パート7:不穏な影(3)(お知らせあり)
その瞬間、男の手が素早く動いた。黒塗りの短剣が3つ、ティアの顔に向かって飛んでいった。ティアはガントレットをはめた手でその全部をひったくった。
しかし、相手の狙いはそれ以上だった。
「ひっかかったんだな!」
男が嬉々として魔力を送った。ティアが奪った短剣が一斉に爆発を起こした。
……だが、ティアは手を中心に展開した魔力場と握力だけでその爆発を完全に抑えた。
「な……っ!?」
「なんで奇襲なら私に通じると思う石頭が多いのかな? 良い機会だから教えてあげるよ。この世で私に一番通じないのが奇襲だよ」
ティアは剣さえ抜かずに男に飛びかかった。素早くて強い拳が男の腹部を狙った。男はそれに殴られて飛ばされた。
しかし、その口には笑みが浮かんでいた。
「ティア、気を……」
テオが警告するより先に、四方から短剣が飛んできてティアを襲った。しかし、ティアは高速で動く両腕でその全てを切り返した。
「あがきはやめてね」
ピッ、と。まるで瞬間移動のような速度で、ティアは殴られ飛ばされた男のすぐ下まで移動した。
「はや、ぐぁっ!?」
男の顎に回し蹴りが綺麗に入った。普通なら脳が揺れて気絶してしまう一撃だった。しかし、男が攻撃直前に小さく展開した防御の術法陣の為、蹴りの威力が落ちた。
「これを食らえ!」
展開された術法陣から発射された雷電がティアを突き抜けた。
いいや、突き抜ける直前に展開された術法陣に防御された。それだけでなく、続けて投げた短剣も、その短剣が起こした爆発もすべて霧散された。事前に準備した罠のような術法陣が地面で光ったが、ティアが魔力を込めた足で強く踏むと直ちに破壊された。
だが男はまだ笑っていた。
「さすが〝ブラケニア〟だな……だがそれでも幼い女の子だ!」
男が魔力を上げた。すると彼の左手の手の甲に光る模様が現れた。創造神の文様の一部、すなわち転生者の象徴だった。
ティアはそれを見て冷ややかに笑った。
「〝ブラケニア〟でもない普通の転生者なんかが威勢はいいね」
「ふふ……もちろん〝ブラケニア〟は普通の転生者よりすごい。だがそれも歳月が伴わなければならないものだ。実際に十分に力をつけた転生者が〝ブラケニア〟を倒した事例は多いぜ!」
男が両腕を広げた。彼の周りに雷電の短剣が無数に現れた。それらは文字通り稲妻のような速度でティアの周りにめり込んだ。
「ほぉ。どこを狙うんだ、とかは言わないのか?」
「どこを狙っても、無意味な無駄骨なのは同じだもの」
「傲慢な奴だな!」
ティアの周辺に広がった雷電が術法陣を描いた。まぶしい雷電がその中を埋め尽くした。ティアの姿は閃光と雷鳴の彼方に消えてしまった。
「ふふ……ははははは! いくら〝ブラケニア〟であっても、この〈術法:雷鳴陣〉をまともに受けては生き残れない!」
男は意気揚々と笑い出した。しかし雷電が止まると、彼の笑い声はすぐに疑問の声に変わった。
「はは……は……?」
「このくらい? 自信満々な割にはがっかりだけど」
森の草と木がめちゃくちゃに燃えてしまった地点、その真ん中でティアは無傷で男を見ていた。
「な、何の……それを受けても大丈夫だと?」
「確かにあんたの言う通り、一般的な転生者が〝ブラケニア〟を倒した事例はあるよ。でも……少なくともあんたはそんな経験はないようね」
「ぼくをあざ笑っているのか!」
「ううん? あんたなんかにあざ笑われる価値がいるわけないでしょ」
「アマが!」
男の怒りに満ちた叫びとともに、再び雷電の短剣が無数に現れた。
「ぼくの力である『爆雷』は爆発する雷を扱う! 稲妻の速度で山を壊せる! 〈術法:雷鳴陣〉に耐えたのはすごいが、このスピードに追いつくことができるか!」
「……はぁ。こんな魔法の世界に転生したのに、まだ前世の常識が残っているなんて。あんたは生まれ変わった甲斐のない人だね」
無数の雷電の短剣が一斉に飛んできた。男の言うとおり、そのスピードは凄まじいものだった。しかしティアは魔力を付けた手でその全てを跳ね返した。連続する爆発でさえ力で全部振り切った。
「そ、そんなバカな……!?」
「たかが雷電なんかが私についてこられると思う?」
ティアは低い声で話した。男の鼻先で。
「なっ!?」
男は戸惑いながらも雷電の短剣を発射した。ティアはそれと全く同じタイミングで拳を振り始めた。でも短剣よりもティアの拳が先に相手を殴りつけ、短剣は反対側の手に塞がれた。
「人間は雷の速さについていけない。……そんなつまらない常識にとらわれているのだから、あんたはこれ以上強くならなかったよ」
「くっ……笑わせるな!」
男が再び術法陣を展開した。しかしティアはもう放っておかないというように手を振り、彼の術法陣はまともに力を発揮する前に破壊された。
驚愕する男に向かって、ティアは冷やかに笑いながら話し始めた。
「歯、ちゃんと食いしばってね。痛いから」
その笑顔と握り締めた拳が、男を恐怖に震わせた。
***
「……あえてこうする必要があった?」
「この男は心を一度くらい折ってこそ素直になれるタイプですから。わざと1人で相手しながらぎりぎり圧倒しました」
半分ぼろぼろになった男を見てテオが言ったが、ティアは鼻で笑って彼の胸ぐらをつかんで振った。
男はまだ意識はあったが、何かを恐れているような態度で口を開いた。
「こ、この野郎……何をのぞ……」
「当然情報だよ。知っていることは全部言って」
「誰が……」
ティアは話を最後まで聞かずにいい加減に男を投げ捨てた。そしてテオがその男を妙な目で見ているのに気づいた。
「何をそう見るんですか?」
「……なんでもないよ」
「そんな表情じゃありませんよ?」
男とテオを交互に見ていたティアは、すぐにテオが何を見ていたかを悟った。
男の左手の手の甲に浮かび上がったこと。転生者の文様だった。
実は今回、良くないお知らせを伝えることになりました。
他でもなく、しばらく本作の更新ができないそうになりました。
私の現実の仕事が忙しくなった関係で、小説を書く時間が過去より減りました。
いろいろ悩みましたが、結局私が現在連載中の小説の中で本作を休載することに決めました。
更新をいつ再開するかはまだ決めていませんが、おそらく最長2ヶ月ほどかかると思います。早ければ4月、遅ければ5月に更新再開されると思います。
突然の不愉快なお知らせ、心からお詫び申し上げます。
(実は他の小説にも悪いお知らせがもう一度ある予定なんですが……( ;∀;))