パート7:不穏な影(1)
テオは正式にティシス討伐会社に入社した。
小隊は一旦ティア小隊に配属されたが、それは臨時。ある程度慣れたら他の小隊に移ることを約束した。
「言葉は移すと言ってましたけど、多分実際にはテオさんが小隊長になって新しい小隊を創立する形になるでしょうね。〝ブラケニア〟であるテオさんを支える小隊長なんてこの国にはないんですから。同じ〝ブラケニア〟である私ならまだしも」
いつかティアがこんなことを言った。
――小隊長か。戦闘はいいとしても、俺が小隊を率いることができるかどうか分からないけど。
……こんな悠長な考えができるのも、実は今になって余裕ができたおかげだった。
先日ビルト小隊とともにジェネラルウルフを討ったデリスの森。今でもテオはそこにいた。多くの魔物の屍を前にして。
今でもっていうか、実はもう1週間目だ。ティア小隊の一員として毎日森を訪れ任務を遂行している。
――なかなか忙しいな。元々こんなに魔物が多いのかな?
ティアに聞いたところでは、特に魔物の種類や強さは変わっていなかったそうだ。ただ好戦性が微妙に増えたようだという意見はあった。魔物が頻繁に現れるのも、その好戦性の増加によって魔物が活発に動き回っているからだと。
――1つの小隊が任務に出る頻度は、3日に1度程度が平均だと聞いた。ところが今は1週間毎日、それも1日で様々な任務を遂行している。明らかにおかしな状況だ。
もしやこれもガルナンテの陰謀なのだろうか。だが前回のジェネラルウルフとは異なり、今のデリスの森は魔物の出現率が高まっただけだ。森を通過する民間人の危険度が高まったものの、魔物が強くなったわけではないので討伐そのものは難しくなかった。
――だからといって数に圧倒されるほど多いわけでもないし。
正直に言うと、今はむしろ魔物狩りで手に入れる素材が増えてきている。デリスの森に集中する為、ティシス討伐会社の余力が足りなくなったが、それなりに得もしている。敵国の陰謀というには何か中途半端だ。
――もしガルナンテ王国の意図が絡んでいるなら、これで終わりではないだろう。何か次の方法があるはずだ。
考えながら指を弾いた。後ろから飛びかかってきたアーマードウルフが不意に現れた剣に貫かれて死んだ。
その死体を見て暫く考えていたテオは手を伸ばした。対象を細胞1つまで精密に調べる〈術法:深部探索〉がアーマードウルフの死体をほじくった。
――やはり別に一般的な個体より強くなったのではない。ただ、少し不慣れな成分があるね。
他の死体も調べたところ、すべて同じ成分が体内にあった。当然だがテオが知っている魔物の身体造成なら、あるはずがない成分だ。というか、そもそもいくつかの物質が任意に組み合わされたのだった。
――あの子が言ってた魔物強化薬……とはちょっと違う薬剤かな。
そんな風に情報を調べていたところ、ティアから術法通信がきた。
[テオさん、聞こえますか?]
[どうした?]
[そろそろ終わったかなと思って。こちらは終わりました]
[俺も終わったよ。合流しようか?]
[はい、指定されたポイントで会いましょう]
収納の術法で魔物の死体をすべて保管した後、テオはすぐに指定されたポイントに向かった。指定されたポイントとはいえ、簡単に言うとデリスの森の外郭でしかない。障害物の多い森の中を平地のように疾走したテオは、すぐそこに到着した。
そこには先に来ていたティアとともにビルト小隊もあった。ティアの小隊員はまだ来ていないようだ。
「お、久しぶりだな」
「やあ。そっちも忙しそうだね」
「まぁそうだな。俺らだけでなく、みんなそうだ。好きな奴もいるが」
「忙しいのが?」
「知ってると思うが、討伐会社で働く討伐者の報酬は決まった給料ではないからな。もちろん最低賃金はあるが、基本的には任務を遂行した分だけ金をもらう。当然忙しくなれば報酬も多くなる」
「あんまり嬉しくなさそうだけど?」
「俺は、まぁな」
ビルトはティアに目線を向けた。するとティアは頷いてテオを見た。
「テオさんもお気づきでしょうけど、今の状況はおかしいです。魔物の出現頻度が目に見えて上がったからです」
「でも特に魔物が強くなったわけではないよ。ただたくさん歩き回るだけ」
「はい、それでちょっとおかしいんです。偶然でもこんなことは初めてだし、もしガルナンテやネルドラのような敵国の陰謀ならただ出現率だけを高めたのが納得できません。もし私が敵国にこんな工作をしたら、前回のジェネラルウルフのように魔物そのものを強化させたでしょう」
「俺もそう思うよ。だからといって数に押されて討伐者がやられるほど多くなったわけでもないし。ちょっと微妙というか」
「もしかしたらティシスの討伐者達を疲れさせるのが目的かも知れない」
ビルトはそう言ったが、ティアは少し微妙な表情をした。
「それも可能性はあるけど、正直意味があるのでしょうか? 確かにうちの会社が忙しくなったのは確かですけど、その代わり魔物の素材も大量に入ってきています。プラスマイナスでいえばゼロ……いや、むしろプラスと言ってもいいくらいですよ」
「それはそうだな。毎日出撃してるが、夜勤を多くするほどではないからな」
「あ、そういえばね。魔物の死体から妙な成分を見つけたよ」
テオが言うと2人の目線が彼に集中した。
「妙な成分ですか?」
「ん。何なのかはまだ分からないけど、色んな物質を組み合わせて作り出した薬みたいだよ。今日俺が狩りをした魔物には全部いた」
「薬……やっぱり最近のことは人為的なものでした?」
「調べてみれば分かるね。ところでティア、もしかして今回のことについてお前の加護で調べる方法はない?」
「私の加護……ですか。私の加護は事件の原因を教えてくれません。けど……」
ティアはテオの言葉を聞いて何かを思い出したらしく、どこか自信満々に微笑んだ。
「犯人が誰なのか突き止められそうですね」
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