧になったような魔物がこの世界には多いです。だからそれらを狩る討伐者という職業があります。基本的には魔物の動向を監視し討伐するのが主な業務ですが、私のように魔物が出ている地域を通る時、護衛に当たってくれたりもします。そして、その討伐者は討伐会社という会社に所属します。ティシス社はこの国、エルバニア王国で唯一の討伐会社です」
「さっきティシス社に連絡って言ったことは……?」
「緊急依頼でティシス社に追加人員の派遣を要請していました。でもテオ様の助けのおかげで、必要がなくなったんです。改めて感謝致します。命を救ってもらったのが1番大きいですが、実は緊急依頼は依頼費も高いんですよ」
テオは苦笑した。やはり商人、お金の計算は早い。
情報をくれたことへの感謝の意味でお金でもあげたかったが、あいにく今テオにはお金がない。
実は肉体を作る時お金も少し作って握ろうとしたが、むやみに貨幣を作ったら経済がこじれるとしてジベレに怒られた。だから今テオが持っているのは着ている服だけだ。
それで、せめて感謝の気持ちを伝えようと頭を下げたが、商人はむしろ首を横に振った。
「テオ様がいなければ緊急依頼の討伐者が到着する前に犠牲者が出たはずです。私の方が依頼費を支払っても足りない状況です。もしご希望でしたら、緊急依頼を代わっていただいたとして補償致します」
「俺が勝手に割り込んできたのだから大丈夫です。情報を受け取ったことで相殺しましょう。俺にとってはとても重要な情報だったんですから。でも大丈夫ですか? さっき緊急依頼費を節約したと喜ばれたようですが」
「ははは、それくらいの依頼費を節約したよりも〝ブラケニア〟との縁がずっと重要です。〝ブラケニア〟はこの国……いや、この世界で1番貴重な人材なんですから。この国の〝ブラケニア〟はテオ様を除けばただ1人だけです。多分どこかに行って、人にむやみに接しても制止されないでしょう」
「はは、計算が早いですね。だが俺が今ここでそんな行動をしたらどうするつもりですか?」
「そういう御方じゃないと思ったから申し上げたんです。私がこう見えても人を見る目は自信があるんですよ」
「俺もいい方に出会えて嬉しいです。この国で活動する商人ですか?」
「はい。……あ、そういえば私の紹介が遅れましたね。私はこのエルバニア王国最大の商会であるロンド商会を率いるカスカ・ロンドと申します。まぁ、最大の商会と言っても、この国の中での話ですが。エルバニア王国は小さな国なんですよ」
カスカは苦笑したが、テオとしてはそんな縁もありがたかった。小さな国の小さな商会といっても、国最大だと自負するくらいなら少なくとも国内で活動する時は役に立つだろう。
そんな思いでカスカと握手を交わしたテオだったが、その途中で急に馬車がガタガタと揺れて、即座に立ち止まった。カスカが商会長として外の様子を聞こうとしたが、それ以前に外から先に声が聞こえてきた。
「失礼します」
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