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パート7:不穏な影(2)

 ティアとテオはデリスの森を闊歩していた。


 ティア小隊員達はビルト小隊と一緒に先に帰した。だから今ここには2人だけ。ティアが提案したものだったが、テオはまだその理由を聞いていない。


「ティア、どこに行くよ?」


「ヒントを取りに行きます」


「ヒント?」


「はい。ジェネラルウルフと関係のあった子は私が逮捕したじゃないですか? でもスパイというのは、普通1人だけ植えつけるのではないです。それにあの子が捕まった後でも何か異変が起きているというのは、やはり他の工作員がいると見ることができるでしょう。どうせテオさんが見たという合成成分は本社で分析してあげるので、私達は犯人を捕まえに行きましょう」


「犯人がどこにいるか知ってる?」


 ティアはにっこりした。自信にあふれ、どこか少しはあざ笑うような微笑だった。


「私が捕まえたいと思ったら、捕まえられるようになりますよ。例外は存在しません」


「……そういえば、お前の加護はそんなものだったね」


 今更のことだが、ティアの加護は本当にすごい。いまだに加護の正確な正体は分からないが、果たしてあの加護に限界や弱点があるのだろうか。たとえそんなことがあったとしても、模擬戦の時の姿を見れば弱点をつくことも容易ではないだろう。


 そう思いながら進んでいるうちに、テオは遠いところにいる人の気配を感じた。


「誰かがいるね」


「どこにあるんですか?」


「約5km先に」


「……その距離を探知できますか?」


「お前はできない?」


「加護を使えばできますけど、普段の私の探知半径は1kmが限界です。……ふふ、やっぱりテオさんはすごいですね」


「これが?」


 ティアはテオを振り向いて微笑んだ。


「申し上げておきますが、私の1kmもかなり規格外なんですよ? もちろん索敵に特化した人なら十分カバーできる距離ですけど、普通なら500mも大変ですよ」


「そうか。まぁ、俺はこの世界とつながりが強いから、それだけ探知範囲も広いだけだよ。他の能力とはあまり関係ない」


 人間の肉体に宿って能力が制限されたとはいえ、テオはこの世界の神。世界とのつながりは誰よりも強い。この肉体に慣れれば探知の範囲もさらに広がるだろう。


 ――まだ少しぎこちないところがあるけどね。


 探知範囲だけでなく、身体や魔法能力もまだ少し生半可だ。テオ自身がこの肉体を創造する時に設定したスペックをまだまともに発揮できていないのだ。今のレベルだけでももう平凡な〝ブラケニア〟級にはなるが。


 一方、ティアは気配を感じないという割には、ターゲットに向かって正確に歩いていた。


 ――気配自体を感じられなくても、相手を捕まえることができるルートで行くのか。


 ターゲットはまだ大きく動いていなかった。あのままずっといたら、多分このまま進むだけでも十分届くだろう。


 やがて距離が1kmほどに縮まった頃、ティアがふと頭を上げた。


「あ、気配が感じられますね。ずっとそこにいたんですか?」


「少しずつ周りを回ってはいたよ。簡単に言えば歩き回るが、一帯を離れない感じというか」


「そうでしたね。そろそろ急襲しましょう」


 2人は同時に速度を上げた。


 同時に発動した〈術法:風の疾走〉の風を踏みながら前に。距離が瞬く間に縮まった。ターゲットも後から2人の気配に気付いたが、その時はすでに手遅れの状態だった。


「うおぉっ!?」


 逃げようとするターゲットをティアが問答無用でぶん殴った。ターゲットはみっともなく地面を転がり、所持品らしき各種薬瓶と封筒が地面に散らばった。テオはすぐに探知の術法でそれらの成分を調べた。


「テオさん」


「やはり的中のようだね。魔物の体内で発見されたのと同じ成分だよ。関連があるのは間違いないようだ」


 ティアはすぐにターゲットの胸ぐらをつかんで持ち上げた。


 外見も服装も平凡な男だった。村の真ん中で出会ったら、ただ平凡な村人A程度にしか思わないほど。だが魔物が出没するデリスの森で1人でいるという状況になると、その方がかえって不自然だった。


「くっ……い、いきなり何が……ティア様!?」


「あんた、ガルナンテの人でしょ?」


「何を言ってるんですか! ぼくはただ用事があってちょっと……」


「あんたがさっき落としたあの薬なんだけどね、最近この森の魔物の体内から全く同じ成分が検出されたよ」


「あれはただ怪我の為の薬にすぎません。おかしな意図はありませんよ。まして魔物だなんて、怖くて近寄りもできないんです!」


 男がそう言い張ったが、ティアは鼻で笑うだけだった。


「あのね、どうせ成分なんか綿密に調べたら全部バレるよ?」


「いや、ぼくが何度も……」


 ティアはため息をついた。そして剣を抜いて男の首に向けられた。


「またガルナンテ人の血を剣に塗りたくはないよ。そして思ったより調べなければならないこともまだ多いし。だから協力してもらってほしいんだけどね」


「だ、だから僕はガルナンテ人が……待って。また、ですって?」


「うん。この前、女の子を1人捕まえたんだよ。でも全然協力してくれなくて……情報を聞き出そうとして少し無理してしまったね」


「その人はどう……」


「会わせてあげようかな?」


 ティアはそう言って、剣をもっと近くへ突き付けた。


 ――嘘も上手だね。


 テオは苦笑した。


 今ティアはこの前の少女が死んだというニュアンスを漂わせているが、実際には全然違う。その少女は元気に生きているだけでなく、それなりに協力もしている。


 もちろんテオはその嘘そのものには驚かなかった。そもそも、その少女の死を偽装するのはテオのアイディアだったから。ただ平然と嘘をつきながら、それを脅威の素材に使うことには少し感嘆した。


 一方、男は唇をかみしめてはうめき声を流した。


「くっ……その無能なアマめ、結局やられたのか……」


「その言葉は認めるということで見ていいかな?」


「く……っ」


 男は深く頭を下げた。その姿を見たティアは手を放してくれた。


 だが男の手がそっと後ろに向くのを、テオは見逃さなかった。

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