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パート6:認め(3)

「テオさん? でも……」


「お願いよ。やってみてダメならまたお前に任せるから」


「……分かりました」


 ティアは素直に退いてくれた。


 テオは少女の正面に座った。そして少女に向かって笑って見せたが、少女はまだ敵意を抱いていた。


 テオは収納の術法から小さな玉のついた魔法具を取り出した。そしてそれを机の真ん中に置き、口を開いた。


「お前、名前は?」


「……」


「どこから来た?」


「……」


「ガルナンテ王国ですよ」


 ティアが代わりに答えた瞬間、少女がティアをじろりと睨んだ。だがティアの冷ややかな目線を浴び、舌打ちをした。


「勝手に鎌を掛けるなよ」


「私を騙せると思う? 私の加護をよく知らないみたいね?」


「ティア、ちょっと」


「……はい」


 テオは暫く黙って少女の目を眺めた。少女は相変わらず敵対的な目でその目線に立ち向かったが、テオはずっと黙って見ているとすぐに舌を鳴らして目をそらした。


 その瞬間、テオは微笑んだ。


「ガルナンテ王国はこの国の周辺の魔物を強化して何をするつもり?」


「……ふん、とんでもないよ。そんな手段があったら早くから……」


「それで? お前が見るには私はどう?」


「何を……」


「俺を観察していたんだろね? この国に新しく現れた〝ブラケニア〟を。ティアという〝ブラケニア〟のせいで1度野望が砕けたから、〝ブラケニア〟がもう1人増えるのはお前達も望まないから」


 少女は口をつぐんだ。だがテオは少女の眉間がほんの少し歪んでいるのを逃さなかった。


「多分そのジェネラルウルフ程度で〝ブラケニア〟を殺せるとは思わなかっただろ。目的は偵察かな? お前達は何を望んでるんだ? 俺を懐柔すること? それとも追い出すこと? ……とりあえず懐柔の方に重みがあるようだね」


「……!」


「お前は誰から命令されたんだ? 組織? 国? ……王? 軍人? ……軍人の方らしいね。お前も祖国をかなり愛するんだね。……うん? 違う?」


「……ちょっと!! さっきから一体何よ!? 1人であれこれ勝手に……!」


 少女がカッとなって叫んだが、テオはふてぶてしく笑いながら肩をすくめた。


「さぁね。ただお前がポーカーフェースをしないからじゃない?」


「ふざけないで!」


 少女はハッと魔法具を見た。最初と外見上は何の違いもなかった。別に魔力も感じられなかった。しかし、この場で怪しいのはそれしかなかった。


「この魔法具……!」


 ……でも拘束された少女としては魔法具に触れる方法自体がない。


「質問続けるよ」


「ふん。何度も言ったはずなのに。私は何も……」


「大丈夫。お前は聞けていればいいから」


 テオはにやりと笑いながら指をパッチンと鳴らした。すると収納術法の術式陣が展開され、今机の上にあるのと同じ魔法具がもう2つ飛び出した。


「お前、最近この国に来た? ……違うか。じゃ、前から潜入して情報を盗み出していた? ……ふむ、そうなんだ」


「お、お前は一体何だよ!」


「俺? テオだよ」


「誰がそんなことなんかを聞いたよ!?」


「整理をしてみようか」


 テオは大声を出す少女を無視し、頭の中で言葉を組み立てた。得た情報を1つに集め、どうすればそれを効果的に再確認できるか悩みながら。


 彼が再び口を開くまで、時間はかからなかった。


「お前はガルナンテのスパイとしてこの国の情報を収集した。そんな中、この国に新たな〝ブラケニア〟……つまり俺が現れたんだ。そのことを伝えられた本国からジェネラルウルフを何らかの手段で強化し、それを利用して俺を観察しろという任務を、君に与えたんだね。……大体これくらいかな?」


 少女は何も言わなかった。ただ唇をかみしめただけ。しかし、テオはそんな彼女を見て微笑んだ。


「よし、ここまでは間違いないようだね。一応もう1つ聞いて見るよ」


「……1人で何の戯言を言ってるのか分からないけど、鎌をかけるのはほどほどに……」


「お前、この仕事をお前にさせた上官が憎い?」


 その瞬間。


 椅子が荒く倒れる音が響き渡り、少女は真っ白な顔で立ち上がっていた。


 その目線はテオの顔にだけ集中していた。腕は拘束されていて動けなかったが、もし動けたなら指差しでもしそうな気配だった。


「一体……一体お前は何なんだよ? どうやって……」


「正直に答えたら教えてあげるよ」


「っ……そんな誘導は通じないよ!」


「それで? お前は何でお前の上官を憎むんだ?」


 その辺になると、少女は泣きべそをかいてティアを見た。表情だけ見ても「こいつ言葉が通じない」という考えが丸見えだった。しかし、今だけはティアも驚いたような目でテオを見るだけだった。


「ふむ、憎悪する上官の命令に従う、か。何か分からないけど、かなり重い事情が絡んでいそうだね。では……」


「一体……一体お前は何なんだよ?」


「答えは1つもしないくせに同じ質問だけ3回目だなんて、ちょっと卑怯じゃない?」


 テオはそう言ったが、少女が泣きべそをかいてうつむいたのを見て苦笑した。


「分かった、分かった。俺がひどすぎたよ。あまりそうしないでよ」


「私も正直気になりますね。一体何をどうなさったんですか?」


 ティアが少女の代わりにそう聞いた。だがテオは首を横に振った。


「ごめん、尋問が終わったら答えるよ。その代わり、今から正直に質問に答えるならお前にも教えてあげる」


 そう言って厳しい目線を送るテオを、少女は怪物を見るような目で見た。だがテオは口をぎゅっとつぐんだまま、少女の返事をただ待つだけだった。


「……あえて私の口から直接情報を聞こうと努める必要はなさそうだけど」


「意外にそうでもないよ。それにこのやり方は今みたいに相手を不愉快にさせるから。お前が協力してくれるなら俺も善処してあげるよ」


「……。……分かった。答えられることは話すよ」


 結局、少女が先に降参した。

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