パート6:認め(5)
テオは苦笑した。
「とにかくお前の事情は分かった。で、ガルナンテの総司令官は何が目的?」
「……はぁ。ここ本当に通信遮断されるんだよね?」
テオは返事の代わりにティアを見た。ティアは小さく頷いて、少女に目をそらしては口を開いた。
「〝ブラケニア〟としての私の名声と名誉の全てをかけて誓うよ。今、この中の状況がガルナンテの総司令官に伝えられることはない」
テオはともかく、すでにエルバニアやガルナンテでは有名な人物であるティアの保証。それくらいになると少女も信じてもいいという気がしたのか、ため息をつきながらも再び口を開いた。
「元々私の任務はエルバニア王国の動向を探り続けることだったよ。……といっても、実質的にやることはティアキエル、あんたを監視することだったけどね。どうせあんたさえいなければこの国は大したことないから」
「ふん。それで?」
「……するうちにあんた達二人が接触したのを見たよ。そして、この男が〝ブラケニア〟だってことを知ったんだ。それを報告した時のあいつの顔はかなり面白かったよ」
少女は微笑んだ。すぐに消えたが、それは嘲笑だった。誰に向けた嘲笑なのかは明らかだった。
「その後に魔物を強化する薬をもらった。それを利用して新しい〝ブラケニア〟の強さを測定しろ、って命令だったね。その後は懐柔の為に接触してみろという話もあったよ」
「懐柔がダメなら暗殺でもしろって言った?」
少女は苦笑した。
「私に〝ブラケニア〟を暗殺するほどの力はないよ。あいつもそんな期待は全然しないしね」
「でも失敗したらお前を捨てるつもりで無謀な命令を出したりもすると思うけど。違う?」
「……それは……そんな奴ではあるけど」
――まだそんな命令は受けていない、か。
「とにかく事情は分かった。人質達がどこにいるのか……はお前に知らせてくれるはずがないか。とにかく、それはこっちで探して救ってくれればいいんだよね?」
「あ……え?」
少女は一瞬、何を言われたのか分からないように目をぱちぱちさせた。
無理もないだろう。テオは平気で言ったが、その言葉は少女の大切な人達をテオが救ってくれると言ったのだから。
でもテオはただ穏やかに微笑むだけで、ティアは全然驚かない様子だった。
「何の……意味?」
「お前が無理に命令を受けるのは結局あの子達のせいじゃない? あの子達だけ救ったら、もうその必要はないだろうね?」
「そ、それはそうだけど、なんであんたがそうしてくれるよ?」
「可哀想だからね」
少女は暫くぽかんとしていた。だがそれはつかの間のことであり、すぐに眉間が歪んで怒りの声が出た。
「何の変な陰謀を企んでいるのか分からないけど、そんなことで私を懐柔するつもりなら……」
「別にそんな不思議な意図はないよ。まぁ、やってほしいことがあるんだけどね」
「ふん、やっぱり怪しい意図があるんだね?」
「とりあえず聞いて決めてよ」
テオは笑って考えを話した。それを聞いていた少女はすぐに目を大きく開けた。
***
「やっぱりテオさんですね」
「うん? どういう意味?」
テオは歩きながら首をかしげた。
少女の尋問が終わった後、テオとティアは少女を残して部屋から出てきた。そして廊下を歩いていたが、その途中で急にティアがそう言い出したのだ。
ティアは彼に向かって微笑んだ。
「自然に人質を救おうとするなんて、私、正直驚いましたよ?」
「可哀想じゃん。そのくらいは当然だよ」
「敵国のスパイですよ? 甚だしくはその工作活動のせいでビルトさんは一度危機に陥ったんですし」
「自分が望んだことではないだろ。むしろ司令官に脅されていたから、あいつも被害者だよ。なに? 気に入らなかった?」
「いいえ、その逆ですよ」
ティアは上を見上げた。
見えるものといえば、平凡な廊下の天井だけだった。しかし、彼女が天井を見ようと顔を上げたのではないことぐらいはテオも知っていた。
「あの空の向こう……かはよく分かりませんけど、転生の時テオさんに会った時から優しい方だと思いました」
「ん? なんで?」
「あの時私に何と仰ったか覚えていますか?」
もちろん覚えている。
当時の彼にとってティアは転生者の1人に過ぎなかった。当時の会話で特別なことも何もなかった。人間ならそんな人との対話を特別に覚えることは難しいだろう。
しかし、テオは名実共に神。その記憶力は人間などとは違う。
「ふふっ。表情から見れば、覚えておられるようですね。……あの時私に仰いましたね? 〝前世は不幸だったから今度はしたいことをしながら楽しく過ごしてね〟と」
「そうだったよね。そしてお前はこう答えたんだね? 〝私が悪人になったらどうするつもりなんですか?〟と」
「そしてテオさんが仰いました。〝そんな奴は初めから転生させないよ〟」
他にもその時ティアは目的も意図もない転生に疑問を抱きながら質問をいくつかした。テオはただ素直に答えた。
広い次元の中にはこの世界以外にも多くの世界がある。そして世界同士に魂を循環させることが世界をもっと成長させる。詳しい原理や背景は複雑で説明しなかったが、結局要点は魂を転生させる行為そのものが重要だということ。転生した魂が何をするかは考慮しない。
「あの時私は感じました。テオさんは転生した魂がこの世界の人々に迷惑をかけることも、不幸だった人が再び不幸な人生を生きるのも嫌だと」
「それで俺が優しいと思ったってこと?」
「はい。そしてあの子の大切な子達を救ってあげようとするのを見て確信しました。やっぱりテオさんは優しい方だって」
「……ふふ、さぁね。いい評価をするのはいいけど、俺だってそんな人好しじゃないよ。あの子の歓心を買うのが俺の目的にもそれなりに役に立つからだよ」
「でもその根幹には優しさがあるでしょうね?」
――あ、これは何と言っても聞かない流れだな。
テオは肩をすくめただけだった。
自分で言った通り、少女を歓心を得ること自体が彼の意図だった。その点では、そんな行動をただ優しさで包装するのは多少抵抗があった。
――それでも悪いことをするつもりはないので、間違っているとは言えないだろう。
テオは苦笑して考えをまとめた。
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