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パート6:認め(2)

「はい、何ですか?」


「今回のジェネラルウルフ、ちょっと変だと思ったよ。通常よりおかしなほど強いと言うか。もしかして心当たりない?」


「……ちょうどそれに関して話があるんです」


 ティアの表情はすぐに真剣になった。雰囲気が変わったことを感じたテオも少し緊張した。


 しかし、その後に出た言葉は少し予想外だった。


「テオさんとビルト小隊が戦っている間、それを見守る人がいました」


「……ちょうど俺も何か怪しい目線を感じてはいたんだけど」


「たぶん同一人物だと思いますよ。すでに私が捕まえて本社に押し込んでおいたんです。今頃尋問中でしょう」


 ――うわぁ、もう? 早いね。


 率直に感心したテオだったが、すぐ首を傾げた。


 ――討伐会社で怪しい人物に対する調査までするのか?


 表情から疑問を感じたらしく、ティアは再び口を開いた。


「そもそもは討伐会社がやるほどの仕事じゃないんですよ。でもこの国は国力が弱すぎて少し関係が特殊で……私達が直接逮捕した者はある程度調査する権限があります。……っていうより、調査の義務を引き受けてしまったことに近いのですけど」


「……この国、知れば知るほどますます心配になるけどね」


「その気持ちは分かります。でも故郷を愛する気持ちというのは、打算だけでなくなるものじゃないんですから」


 ティアは微笑んでそう言った。


 暖かく、ちょっと誇らしげな微笑。弱い祖国を恥じる気持ちなど毛頭なかった。むしろその微笑から誇りさえ感じられた。もしかするとそんな故郷を守れる自分が誇らしい気持ちも少しはあるのではないか。


 その時、ティアの表情が少し暗くなった。


「……もしこの国を離れたいのでしたら、つかまえることはしません」


「え?」


「この国が部外者が定着するのに魅力的な国ではないということは知っていますよ。この世界の神様であるテオさんが、こんな小さくて弱い国にとどまる必要はありませんでしょう」


「俺が去っても大丈夫?」


「そんなはずないでしょう。でも私の望みでテオさんを捕まえておくほど利己的ではありませんよ」


 恐らくこれは本気だろう。


 それでテオは苦笑いしながらティアの頭に手を置いた。するとティアは少し当惑した顔で彼を見上げた。


「て、テオさん?」


「偉いね、お前は」


 法的には大人。だが少し前に大人になっただけだ。しかもこの前ビルトから聞いた話によると、ティアは子供の頃すでに戦場に立った経験があった。その後どんな人生を生きてきたかまでは分からないが、恐らく順調な人生ではなかっただろう。


 ――まだ甘えてもいい子供にはとても重荷が重いじゃないかよ。


 能力的には可能だとしても、心理的にはそうではないかも知れない。もしかしたらビルトもティアのこんな面が分かるので心配したのかも知れない。


 ――少なくともこの子が今までしてきた努力は認めざるを得ない。


「心配するなよ。今はお前を置いて他の所に行ってしまうつもりはないから。お前の……心に答えてくれるかはまだよく分からないけど、少なくともお前を放置するつもりはないよ」


「テオさん……」


 ティアは両手で自分の頭のテオの手を握った。うつむいたせいで表情は見えなかった。ただ手を握った手から伝わる力だけがかすかに彼女の感情を表していた。


 その時間もそう長くはなかった。


「ありがとうございます」


 それを言って頭を上げた時、ティアの顔はすっかり平常の表情に戻っていた。


「おかげさまで元気が出てきました。実は最近少し疲れてたんですよ」


「仕事が多いからかな? これ俺が早く独立して負担を減らしてくれなければならないな」


「いいえ、私の傍から活力をください。できれば永遠に」


「はは……考えてみるよ」


 ――これから何の彼のと大変だろうな。


 テオは苦笑した。


 ――でも悪い気分じゃない。


 


 ***


 


 ドアが開く。


 ティシス討伐会社の本部ビルの中にある部屋。暗くてじめじめした部屋……ではない。普通に明るく、普通に机と椅子がある部屋だった。


 そんな部屋に入ってきた人はティアとテオ。そしてその前から部屋にいたのは1人だけだった。


 その1人は腕を拘束されたまま椅子に座っていた少女だった。黒い髪と黒い瞳、そして服装まで全部黒い一色で、肌だけが真逆に真っ白な少女だった。


 その少女は部屋に入ってきたティアを見るやいなや緊張したように表情を固くした。


「また何? 今度こそ拷問でもするつもり?」


「あんた、今まで何も話してないって聞いたけど」


「ふん。情報を得ようとしても無駄だよ」


 少女は少し疲れたようだったが、それでも目つきだけは依然として生きていた。その姿にティアは眉を顰めた。


「私の前で秘密を守れると思う?」


「……ふん。あの名声を博したティアキエルなら、私の秘密を聞き出すくらいは何でもないだろね。そのくらいは私も知っているよ。でも私の口では絶対に話さない」


「面倒なことにしないでほしいのだけど」


 ティアはいきなり剣を抜いて、少女の目の前に突き刺した。あまりに急だったので少女がびっくりする余裕さえなかった。


 少し遅れて少女の頬に冷や汗が流れたが、それでも少女はむしろ挑発するように微笑んだ。


「拷問や脅迫でもするつもり? それが通じると思う?」


「さぁね。通じるかどうかはやってみれば分かるよ」


 ティアは剣の取っ手を握る手に力を入れて冷たく笑った。


 でも彼女が剣を動かす直前、テオは彼女の肩に手を置いた。


「ティア、待って」


「テオさん? どうしたんですか?」


 テオは少女を見た。


 少女もテオの目線に正面から立ち向かったが、その目つきはティアを見た時と同様に敵対していた。敵愾心以外の感情を読み取ることもできなかった。


 だがテオは彼女の魔力が動揺するのがどうしても気になった。それで割り込むことにした。


「ちょっと俺に任せてくれる?」

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