パート6:認め(4)
「よし、じゃあ早速1つ聞いてみるよ。上官を憎む理由は何?」
「……最初からそれ? あんた、かなり無神経だね」
「気になってね。敵国に潜入して諜報活動や工作をするのは安全で楽なことじゃないだろ? そんなことを憎む人の命令を受けてする理由が知りたくてね。職業上の上下関係以上に何かがある感じがしたんだよ」
「……」
少女はうつむいて唇をかんだ。
なかなか敏感な問題だということは、態度から見ても分かった。だがテオは何も言わずに待っていた。少なくとも返事する気が全然ないようではなかったから。
やがて少女が再び口を開いた。
「……私がもしそれを教えるとしても」
少女は顔を上げてテオを睨み付けた。
しかし、今回その目線に込められたのは敵愾心ではなかった。いや、正確にはテオに向けたのではなかった。恐らく自分の上官を思い出したのだろう。
「あんた達が何をしてくれるよ? 私にそれを言うメリットでもある? どうせあんた達に必要なのはガルナンテの情報だけだと思うけど?」
「個人的な関心だよ」
テオはきっぱりと言った。
「上官を憎んでいて、ガルナンテ王国を特別によく思うわけでもなかった。でもお前はさっきまで情報漏洩を拒否していたよね」
「それを利用すれば何とかできると思った?」
「お前は何が怖いんだ?」
テオがそう言った瞬間、少女の目が再び鋭くなった。それでもテオは言葉を止めなかった。
「返事を拒否する時のお前の感情は恐れ、そしてちょっとだけの憎しみだったよ。恐らくその憎しみは上官に向けられたのだろね。もしお前が情報を漏らしたら、お前が憎む上官が何かをするだろ。そしてお前はそれを恐れてるんだし。答えられることはすると言ったけど、それも実は適当に偽情報で騙すつもりだったね? ……的を射たね」
「……そう思うなら、なんでずっと私に情報を探ろうとしてるよ?」
「念の為に言っておくけど、この部屋は許可されていない通信を全部遮断するようになっているよ。もしお前が見て聞くことを他の所に転送する魔法や魔法具を使っていても、ここでは通じないよ」
「……」
少女は再びうつむいた。
テオの言葉が本当かどうか考えているのか。表情は見えなかったが、テオは静かに笑って彼女がまた口を開けるのを待った。
やがて少女はため息をつくと、また頭を上げた。
「私には大切な子達がいるよ」
「人質?」
「……私、あんた本当に嫌い。大嫌い」
「ごめん。でも大事なんだから。上官が大切な子達を人質にし、お前はそのせいで命令を受けるべきだった。そのように理解すれば良い?」
「上官と言うなよ。そのクソ野郎を私の上官だと思ったことは1度もないから」
すでに1度話のきっかけを作ったおかげだろうか。少女は少しためらうように目が揺れながらも口だけは止めず、しきりに言い続けた。
「そもそも私は貧民街出身だった。大切な子達というのも、その時期から一緒に通った子達だよ。私達はそれなりにお互い支え合いながら生きていたけど……その野郎に捕まった時から人生がめちゃくちゃに拗れたんだよ」
「お前が情報を漏らしたらあの子達をやっつけるという脅迫でも受けたようだね。それで? その野郎って誰?」
「……ここ、本当に通信遮断される? ……。……いや、どうせ意味がないんだね。私が捕まった時点で、その野郎も勝手に判断を下したはずだから。……ガルナンテ王国軍の総司令官だよ。私を勝手にこき使った奴」
すると少女はテオの目を再び睨み付けた。さっきのような敵愾心とは違う感じだったが、かなり警戒した様子は感じられた。
「私の話は全部したと思うけど。あんたも答えてくれる? 一体どうやって私の事情をそんなにずっと暴いたよ? 別に大事なことじゃないけど、知りたくて仕方ないんだ」
「感情を読んだだけだよ」
「……は?」
テオの言葉に少女はもちろん、ティアさえも予想できなかったかのように目を見開いた。
――まぁ、驚くに値するね。
感情や考えを読み取る魔法はこの世界では存在しない。記憶を無理やり掘り出すことはあって、それを応用すれば似たようなことは可能だが、リアルタイムで考えを読み取る魔法は存在しない。
ティアがそれを口にすると、テオは頷いてにやりと笑った。
「そうそう、そんな魔法はないよ。……魔法は、ね。それ知ってる? 人間の魔力には感情によって決まった波動があるよ」
「感情による波動……? それは何ですか?」
「簡単に言えば、魔力が流れるパターンは感情ごとに決まっている。とても微弱で複雑な違いだから普通の人は分からないけど、それを見ることができれば魔力を見るだけで感情を全部読み取れるんだ」
それがテオが創造神として持った利点。
彼は世界のことをちゃんと観察していなかった。その為、世界中で起きた出来事や社会構造の変化、文明の発展の方向性などは分からない。しかし、世界が持つ法則や根本的な原理などは誰よりもよく知っている。それらは神として彼自身が作り上げたものだから。
そんな彼だからこそ、感情による魔力のパターンを観察するだけでも対象の感情を余すところなく暴くことができる。
「実は机に置いたこれ、何の意味もないよ。ただこんなのを出した時、相手がどれほどこれに気を使うかによって感情的なのかを調べる手段なんだ。もし本当に心が氷のような人ならこの方法を使うのは難しいから。途中で2つ取り出したのも、お前を動揺させる為のブラフにすぎないよ」
「そ、それじゃあ質問をしながら勝手に答え出したのは……」
「俺なりに推測したことを話しながら、お前が各キーワードに対してどう反応するのかを読み取ったんだよ。……こんなこと言うのはすまないけど、お前はもっと本音を隠して平静を保つ方法を身につけた方がいいと思うよ」
少女は恥ずかしさと悔しさで顔を赤らめた。
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